万華鏡
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第九話 春の鍋その十五
「女の子の胸とか脚はね」
「そういえば何か夏とかは」
「見られるでしょ」
「視線感じるわ」
「そう、男の子は本能で動くのよ」
「私のお兄ちゃんとかも」
「兄とはいえ男だとね。私も弟に」
流石に父からはないが弟からはだというのだ。
「言われるから。ちょっとだらしない格好したら」
「それでなの」
「そう、言われるのよ」
「それってただ琴乃ちゃんがだらしないだけなんじゃ」
「違うわよ。棟元とかちゃんとしろって」
「言われるのね」
「あとお家の中では絶対に下着姿で歩き回らない」
琴乃はこのことも強い声で言う。
「それもね」
「いや、下着姿はね」
「それは?」
「絶対に駄目でしょ。というか琴乃ちゃんお家の中で下着?」
「それはないけれど」
流石にそこまでだらしなくはないというのだ。琴乃もそうしたことはちゃんとしている。
「けれど事前に言われるのよ」
「弟さん厳しいのね」
「そうかも。言われてみれば」
「けれど胸って」
彩夏はまた胸の話をした。
「そんなに大事かしら」
「持っている人は気付かないの」
琴乃は湯舟の中で右手の人差し指を立てて力説する。
「自分ではね」
「自分ではって」
「持っている人と持っていない人」
資本主義的な話にもなる。
「世の中ってある時は無慈悲で冷酷なのよ」
「持っていない人は徹底的にっていうのね」
「胸がない人にはある人のことがわからないのよ」
「ううん、そこまでいくと何か」
「まあそれ位にしてな」
里香と背中を洗い合っている美優が湯舟の中の二人に言ってくる。見ればその髪は後ろで上に束ねている。これは髪の毛を洗っている景子以外一緒だった。
「二人共もう身体洗ったよな」
「ええ、もうね」
「洗ったわ」
「じゃあ次は髪の毛な」
それを洗ってはどうかというのだ。
「胸の話だけじゃなくてな」
「そうね。それじゃあ」
「今度は髪の毛も」
「髪の毛って大事だからな」
美優は里香の背中を洗いながら二人に言う。その肢体は泡で包まれ大事な場所は見えない様になっている。
「だからよく洗わないとな」
「というか髪の毛も一日洗わないとね」
「ちょっとね」
それは二人も言う。
「汚いわよね」
「フケとか出たらアウトだし」
「そうでなくてもぱさぱさにもなるし」
「色々気を使わないよね」
「髪の毛も大事だからな」
美優は笑顔でまた二人に言った。
「よく洗わないとな」
「そうね。じゃあ美優ちゃんが身体洗い終わったら」
「それからね」
二人は今度は髪の毛を洗うことにした。五人は女の子らしい話をしながら風呂も楽しんだ。それは身も心も奇麗にするものだった。
それが終わってから五人で同じ部屋で休む。五人のゴールデンウィークはこれまでなかった楽しいものだった。
第九話 完
2012・9・19
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