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戦国異伝

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第八十九話 矢銭その四


 羽柴以外の家臣達が一斉にだ。咎める顔でこう信長に言ってきたのだった。
「あの、殿それはです」
「幾ら何でも危険です」
「この男に大事を任せてはなりませぬ」
「それだけはなりません」
 こう言ってだ。信長に再考を求めたのだ。
「勘十郎様に行って頂けばどうでしょうか」
「少なくともこの男は信用できませぬ」
「まだ三好におるのではないですか?」
 こんなことを言う者もいた。見れば筒井だった。彼の宿敵だった。
「堺で寝返り我等に毒針を向けるやも知れません」
「筒井殿の仰る通りです」
 滝川がだ。筒井の言葉に加勢してきた。
「この男だけはどうしても」
「そうですな。久助殿に賛成します」
 竹中もだ。今はだった。
 松永を警戒の目で見ている。そのうえでの言葉だった。
「この御仁は信用してはなりませぬ」
「そうです。だからです」
「ここは勘十郎様にお願いしてはどうでしょうか」
「勘十郎様なら必ずや堺を降されます」
「ですから」
「いや、勘十郎は今はわしの傍にいてもらう」
 信長ははっきりとだ。松永は駄目だと言う家臣達に告げた。
「堺には行かせぬ」
「ではやはりですか」
「この者を行かせるというのですか」
「そうされるのですか」
「こ奴はやってくれる」
 だからだというのだ。
「わしはそう見ておる。だからじゃ」
「しかしです」
「この男は
 何しろ主家を枯死させ将軍を殺し大仏を焼いた男だ。それだけのことをしているからだ。
 彼等の言うことにも根拠があるのだ。だがそれでもだった。
 信長は普段以上に毅然としてだ。こう言い切った。
「わしが決めたことじゃ」
「では、ですか」
「やはり堺にはですか」
「その者を行かせますか」
「どうしてもというのならじゃ」
 信長はここで羽柴を見た。そのうえでだ。
 彼に対してだ。こう命じたのだった。
「猿、御主もじゃ」
「堺に行けというのですか」
「そうじゃ。どうも皆心配性じゃ」
 家臣達の松永への警戒に苦笑いしてだ。そのうえでの言葉だった。
「御主も行け。そうしてじゃ」
「堺の町衆を説得せよというのですな」
「そうじゃ、その通りじゃ」
 秀長は見なかった。彼の弟は警戒を露わにしているからだ。
 だが羽柴は見てだ。そのうえで言ったのである。
「御主も行け。よいな」
「畏まりました、さすれば」
「御主等二人で行け」
 松永も入れてだ。そのうえでの言葉だった。
「これでよいな」
「ではそのうえで」
「行って参ります」
 こうしてだ。松永だけでなく羽柴も堺に赴き町衆を三好から織田に引き込むことになった。その羽柴が軍から堺に行く時にだ。秀長と蜂須賀が彼にこう言ってきた。
「兄上、何かあればです」
「その時は容赦するでないぞ」
「ヨハネス殿も同行されています」
「だから何かあればじゃ」
「羽柴殿、御安心召されよ」
 やはり流暢とはあまり言えない日本語でだ。ヨハネスも羽柴に言ってきたのだった。
「何かあればその時は」
「ううむ、御主もそう言うのか」
「左様、このヨハネス=フリードリヒ=フォンーローリンゲン」
「名前が増えておらんか?」
「私の正式な名前はこうなっているのだ」
 ヨハネス本人の言葉である。こう答えたのだ。 
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