インフィニット・ストラトス~黒き守護者~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
動く出来事
ディアンルグの修復も完全に終了し、俺はふぅと一息ついていた。
「久々に、風呂にでも入るか」
確か今日は風呂に入れる日だろう。そう思って俺は大浴場の鍵を借りて風呂場に移動した。鍵は大抵使われていないなら職員室に置かれている。ということはないのだろう。
鍵を開けて中に入り、俺は腰にタオルを巻いて中に入った。
「……相変わらず広いな」
そんな感想を言ってから中に入って体を洗う。
「じゃじゃーん! 楯無お姉さん登・場!!」
「また来たか、痴女」
「む。お嬢様に対して痴女とは失礼ね」
「男が入っている最中に水着を着ないで入ってくる女を痴女と馬鹿にして何が悪い」
まぁ、男が風呂に入っている時点で入ってくる女は痴女だと思うのだが。
「いいじゃない。この前は邪魔が入ったけど、今日は遊び放題よ」
「人の姉を邪魔呼ばわりするなよ、男の部屋で下着姿になった変態さん」
そう言うと、まるで苦虫を噛んでいるかのような顔をした。
「ま、まぁ、あの時のことは忘れなさい」
「小さい頃は簪と差がなかったのに、いつの間にあんな痴女になったんだろうか」
「え? そっち!? もっとこう、ほかにないの?」
「悪戯好きなのはあんまり変わってなかったな」
こいつ、昔から野良犬とかに絡んで痛い目みていたな……。
「うぅ……」
「後は自分が強いと思い込んで中学生に喧嘩を売りに行ったり、スポーツ万能だから勧誘されたり、そして毎回みんなを巻き込んだり」
そう言いながら風呂に浸かると付いてきた。ただしすごく泣きそうだけど。
「あ、あの時はさすがに悪いと思ったわよ! でも殴ったじゃない!」
「そりゃあ、いくらなんでも酷かったからな。たまには説教も必要だ。だが、その後に成績がいいからということで簪と本音に勉強を教えていたら何かと理由をつけて乱入していただろ」
今では不可解だが、というか今でもわからん。
「そういえば、何で勉強中に「自分も勉強する!」って言いながら本音を退けてまで俺の隣に座ったんだ?」
ふと、その時のことを聞いてみる。だが触れてはならないことだったのか、楯無は顔を赤くしていった。
「まぁ、言いたくなければいいんだけど」
「……………」
いや、うん。言いたくなければいいんだけど、そんな複雑そうな顔をするのは止めて欲しい。
すると、入口の方から人の気配がした―――
『お、もう風呂あいてグボウルァッ!!』
誰か―――というより一夏が誰か―――おそらくシヴァ辺りが殴って気絶させたらしい。バレないように楯無の前に行って壁になったが、どうやら無駄だったみたいだ。まぁ、ここは隠れるところがあるから問題ないかもしれないが。
「「……………」」
俺と楯無はしばらく沈黙していたが、楯無がその沈黙を破った。
「……それで、祐人はどこまで思い出したの?」
「ほとんど全部、だな」
「じゃあ、あの白いISも?」
「………あれは俺の敵だ。お前らには関係ない」
「でも、篠ノ之博士の最新鋭機をすぐに倒したのよ。少なくとも無関係じゃないと思うわ」
……そりゃあ、年季があるとはいえ、あっちの方が最新鋭機だしなんて言えないな。
「まぁ、それはいつか話すよ。だから―――」
「いつかではダメよ」
そう言いながら楯無は俺の腕を掴んだ。
だが俺は―――それをいとも簡単に振り解く。
「悪いな。あの機体を相手にするのは俺だ。それに―――例えあの機体を普通の国家代表や候補生が止めてもよくて相討ちしかできない」
「そ、それって―――」
「並大抵―――少なくとも、今この学園にいる代表候補生は全員負けるだろうな」
そして最悪死ぬ。それは間違いないことだった。
「だから、自分がやると?」
「ああ。俺ですらも勝てる保証はないけどな」
「そ、それって―――」
「ああ。分の悪い賭けだな。だが、俺は負ける気はない。そ―――」
そうでもしないと、アイツを助けられないからな。
だがその言葉の続きは言えなかった。だって―――
「……………」
痴女に襲われたから。
■■■
ある場所で彼女たちがそれぞれ思いにふけっていると、
「ノクト!!」
いきなりドアが開き、そこから活発そうな少女と大人しそうな少女が入ってきた。ノクトを呼んだのは活発そうな少女である。
「おいテメェら! 静かにしろ!」
オータムが叫ぶが、二人はそれを無視してノクトと呼ばれる少女に駆け寄った。
「ノクト、正直に言え。本当にあの人は生きているんだな?」
「お、落ち着いてよナハト。そうよ。兄さんは生きてるわ」
「じゃ、じゃあ今すぐ行こうぜ!」
ナハトと呼ばれた活発そうな少女は今すぐその場から飛び出そうとするが、大人しそうな少女がそれを阻んだ。
「退けよノイン! 邪魔するなら潰すぞ!」
「落ち着いて。そもそも私たちが来たのはスコールに任務の報告をするため」
ノインと呼ばれた少女がそう言うと同時に、二人が入ってきたドアから金髪の女性―――スコールが現れた。
「あら二人とも、そんなに騒がしくしてどうしたの?」
「聞いてくれスコール。この二人、あの男風情が生きているって知って喜んでいるんだ。気が狂っているとしか思え―――」
オータムが途中で言葉を切る。ナハトとノインがオータムの耳と喉に銃を突きつけたからだ。
「んで? 遺言は?」
「あの人の侮辱、今すぐ取り消せ単細胞。お前は本来死んでいるんだぞ?」
「馬鹿じゃないのオータム。この二人の前で兄さんの侮辱をしたらこうなることは普通に予想できることだっていうのに」
ナハトとノインが睨み、ノクトが呆れていた。
「二人とも、止めなさい」
「……了解」
「チェ、わかったよ」
二人はオータムを睨みながら銃をしまう。
「でも、あの人が生きてるのかぁ。うれしぃな」
「ナハト、だらしない」
「いいもん。またあの人に懐くもん」
ナハトがそう言うと、その場にいる全員が呆れた。
「それで二人とも、あなたたちが逃げたと言っていたあの孤島はどうだったの?」
スコールがナハトとノインに向けてそう言うと、二人は複雑そうに顔を背ける。
「結果から言うと、あの島を奪うのは無理だったよ」
「あら? どうして?」
「強力な結界が張り巡らされていたの。あれはおそらく篠ノ之束ね」
ノインがナハトの言葉を引き継いでそう言った。
みんながそれを聞いて悔しがる中、ノクトだけは違った。彼女だけは知っているからだ。あの基地施設がどうなっているかが。
(たぶん、兄さんだね)
あの兄なら、死体をちゃんと埋葬して綺麗に掃除して使っていそうだ。
(あの孤島を最後の要塞にしたか。なんとしてもコンタクトを取らないとね)
彼女は内心、笑っていた。
ページ上へ戻る