八条学園怪異譚
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第一話 湧き出てきたものその十七
愛実の心に突き刺さる。姉がただ彼女のことを褒めていてもどうしても自分と彼女を比べてしまうからだ。それで嫉妬を感じたのだ。
だがそのことは口には出さず姉の話を聞いていた。その姉はさらに言った。
「頑張ってるわね」
「そうね。本当に」
「あの娘なら何でもできるわ」
「何でも?」
「そう。努力してる娘は何だってできるのよ」
愛実は今は努力という言葉は耳に残らなかった。残ったのは。
何だってできる、愛子の彼女への賞賛の言葉だった。それを聞いてだ。
愛実はまた暗い気持ちになった。それで言うのだった。
「そうね。聖花ちゃん何だってできるから」
「それが凄いのよ」
「聖花ちゃんは凄くて」
自分はどうかと。愛実は俯きながら思った。
「そうよね。あの娘は凄くて」
「?愛実ちゃんどうしたの?」
「どうしたのって?」
「何か暗いけれど」
「そうなの?」
「そう見えるけれどどうしたの?」
妹のその俯いている顔を見てだ。愛子は問うた。
「一体」
「別に」
「別にって」
「何もないから」
こうだ。俯いて言うのである。
「本当にね」
「だといいけれど」
「後は」
それでだとだ。愛実は今度は自分から言った。
「これ食べてからまた散歩に行くから」
「ああ、チロのね」
「うん。行って来るから」
こう行ったのである。
「御飯食べたら」
「何かチロの散歩っていつも愛実が行ってるわね」
「だって。好きだから」
それでだとだ。愛実は今度は明るく姉に答えた。
「お散歩もチロもね」
「犬好きよね、本当に」
「うん、大好き」
その通りだとだ。愛実は微笑んでまた答えた。
「犬は優しいから」
「特にチロはよね」
「あんな大人しい犬はないから」
「だからなの。チロとのお散歩は欠かさないのね」
「チロはいつも。私がどんなに落ち込んだりしている時も」
人間は生きていると色々なことがある。落ち込むこともある。特に愛実の様に心が揺れやすい場合はそうだ。落ち込んでしまうことも多い。
そしてその彼女に対してだ。チロはいつも優しいというのだ。
「だからね。いつもね」
「お散歩するのね」
「うん、そうなの」
こう言うのである。
「だから今から御飯食べて行ってくるね」
「待って。御飯食べたらね」
お母さんがだ。にこやかな笑顔になった末娘に言ってきた。
「デザートがあるから。お散歩はね」
「デザートの後?」
「そうy。それから行きなさい」
微笑んでだ。愛実に言ったのである。
「それでいいわね」
「デザートって何なの?」
「ケーキよ。愛実ちゃんの大好きなね」
「えっ、ケーキなの」
そう聞いてだ。愛実は声をうわずらせた。
そのうえでだ。こう母に言ったのだった。
「それ。買ってきてくれたの」
「試験の前にね。愛実ちゃんがもっと元気になってくれたらって思って」
「有り難う、お母さん」
愛実は屈託のない少女の笑顔で母に礼を述べた。
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