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戦国異伝

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第九十二話 凱旋の後その三


 そしてその見事な馬の鞍からだ。都の民達に手を振って言うのだった。
「はっはっは、このだいふへんものも帰ったぞ」
「何と、大武辺者とな」
「また大きく出たのう」
「何ということを言うのじゃ」
 そのだいふへんものを武辺と思いだ。都の民達はまずは驚いた。
 しかし慶次はその彼等に笑ったままこう返した。
「いやいや、わしは武辺ではないぞ」
「では何じゃ?」
「何というのじゃ?」
「大不便者じゃ」
 それだというのだ。
「戦場以外では何の役にも立たぬ。まさに大不便者じゃ」
「おお、それを自分から言うか」
「またこれは面白い」
「傾くか」
「左様、算盤も使わぬぞ」
 算盤を学びだしている叔父のことも言うのであった。
「いやいや、こんな不便者はおらんぞ」
「御主はそもそも政とかを学ばんだけじゃ」
 その慶次にだ。金森が顰めさせた顔で言った。
「全く。槍と風流だけか興味があるのは」
「どうも好きなこと意外はできませぬ」
「だからだというのか」
「そうです。それがしは不便者でございます」
「政も学べば出来るぞ」
「しかし学ぶ気がそもそもありませぬ」
「それでか。今もか」
「はい、不便者を貫きまする」
 その大きな口を開いて笑いながらだ。慶次は金森にも話す。
 そしてそのうえでだ。こんなことも言うのだった。
「では。岐阜に帰ればその時は」
「平手殿に悪戯をするか」
「平手殿の小言も聞かぬと寂しいものですな」
「おられたらおられたでまた厳しいぞ」
 それが平手だ。信長ですら彼は苦手だ。
 そして慶次にとってはだ。彼の存在は。
「頑固な父親じゃぞ、まさにな」
「それがしの父上よりまだ恐ろしいですな」
「御主そもそもこれまで何回殴られた」
「五つの時に平手殿の寝ておられるところに落書きをしまして」
「顔にじゃな」
「そして起きた時にです」
 まさにだ。どうなったかというとだった。
「その右の拳で思いきり頭を」
「がつんとやられたか」
「今と変わらぬ痛さでございました」
 つまり拳の威力はかなりのものだったというのだ。
「いや、まことに」
「衰えぬ平手殿も凄いがのう」
「それがしもですか」
「子供の頃から変わってはおらぬのか」
「悪戯はそれがしの生きがいでございます」
「又左に殴られてもするのじゃな」
「平手殿も権六殿も叔父御もどうも頭が硬いですな」
 慶次は笑いながらその前田、彼の前にいる叔父も見たのだった。
「ほんの些細な悪戯で顔を真っ赤にされるなぞ」
「平手殿のお顔に落書きのう」
「子供の悪戯ですぞ。この上洛も前もしましたが」
「それでか。出陣の前の日に平手殿に追われていったのは」
「あの後で跳び蹴りを受けました」
「全く。よくそれで済んだものじゃ」
 金森も呆れることだった。このことは。
「平手殿にそんなことをすれば普段はもっと酷いぞ」
「はい、頭を木刀で打たれたこともあります」
 慶次以外なら死にかねない。
「痛かったですな」
「それはそうであろうな」
「全く。冗談が通じぬ方です」
「いや、御主はわかってやっておろう」
 極めて冷静にだ。金森はその慶次にまた突っ込みを入れた。
「そうであろう」
「悪戯はそういうものですが」
「幾つになってもそれをやるか」
「これもまた傾奇と思います」
「やれやれじゃな。まあとにかくこの度の戦は終わった」
 金森はこのことはよしとした。 
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