万華鏡
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第八話 それぞれの家でその九
「桜にあたるわ」
「トルコの象徴みたいなものなのね」
「そう、国花はその国の象徴でもあるの」
「それを贈ってくれたの」
「その人彩夏ちゃんのお父さんに凄く感謝してたのね」
里香はその赤いチューリップを見ながらこうも言った。
「そうなのね」
「そうみたいなの」
その通りだと彩夏も答えてきた。鉢はもう元の場所に戻してそのうえで四人にあらためて話す。
「お仕事で助けてもらったからって」
「それでくれたの」
「イスラム世界じゃ贈りものは日本よりも頻繁に行なわれるらしくて」
この辺りにも文化的違いが出る。
「それで気前よく受け取らないとかえって駄目なんだって」
「気前よくなの」
「そう、気前よく」
彩夏は琴乃にこうも話す。
「遠慮とかしない方がいいらしいわ」
「日本人ってどうしても遠慮するけれど」
「それがイスラムじゃ違うの」
「気前よく受け取ってこそなの」
「贈る方も嬉しいらしいのよ」
「ううん、カルチャーショックね」
「でしょ?私もよ」
そしてそれは琴乃だけでなく彩夏もだというのだ。
「かなりね」
「そうだったの」
「最初聞いてびっくりしたわよ。贈りものってやっぱりね」
「気前よく受け取ったら図々しいって思われるから」
琴乃は日本人の考えを述べる。これが日本文化だ。
「どうしてもね」
「けれど日本は日本で」
「イスラムはイスラムなのね」
「そう、文化とかが全く違うから」
だから贈りものも気前よく受け取らないと駄目だというのだ。そしてそれが何故かも彩夏の口から話される。
「イスラムの考えで喜捨ってあって」
「あっ、それ塾で習ったわ」
里香は喜捨という言葉にすぐに相槌を打つ様に返した。
「お金持ちの人が貧しい人に施しをすることよね」
「そう。コーランにもあるらしいのよ」
「その考えがあるからなの」
「イスラム社会じゃ贈りものは気前よく受け取らないと駄目なのよ」
「そうなのね」
「だからイスラムじゃ贈りものが多くて」
全ては喜捨からくる考えだった。
「その受け取り方もね」
「日本と全然違うのね」
「流石に自分から言うのは憚れるかも知れないけれど」
これは言うなら賄賂の要求である。あるにはあるだろうが。
「それでもね」
「気前よくね」
「そう、それでお父さんもね」
「全部受け取ってるのね」
「返すのは駄目らしいから」
贈りものをだというのだ。
「そうらしいのよ」
「返したら駄目っていうのも」
「やっぱりないわよね」
「日本でもお中元とかは」
普通は返さないがそれでもだった。
「返さないわよね」
「そうよね。それはアラブでも同じだけれど」
「もっと凄いのね」
「そう、宗教的なものも入るから」
その喜捨がだというのだ。
「違うからね」
「それで余計になのね」
「そうみたいよ。それじゃあね」
「ええ、これからよね」
「お料理作るから」
彩夏は優しい微笑みになって四人に話した。
「ちょっと待ってね」
「どんなお料理なの?それで」
「味付けは薄い感じにするっていうけれど」
「うん、調味料は加減して」
そしてだというのだ。
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