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戦国異伝

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第九十二話 凱旋の後その五


「よいことでありますな」
「それはその通りじゃ。実によいことじゃ」
 村井も笑みになっていた。一連の戦を終え近畿をほぼ手中に収めた織田家の軍勢は都の大路を胸を張って進んだ。その青い軍勢は御所から義昭も見ていた。
 その義昭は御所の己の間に戻ってからだ。己の家臣達に満面の笑顔でこんなことを言ったのだった。
「見たか、織田のあの軍勢を」
「はい、都に戻りさらに増えておりますな」
「倍以上になっております」
 幕臣達もこう義昭に答える。
「いや、あれは実にです」
「凄いことになっておりますな」
「全くじゃ。あの者は戦に勝ったのじゃ」 
 義昭は我がことの様に上機嫌で話す。
「実によいことじゃ」
「三好は四国に逃れた様です」
「最早近畿はおりませぬ」
「ふむ。では幕府はもう安泰じゃな」
 その話を聞いてだ。満足した顔で言う義昭だった。
「三好が来ることはないな」
「ですな。それではです」
「幕府を攻める者もおりませぬな」
 幕臣達も安心していた。だが、だった。
 ここで幕臣の一人がだ。考える顔になり義昭にこんなことを言ったのだった。
「ですが。ここに明智殿達がおりませぬな」
「むっ、そのことか」
「織田家の中におられますな」
「それは仕方なかろう」
 そのことについてはだ。義昭は実に素っ気無く答えたのだった。
「戦に出ておったのじゃからな」
「織田家の援軍としてですな」
「そうじゃ。それでは仕方あるまい」
 このことは特に構わないというのだ。それどころか義昭は鷹揚にこんなことを幕臣達に言った。
「それ以上にじゃ」
「それ以上にといいますと」
「それは一体」
「うむ、あの者達は丹波で活躍したのじゃな」
 義昭が今言うのはこのことだった。
「そうじゃな」
「それはその様です」 
 幕臣の一人が義昭の今の問いにすぐに答えた。
「丹波の波多野氏を一戦も交えることなく見事に引き入れたとのことです」
「それじゃ。まことに見事じゃ。余も鼻が高いぞ」
 幕臣がそれだけの功を挙げたことをだ。義昭は素直に喜んでいるのだ。
 そのうえでだ。こうも言うのだった。
「だからじゃ」
「左様ですか。それでは」
「素直にお褒めの言葉を」
「出すぞ。それでじゃ」
 義昭は上機嫌なままさらに言う。
「織田家の戦に加わり功を挙げればじゃ」
「褒美をですか」
「出されますか」
「幕府から出すだけではない」
 義昭は無意識のうちに幕府のその懐具合も頭に入れて言った。それはお世辞にもいいものではない。むしろかなり危うく乏しいものである。
 それ故にだ。彼は言うのだった。
「織田家から貰ってもよいぞ」
「では我等もですか」
「織田家の戦に加わり褒美を貰ってもいいのですか」
「そうだと仰いますか」
「うむ、よいぞ」
 義昭はさらに鷹揚に述べていく。
「織田信長は最早幕府の第一の臣じゃ。織田家は幕府と同じじゃ」
「同じですか」
「それ故に」
「織田信長の褒美は幕府の褒美ぞ」
 義昭としては褒美が出せなかったのだ。最早幕府の力はそこまで弱まっていた。とにかく懐には何もない。それではどうしてもだった。
 織田家にその褒美を任せることにしたのだ。これは幕府の今の状況を考えれば致し方のないことでもあった。そのうえでの言葉だったのだ。
「よいな。そうすればじゃ」
「はい、それでは我等も」
「織田家に加わりそのうえで」
「頑張らせてもらいます」
「そうせよ。さて」 
 ここまで話してだ。義昭は満足そうな顔のまま幕臣達にさらに言った。 
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