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戦国異伝

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第八十八話 割れた面頬その七


「この度は無事播磨を手中に収めましたが」
「それでもだと申すか」
「備前や美作のことも耳に入りました」
「ふむ。あの辺りの国は確か」
「どちらも毛利が迫っております」
 今山陽と山陰を恐るべき勢いで席巻している、その家がだというのだ。
「やがては」
「ふむ。それではじゃな」
「備えをしておくべきかと」
「わかっている。国境は固めておかねばな」
「左様ですな。それでは」
 そうした話もしたのだった。
 その滝川、信行の軍勢と合流した信長はあらためてだ。全軍に命じた。
「さて、摂津を手中に収めて次はじゃ」
「いよいよ和泉ですな」
「あの国ですな」
「うむ、これより和泉に向かう」
 摂津、そして河内を手中に収めたその後はだというのだ。
「そしてあの国の三好の者達も降しておくぞ」
「はい、それでは」
「今から」
「うむ。それで堺を向かうがじゃ」
 和泉における最大の目標は堺で間違いなかった。だが、だった。
 和泉ならばだ。やはりあの寺だった。
「本願寺が若し来ればじゃ」
「その時はですか」
「こちらも」
「降りかかる火の粉は払う」
 そうするというのだ。
「必ずじゃ。そうする」
「ははは、本願寺ならです」
 本願寺についてだ。ここで言ったのは松永だった。
 だがその松永を見てだ。織田家の家臣の者達の殆どが警戒していた。普段は人懐っこい羽柴もだ。いささか以上に引いていた。平然としているのは信長だけだった。
 だが松永はその彼等の視線にも平然としてだ。こう言うのだった。
「何も問題もありませぬ」
「いや、あの寺は強大ですぞ」
「一体何をしてくるのかわからりませぬ」
「石山の横を通りますがその時はです」
「かなり危険ですぞ」
「今彼等は我等には何もしませぬ」
 松永は落ち着き払った顔で言ったのだった。
「今は、ですか」
「その根拠は一体何でござろうか」
 織田家の者の中でもとりわけだ。信行は松永を警戒していた。生真面目な性分の彼にとっては松永の様な大逆の者は許せないのだ。
 だからだ。彼はこう松永に言ったのである。
「本願寺が何もしてこない理由は」
「今本願寺は我等について何も知りませぬ」
「何も知らぬから手出しをしないというのですか」
「左様です」
 まさにそうだというのだ。
「知らぬ相手に手出しをする程。本願寺は愚かではありませぬ」
「本願寺、即ちですか」
「本願寺の法主である顕如殿は」
 この名前がここで出て来た。
「あの方はおそらく天下の傑物かと」
「噂は聞いておりまする」
 信行も顕如のことは聞いていた。彼はというと。
「政も人を惹き付けるものもかなりだとか」
「そうです。そして恐ろしく頭の切れる方です」
「となると」
「今は我等には手出しをしてきませぬ」
「安心してよいのですか」
「はい」
 松永は述べていく。だが信行は彼を信用していない。それは目に表れている。その彼とは違い信長は落ち着いた顔でだ。こう松永に言ったのだった。
「ふむ。ならばじゃ」
「ここはどうされますか」
「警戒はするが堂々と石山の隣を通ってみせよう」
 まさにだ。そうするというのだ。 
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