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八条学園怪異譚

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第一話 湧き出てきたものその十九


「そうしたの」
「全部愛子さんに教えてもらったのね」
「それで今日もね」
 こうしてだ。早いうちにバスに乗って試験の場に向かっているというのだ。
「そうしてるの」
「そういうことね。実は私もなの」
「聖花ちゃんも言われたの」
「お兄ちゃん達とお姉ちゃんにね」
 言われたとだ。聖花は愛実の横顔を見ながら話した。
 愛実は正面を向いたままだ。聖花には顔を向けておらずバスの窓から外を見ている。外は冬の世界で雪こそないが白さ、冷たい白さがある。
 その白を見ながらだ。聖花に話しているのだ。
「言われたの。早いうちにって」
「行ってそうして」
「そう。遅れないようにして」
「遅れると何にもならないからね」
「そうよね。愛実ちゃんもそう言われたのね」
「ええ、そうよ」
 口調もだ。素っ気無い。
「それでなのよ」
「そうよね。本当に遅れたら駄目だし」
「それに早いうちに試験の場に行くと落ち着いて用意ができるって」
「言われたわ。私も」
「お兄さん達やお姉さんに」
「うん。鉛筆とか消しゴムの用意して」
 そしてだと。聖花は愛実の横顔を見ながら笑顔で話す。自分の方を見ていない彼女にそうしているが顔を向けてきていないことに何があるかわかっていない。
「それに受験票もね」
「受験票持ってるわよね」
「うん、持ってるよ」
 笑顔でだ。聖花はすぐに答えた。
「ちゃんとね。愛実ちゃんもよね」
「昨日のうちに鞄に入れたわ」
「私も。お家出る前にチェックもしたし」
「私も。お姉ちゃんに言われてしたわ」
「私なんかね。うっかりしてるから」
 聖花は自分の忘れ物の多さを少し照れ臭げに話した。
「だから。お母さんにも言われたの」
「お母さんにも?」
「そう、お家出る時に忘れてないかって」
「それでチェックしたのね」
「総したの。それでちゃんとあったから」
「じゃあ大丈夫ね」
「絶対ね。じゃあ受験頑張ろうね」
 聖花はその整った顔で屈託なく言った。
「それで二人で合格しようね」
「ええ」
 どうしてもだ。聖花の今の言葉には暗くなってだ。
 そのうえでやや俯いてだ。そのうえで言ったのだった。
「そうしようね」
「二人で一緒に合格してね」
 聖花は愛実が暗くなったことにも気付かず無邪気なまま言っていく。
「高校でも楽しくやろうね」
「ええ、そうね」 
 愛実は何処か空虚に聖花の言葉に応えた。そうしてだった。
 二人でバスに降り学校に入る。その試験の場は。
 教室の一つだった。しかも二人の教室は同じ教室で聖花はこのことにも喜ぶのだった。
「よかった。一人だとね」
「一人だと?」
「寂しいからね」
 だからだ。いいというのだ。
 聖花は愛実の席、彼女が座っているそこに来てこう言ったのである。
「特に愛実ちゃんが一緒だとね」
「私がなの」
「うん。何ていっても愛実ちゃんが一番のお友達だからね」
 だからだ。いいというのだ。
「一緒のクラスで心強いわ」
「私なんかいなくても」
 聖花を見ずに自分の席で俯いて。それで言った言葉だった。 
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