八条学園怪異譚
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第三話 聖花の人気その九
「どうかって思ってね」
「それでなんですね」
「そうも思ってね。後はね」
「後は?」
「食べるものだとね」
疲れる時に食べるといいもの、それはどういったものかということもだ。その先輩は聖花に対して言ったのだった。
「生姜とかね」
「大蒜もですね」
「オレンジはデザートだからね」
メインの食事として摂るのなら何がいいかというのだ。
「だからね」
「生姜や大蒜はですか」
「普通のお食事の時に食べるといいのよ」
「愛実ちゃんのお家食堂ですから」
だからだとだ。聖花は先輩に述べる。
「生姜とか大蒜は一杯あります」
「あっ、そうだったの」
「はい、愛実ちゃんのお家のお料理凄く美味しいんですよ」
「それならね。美味しくて栄養があるものをね」
「食べることが一番いいんですか」
「疲れてる時はそれが一番よ」
「やっぱりそうなるんですね」
「そうなるわね。あとじっくりと寝ること」
睡眠も必要だというのだ。先輩が言っていることはオーソドックスだがだからこそ確かなことだった。嘘ではない。
それでだ。こう言ったのだった。
「食事と睡眠よ」
「その二つが疲れを取るにですね」
「一番いいのよ」
「じゃあ愛実ちゃんに今度言ってみます」
「そうしてね。ああ、そうね」
ここでだ。先輩ははたと思い出した顔になってだ。こう聖花に言った。
「今は。オレンジね」
「あっ、それですね」
「そう。あれをあげてね」
「わかったわ。それじゃあね」
こう話してだ。そのうえでだった。
先輩はそのオレンジを聖花に差し出してきた。一個の大きなオレンジをそっと差し出してきてそのうえで言うのだった。
「はい、これ」
「オレンジ持っておられたんですか」
「そうなの。実は持ってたのよ」
「そうだったんですか」
「お昼のお弁当の残りよ」
デザートだったというのだ。本来は。
「けれど余ったから」
「くれるんですか」
「あの娘にあげて」
微笑んでだ。先輩は聖花に言う。
「そして元気になってもらってね」
「はい、そうします」
聖花も笑顔で頷きそうしてだった。
先輩からそのオレンジを受け取った。部活の間は愛実に声はかけなかった。
だが放課後になるとだ。彼女のところに来て。
オレンジをそっと差し出してきた。そして言ったのだった。
「これ」
「オレンジ?」
「よかったら食べて」
こう言ったのである。
「これね」
「くれるの?」
「疲れてるのよね」
「そうだけれど」
「じゃあこれ食べて」
愛実に笑顔で差し出しての言葉だ。
「よかったらね」
「くれるの」
「身体にいいからね」
それでだというのだ。
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