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戦国異伝

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第八十九話 矢銭その七


 その彼を見てもだ。松永は余裕の顔で言うのだった。
「ははは、また危うい目じゃのう」
「私も貴殿のことを好きではない」
 まさにだ。一歩も引かない目での言葉だった。
「わかっているな。何かあれば」
「ははは、わしを斬るというのか」
「その首を狙う」
 つまりだ。一撃でだというのだ。
「覚悟しておけ」
「言うのう。しかし安心せよ」
「蠍を前にして何を安心するのだ」
「わしはこれまでのわしと違うぞ」
 実に平然としてだ。松永は馬上で言う。既に羽柴とヨハネスも馬上にいる。三騎になっていた。松永はその馬上で二人に話しているのである。
「それに誰もがじゃ」
「誰もが。何だ」
「わしを誤解しておる。残念なことじゃ」
「何を誤解するというのだ」
 ヨハネスの目はいよいよ鋭くなる。
「貴殿の何をだ」
「まあよいではないか」
 ヨハネスはまだ言おうとする。しかしだ。
 その彼と松永の間に入る形で羽柴が入って来た。そうしてこう言ってきたのだ。
「松永殿も悪気はないのじゃ」
「悪気はないというのか」
「そうじゃ。だからよいではないか」
「そうだと思うのか」
「そうじゃ。とにかく今は松永殿を信じてじゃ」
 羽柴だけがこう言っていた。そのうえでだった。
 彼は松永にだ。こんなことを話した。
「では松永殿、堺の町衆とこれからですな」
「左様、しかし羽柴殿は」
「何ですかな」
「堺に行かれたことがあったと思うが」
「はい、一度殿の御供で」
「その時どう思われたか」
 羽柴が堺に行ったことがあると聞いてだ。松永はこう問い返した。
「堺について」
「賑やかですな。それに様々な者がいますな」
「他には」
「町衆の力が強い。そして侍がいない」
「侍はいても浪人を雇っているだけじゃな」
「そうですな。まさにそれだけです」
 少なくとも侍が治めている町ではないのだ。堺は。
「随分と変わっておりまする」
「そう、町衆の町じゃ」
「それが堺ですな」
「その堺を味方につけるにはどうするのか」
 このことをだ。松永は話した。
「それをこれから見てもらう」
「ですか。それでは」
「堺に向かうとしよう」
 あらためて言う松永だった。
「町衆と会おうぞ」
「その町衆の中で力があるのは」
「今井という者に津田という者」
 まずはこの二人の名前が出た。
「それに茶人でもある」
「茶人?」
「千利休という」
 この者もいるというのだ。堺にはだ。
「こうした名前はその時は聞かれなかったか」
「町や港を見ることに忙しく」
 そこまではだというのだ。
「見ませんでした」
「なら会うといい」
 それならばだとだ。こう返す松永だった。
「その三人、特に」
「千利休ですな」
「あの者は凄い」
 松永は唸る様に述べた。その千利休に対して。 
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