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八条学園怪異譚

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第五話 水産科の幽霊その九


「それに職業に貴賎はないですよ」
「軍人だけが立派じゃないですから」
「私食堂の娘ですけれど誇りありますから」
「パン屋の娘ですけれど何か」
「嘆かわしい」 
 今度はこんなことを言う軍人だった。
「大和撫子のあの奥ゆかしさ、慎ましやかさは何処に行ったのだ」
「ですから時代が違いますから」
「私達にそんなこと言われても知らないです」
「というか三年前まで生きておられたんですよね」
「ボディコンとかガングロとか御存知ですよね」
「成敗したくなった」
 実にかつての帝国軍人らしい言葉だった。
「わしのこの手でな」
「それで刑務所行きになってたんですね」
「何の罪もない女の子を斬りつけて」
「日本は変わった。まことにな」
「ですから変わりましたから」
「もう戦争の時代じゃないですから」
 二人の言葉も視線も冷めたままだった。
「そんなこと私達に言っても」
「仕方ないですよ」
「曾孫達と同じことを言っているわ」
 軍人はこんなことも言い出した。
「全く。現代っ子はすれておるわ」
「大体今と戦争中じゃ全然違いますよ」
「そんなこと常識じゃないですか」
「それはそうだが。しかし本当に変わってしまった」
 軍人は遠い目のままだった。
「困ったことだ」
「まあ。それはそういうことで」
「宜しくお願いしますね」
「納得するしかないか」
「はい。それでなんですけれど」
 愛実がここで話題を変えてきた。その話題は。
「あの、お爺さんって言っていいんですか?」
「死んだのは三年前じゃ」
「老衰で、ですよね」
「うむ、そうじゃ」
「喋り方もそうですし」
 外見は若いが喋り方は年寄りのものだというのだ。確かに声は若いが喋り方は老人のものだった。特に一人称が。
「お爺さんですよね」
「しかし外見を見よ」
 それはどうかというのだ。 
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