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八条学園怪異譚

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第六話 海軍軍人その四


「誇り、ですよね」
「それは常に忘れたら駄目なんですね」
「頭を下げる時もな」
 謝罪,その妄りにするものではないというその時もだというのだ。
「決してだ」
「誇りを忘れたら駄目ですか」
「絶対に」
「そのことは肝に銘じておいてもらいたい」
「ううん、難しいですけれど」
「覚えておきますね」
 これが二人の日下部への返事であった。
「そうさせてもらいます」
「今のところは」
「誇りを忘れてはならない」 
 普通の幽霊のイメージとは違い背筋を伸ばして明朗闊達に言う日下部だった。
「それがあれば恥ずべき行いもしなくなる」
「恥ずべき?」
「そうだ。海軍、そして陸軍でもあったが」
 これは日下部にとってはいい話ではなかった。しかし彼はここではあえて毅然としてこう言ったのだった。
「いじめもだ」
「あれもですか」
「他人によからぬ感情を抱きそれをそうしたことで発散することはだ」
「恥ずかしいことなんですか」
「非常に醜悪な行為でもある」
 こうも言う日下部だった。
「そうしたことはな」
「いじめはですか」
「よくあることだ。例えば自分より何もかもが優れている相手がいたとする」 
 日下部はあくまで例えを出しただけだ。しかしだった。
 その彼の言葉を受けてだ。愛実はついつい聖花に顔をやった。だが聖花はその愛実にこう言ったのだった。
「あれっ、どうしたの?」
「あっ、ちょっとね」
「ちょっとって?」
「何か気になって」
 自分が聖花に嫉妬していることにここで気付いた。
「それでなの」
「私に何かあったの?」
「聖花ちゃんには何もないわ」
 このこともわかった。今。
「私にね」
「愛実ちゃんになの」
「うん、ここに来ないとわからなかったわね」
 自分の心にあるもの、それがわかってだった。
 愛実は辛いものを感じながらその上で聖花に答えた。
「私、もうちょっとで酷いことしていたかも」
「そんなこと。愛実ちゃんがする筈ないじゃない」
 愛実の俯いた言葉に笑って返す聖花だった。
「愛実ちゃん凄くいい娘なのに」
「ううん。私最低だから」
 自分の内面に気付いたからこその言葉だった。
「そんなこととても」
「全然違うと思うけれど」
「ううん、私最低だから」
 まだ言うのだった。愛実は何時しか俯いていた。
「こんなこと言うから」
「そんなことないけれど」
「けれど気付いたから」
 自分で言う愛実だった。
「だから絶対にしないから、いじめとかそうしたことは」
「何言ってるのよ。愛実ちゃんがそんなことする訳ないじゃない」
「だといいけれどね」
 自分のそうした感情に気付いてとても嫌な気持ちになっていた。疎ましくも思い忌々しくも思う。自分の中にある醜いもののその醜悪さに心が汚れていた。
 だが、だった。それでも愛実は何とか顔を上げてこうも言った。
「絶対にしないからね」
「うん、いじめなんて最低だからね」
「そうした気持ちがあっても克服しないとね」
 嫉妬、聖花への嫉妬の感情にも気付いていた。
「そうしていくわ。これからね」
「そうあるべきなのだ。ところでだ」
 暫く二人の話するままに任せていた日下部だったが話が一段落したところで二人にあらためて言ってきた。 
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