戦国異伝
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第八十六話 竹中の献策その六
「ここは鉄砲を使いましょう」
「そうするか」
「しかも正面からは撃ちませぬ」
そうするというのだ。
「横からです」
「その方がよいのじゃな」
「相手が雇われた浪人や百姓が多いならです」
それを見てのことだというのだ。
「横から撃ちましょう」
「ふむ、わかった」
「そして大事なのは正面の軍ですが」
竹中の話は続く。
「それの受け持ちはそのまま先陣の忠三郎殿にして頂くことになります」
「そのままでよいのじゃな」
「はい、先陣はです」
いいとだ。竹中は信長にあっさりと答えた。
「むしろ忠三郎殿でなければです」
「そうじゃな。忠三郎はちと違う」
蒲生についてはだ。信長はとりわけにやりと笑ってみせる。そのうえでの言葉だった。
「あ奴はのう」
「はい、まさに智勇兼備の御仁です」
「まだ若い。それでもじゃ」
「ですからあの方です」
先陣、そして正面の軍はというのだ。
「そうすべきです」
「ではじゃ。さらに話せ」
「それでは」
こうしてだ。竹中は策を話していく。信長もそれを受けた。そのうえで織田軍は戦に入ろうとする。信長は本陣にいた。その彼の左右はだ。
毛利と服部、信長の護衛役である二人がいた。二人はその場から信長に言うのだった。
「殿、忠三郎ですか」
「この戦の鍵は」
「そうじゃな。鉄砲とな」
そしてだと答える信長だった。
「あ奴じゃ。あ奴こそが鍵となる」
「やはりそうですか」
「そうなりますか」
「そしてじゃ。忠三郎とじゃ」
もう一人いた。この戦の鍵となる者は。
「勝三じゃな」
「むっ、勝三もですか」
「第二陣の」
「本来ならあ奴が先陣でもよかった」
織田家きっての鬼武者である彼でもだというのだ。
「しかしあえて第二陣にしてじゃ。本陣はわしとあの二人にしたのじゃ」
「殿を中央に置かれ右を与三殿、左を勝三郎殿」
「そうされたのですか」
森と池田はここでも話に出た。
「あの御仁達なら確かにです」
「本陣の左右を任せられても大丈夫ですな」
「あの二人は一見華がない」
信長は森と池田は少し見ただけではそうだとも述べた。確かに二人は織田家中では然程目立つ者達ではない。柴田や滝川と比べてだ。
だがそれでもだ。信長はこう言うのだった。
「得難い者達じゃ。あの二人ものう」
「権六殿や牛助殿の様な絶対の武勇ではなく」
「手堅さですな」
「うむ。手堅い者も必要なのじゃ」
まさにそうだというのだった。信長は本陣において座しながら左右に立つ毛利と服部に述べていく。その顔は正面を見据えぶれることはない。
「それがあの二人じゃ」
「所謂縁の下の力持ちでしょうか」
毛利がここでこう言った。
「お二人は」
「そうじゃな。二人共それなりに政もできるしのう」
この辺りもだ。やはり得難いというのだ。
「必要な二人じゃ。だからあえて本陣に置いたのじゃ」
「ううむ、そうだったのですか」
「そうされたのですか」
「して鉄砲隊は菊千代に任せた」
今度名前が出たのは堀だった。
「あ奴もやってくれるぞ」
「ではこの度の戦もですか」
「我等の勝ちですか」
「半兵衛の策は完璧じゃな」
信長から見てもそうだというのだ。彼の策はだ。
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