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戦国異伝

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第八十八話 割れた面頬その九


「どうしても相手にはならぬ」
「それこそこちらも何千丁も鉄砲がなければな」
「勝てぬな」
 森と池田もだ。それではだった。
「十万どころではない数の一揆に何千丁もの鉄砲」
「とんでもない相手じゃな」
「だからじゃ。わしとてもじゃ」
 ここでだ。信長が口を開いた。これまでは家臣達に喋らせそれぞれの言葉を聞いていたがここでだ。ようやくといった感じで口を開き言ったのである。
「本願寺との戦は避ける」
「それが宜しいですな」
「やはり」
 誰もがだ。本願寺との戦は避けようと言う。しかしだ。
 信長はだ。ここでこうも言うのだった。
「しかし。本願寺のあの力はじゃ」
「どうにかせねばならぬ」
「そうなのですな」
「武田や上杉なぞよりも遥かに強大じゃ」 
 少なくともだ。まともな相手ではないことは確かだった。
「どうにかしてその力をそがねばならぬな」
「あとは天台宗ですな」
 ここで彼等の名前を出したのは秀長だった。彼は鋭い目になり述べた。
「延暦寺を頂点とする」
「ふむ。あの寺は」
「都に近く荘園も多く持っており」
「しかも僧兵も数多く擁しておるな」
「その力は尋常なものではありませぬ」
 従ってだ。彼等も問題だというのだ。
「殿の政の為にはやはり」
「歯向かわなければよい。そして寺社のことも考えておる」
 何もせずに力をそぐことはだ。信長はしなかった。
「じゃが。確かに一向宗と天台宗は尋常ではないのう」
「今はどちらとも揉めておりませぬな」
「幸いにも」
「確かに幸いじゃ。とりあえず今はその運に頼る」
 そうするというのだ。
「和泉に入るぞ。よいな」
「はい、それでは」
「今より」
 家臣達も応えてだ。そのうえでだった。
 織田家の軍勢は和泉に向かった。その数は都を出た時よりも多かった。その中にいてだ。
 荒木は馬上においてだ。唸る様に呟いた。
「これは物凄い家に来たのう」
「ほう、そう思われますか」
「全くじゃ」
 こう羽柴にも返す。
「桁が違うわ、三好とはな」
「三好も一時は凄かったですな」
「長慶殿が生きておった頃は確かに凄かった」
 三好の極盛頃だ。まさに。
「しかしそれでもここまでの数の兵はなかったわ」
「兵だけではありませぬしな」
「鉄砲の数も多いし具足もよい」
 織田家の具足の質もだ。いいというのだ。
「しかも槍がじゃ」
「槍はどう思われますかな」
「長いのう」 
 鉄砲と並ぶ織田家の自慢のその槍も見ていた。
「ここまで長い槍は他にないわ」
「槍は長ければ長いだけよい」
 羽柴もだ。その槍について笑いながら話す。
「殿はいつもそう仰っています」
「しかしここまで長い槍は他にない」
「ですな。確かに織田の兵は弱いです」
 このこともよく知られていた。尾張の兵は弱いことで天下に知られてきている。しかもあらたに加わった伊勢や上方の兵達もだ。弱いのだ。
 それでだ。彼等はさらに言うのだった。
「しかしです」
「戦は兵の強さだけではないな」
「数です」
 まず第一はそこだった。戦はとにかく数だ。 
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