八条学園怪異譚
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第三話 聖花の人気その六
「こんな可愛い娘かるた部で独占するなんて勿体ないよ」
「あのね、誰も独占してないから」
「というかそんなこと出来る筈ないじゃない」
「あんたも無茶言わないの」
「というか言ってることおかしいから」
「そうかな。とにかくいいかな」
彼はやや強引にかるた部の先輩達に言う。男女の違いはあるが仲がいいことはわかる。
その女友達である彼女達にだ。彼はさらに言った。
「これからはかるた部もね」
「入部は断らないけれどね」
「うちは来る者は拒まずだから」
「けれどあんた、結構ね」
「女の子好きなのね」
「女の子嫌いな男はいないさ」
同性愛者は別にしても。
「だから僕もね」
「先輩が入るなら俺も」
「僕もですよ」
美術部の男子新入生達も続く。
「先輩、抜け駆けは駄目ですよ」
「幾ら先輩でも」
「うっ、そうくるんだね」
先輩は今度は後輩達に目を向けねばならなくなった。
「競争相手が多いな」
「俺達同学年ですから」
「そういう訳にはいかないですよ」
「いくよ。こうしたことは先輩後輩関係ないからね」
「いや、ありますよ」
「滅茶苦茶関係ありますから」
美術部同志での争いになった。とにかく聖花は注目を受けていた。しかしその中においてであった。愛実はというと。
ぽつんとしていた。それでだ。
カラオケの曲を入れようとかるた部の先輩達に伺いを立てるとだ。こう言われたのだった。
「ああ、いいんじゃない?別に」
「好きなの歌ったら?」
返事はこんなものだった。
「まあね。何でもね」
「歌ったらいいわよ」
「何でもですか」
明らかに意識されていない返答に愛実は弱った。しかもだ。
男子生徒達は誰もだった。愛実には声をかけず聖花、そして他の娘達を見ていた。聖花の周りには男子生徒だけでなく女子生徒も集まっていた。そのうえで彼女に問うのだった。
「ねえ、頭いいのよね」
「よかったら今度勉強教えて」
「お家パン屋さん?じゃあ今買いに行くね」
「サンドイッチ食べさせて」
こうした話をだ。彼女にするのだった。しかし。
愛実には誰も来ないし誰も見ない。それでだった。
一人歌を歌う。だがそれでもだった。
注目されずほったらかしだった。歌い終わってまた先輩達に曲を入れることを伺ってもだった。
「だからいいんじゃない?」
「歌いたければ歌えば?」
「それでもうね」
「断らなくていいわよ」
「そうそう」
こうした返事だった。とにかくどうでもいいという感じだった。実際に愛実は今は誰からも見られてはいなかった。
幾ら歌っても声をかけてもらえる自分から声をかけてもこんな調子だった。
「あっ、かるた部なんだ」
「そうなんだ」
美術部の男子の面々、先輩も新入生も何でもないといった感じだった。愛実は完全に空気として扱われていた。
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