戦国異伝
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第九十話 堺衆その十二
「あの石山寺だけではありませんから」
「門徒もおるしのう」
「あの者達は急に蟻の様に出て来ます」
そして襲い掛かって来るというのだ。
「その一向宗と揉めることはです」
「そのまま我等にとって仇となるのう」
「はい、ですから」
「そうじゃな。できればじゃな」
「戦わぬが吉かと」
「わかった。して今度は堺のことじゃが」
信長は話題を変えてきた。今度はこの町のことだ。
この町のことについてはだ。この二人を話題に出した。
「して猿とじゃ」
「松永弾正ですか」
「あの二人を送って正解だったじゃろう。どうじゃ」
「猿はともかく松永弾正だけはどうかと思いますが」
今でもだとだ。信行は彼については顔を顰めさせて言葉を返した。
「全く以て」
「厳しいのう」
「いえ、それがしだけではありませぬが」
信行はあえて口を尖らせてきた兄にだ。さらに言う。
「家臣の者達も殆どが」
「猿だけかのう」
「後は。慶次位でしょう」
天下一の傾奇者であるだ。この者位だというのだ。
「あの者を見て何も思わぬのは」
「二人と。そしてか」
「兄上だけです。兄上は何故なのでしょうか」
兄を見てだ。信行はその兄に問うた。
「あの者を用いられるのですか。天下の奸賊を」
「だからじゃ。面白いからじゃ」
「面白いからといって蠍を傍に置けば」
「刺されるというのじゃな」
「無論その様なことはさせませんが」
松永に勝手は許さないとだ。信行も固く誓っていた。
「ですがそれでも。あの者はおそらく」
「わしの寝首を掻くつもりというのじゃな」
「そうとしか思えませぬ」
「何、わしの目はわかっておろう」
「だからこそ余計にわからぬのです」
信長はその者を一目見てすぐにその者がどういった者か見抜く。それにより何かに秀でており裏切らぬ者を用いているのだ。そうしているのだ。
それ故にだ。彼は言うのだった。
「まさに背中から刺されても」
「わしとて刺されるつもりはないがな」
「遊んでおられるのですか?」
伊達に幼い頃より供にいる訳ではない。信行も信長のことはよくわかっていた。そのうえでだ。彼は信長に対してさらに言ったのだった。
「まさかと思いますが」
「あ奴を傍に置いてというのじゃな」
「兄上は昔から遊び好きでしたから」
「そう見るのじゃな」
「違いますか、それは」
「わしは思うのじゃ。あ奴は何か持っておる」
「何かとは?」
信行はその言葉を聞きさらに問うた。
「それは」
「それを見極めたいのじゃ」
だからだというのだった。
「何を持っておるのかのう」
「左様ですか。ただ」
「ただ。何じゃ」
「あの者。どうにも怪しいものを持っています」
信行は怪訝な顔になって述べた。松永のことを思い出しながら。
「あの津々木と何か」
「?あ奴と似ておるか」
「気のせいだと思いますが」
だがそれでもだ。感じるというのだ。これが信行の見たところだった。
「あの闇の衣の男と」
「ふむ。あ奴か」
「兄上はどう思われますか。似ておりますか」
「少し見ておきたい。見極めるとする」
信長は真剣な顔になって弟に述べた。
「あ奴もな」
「一刻も早く斬るべきですが」
「まあ少しだけ見ておく」
こう言ってだ。そのうえでだった。
信長は松永を見ていくのだった。だが信行達は彼への警戒の念を緩めてはいなかった。そしてそのうえでだ。織田家の面々はその本陣に利休を迎え入れるのだった。
第九十話 完
2012・5・6
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