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戦国異伝

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第八十七話 朝攻めその十一


「石を投げ下ろすのじゃな」
「そうじゃ。急げとのことじゃ」
「全く。何故ここで槍だったのじゃ?」
「まだそれは早いじゃろうに」
「敵が城の中に入ってからじゃ」
「しかも狭い場所では刀じゃ」
 彼等は戦の場での常識から話した。確かにそれが常道である。
 だがそれでもだ。彼等はだったのだ。
 弓矢を構え織田の兵達を射ろうとする。しかしその隙を見逃す滝川ではなかった。 
 槍から弓矢に持ち替える彼等を見てだ。こう命じたのである。
「再び撃て!」
「城壁の敵兵達をですか」
「撃つのですな」
「そうじゃ。撃て、狙いは定めずともよい」
 ただ撃てというのだ。彼等を。
「当たればよし。当たらずともじゃ」
「敵兵を怯ませることができますな」
「それでは」
「鉄砲は当てるに越したことはない」
 だがそれでもだというのだ。
「じゃが当たらずとも効果があるものじゃ」
「確かに。凄い音ですからな」
「そして傍に弾が来るだけでも恐ろしいものがあります」
「だからじゃ」
 それ故にだ。鉄砲は撃つだけでも効果があるというのだ。
 そのことがわかっているからこそだ。滝川は言うのだった。
「撃て!」
「撃て!」 
 織田軍の鉄砲が再び撃たれる。それにより怪我をする三好の兵も出てきていた。朝の城攻めは激しいものだった。滝川はその陣頭指揮を執っていた。
 その滝川を前に見つつだ。信長は言うのだった。
「よいのう。このままじゃ」
「攻めますか」
「そしてこの勢いで」
「この城を攻め落とす」
 まさにそうするとだ。信長は森と池田にも話した。
「よいな。城の門を占拠すればじゃ」
「そこからですな」
「一気に攻めますな」
「うむ、そうする」
 こう言ってだ。そしてだった。
 信長は兵を繰り出す機会を待っていた。彼はその中でだ。ふとこう言った。
「しかし。面頬の男じゃ」
「あの男の正体ですな」
「素顔を見ますか」
「うむ、そうする」
 それを見たいと言う信長だった。
「よいな。さすればじゃ」
「はい、一体どういった者か」
「是非見極めましょう」
 このことを見定めることも考えていたのだ。織田の摂津攻めはいよいよ最後の詰めに入ろうとしていた。だがその中でだ。一つの謎が明らかになろうとしていた。


第八十七話   完


                            2012・4・15 
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