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八条学園怪異譚

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第十六話 柴犬その四


「農業科だけれど」
 八条学園高等部農業科である。広大な面積を誇る学園の中でもこの科と大学の農学部の場所はかなり広い。
 その農業科にだというのだ。
「狐や狸がいるらしいのよ」
「野生の?」
「野生のですか」
「そうらしいのよね」
 広い学園の中に野生の狐狸が出るというのだ。
「何かね」
「それってちょっと」
 愛実はかるたをみながら先輩に答えた。
「まずいですよね」
「ううん、やっぱり学校の中に野生の生き物がいるってね」
「ですよね。
「狂犬病はないにしてもね」
 野生の動物には付きものの病気の一つだ。日本ではなくなっていると言っていいが。
「それでも野生の生き物はね」
「いるとですね」
「まずいですね」
 聖花もそれを言う。
「やっぱり」
「それも」
「そうなの。それでね」 
 先輩は二人にさらに言う。
「その狐や狸全部捕まえようかって話が出てるみたいよ」
「狐とか狸をですか」
「捕まえるんですか」
「そうしようかってね」
 そうした話になっているというのだ。
「それで捕まえた狐や狸はね」
「鍋ですか?」
 愛実はふとかちかち山を思い出してこう言った。
「それにするんですか?」
「いや、かちかち山じゃないから」
 先輩も愛実に合わせるかの様に笑って返した。
「それはないから」
「お鍋にはしないんですか」
「というか狐とか狸って美味しいの?」
「多分美味しくないと思います」
 愛実は頭の中で狐や狸の姿を思い浮かべながら先輩に答える。思い浮かべるその姿は二本足で立っているものだ。
「犬の仲間ですし」
「そうそう、どっちもイヌ科なのよね」
「犬ってあまり美味しくないみたいですよ」
「食べる国もあるわよね」
「けれどそういった国でも豚肉とか鶏肉があったらそっちを食べますから」
 犬の肉が食べられていたのはかつては肉がハレの日にしか食べられないご馳走だったからだ。それで手っ取り早い動物性蛋白質として食べていたのだ。
 だが豚肉なり鶏肉が何時でも食べられる様になるとどうなるか。それはもう自明の理のことであり食べられなくなったのだ。
「ですから特に」
「食べなくなったのね」
「食べる量自体はかなり減ってるみたいですよ」
 皆その分豚肉等を食べるようになったのだ。
「ですから狐や狸も」
「捕まえてもでしょ?」
「言った私が言うのも何ですけれど」
 愛実はこの話の言いだしっぺとして言う。
「ちょっと」
「そうね。それにどっちにも匂い強そうね」
 先輩は狐狸の肉の匂いについても想像した。
「どうにも」
「野生の動物って匂い強いですよ」
「そうそう、時々猛虎堂に野生の猪とか鹿のお肉入るけれど」
 八条町にある飲み屋である。変わった料理が出ることでも有名だ。
「やっぱり匂いがね」
「きついですよね」
「猪は豚肉に似た味だけれど」
 猪を家畜化したものが豚であるからこれは当然と言えば当然である。
「硬いし」
「そう、結構硬いですよね」
 ここで聖花も話に戻って来た。 
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