八条学園怪異譚
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第十五話 足元にはその十三
それで二人は言うのだった。
「そんなことするって本当に誰か」
「そうした人が傍にいたら怖いですよ」
「戦場でも実際は。少なくとも日本軍はだ」
日下部は彼の若き日の記憶を辿りながら述べた。
「なかったな。そうした殺し方は」
「色々言われてるけれどそうなんですね」
「実際の日本軍は」
「陸軍でもだ」
捕虜を手に入れることの多いそちらでもだというのだ。
「そうしたことをするにはその個人の気質、状況、民族の文化や様々な要因が重なる」
そうしたことがあってはじめて出来るというのだ。
「妖怪にも思えない。人間にしてもだ」
「日本人じゃないですか?」
「他の国の人なんでしょうか」
「異端審問に似ている」
日下部は一連の事件の殺し方についてこう思っていた。
「どうもな」
「異端審問ってあの魔女狩りの」
愛実が言う。
「あれですよね」
「そうだ。魔女狩りの残虐さは知ってるな」
「物凄い拷問をしてから火炙りですよね」
「その拷問は拷問そのものを楽しみかつそれで死んでも構わない様なものだった」
そして多くの罪なき人が命を落としてきた。魔女と疑われればそれで終わりであった、そうしたおぞましいものだった。
「それに似ているな」
「キリスト教ですか?」
聖花はこう言った。
「それってつまりは」
「それはわからない。だがだ」
「だが、ですか」
「事件の犯人が殺すのはならず者ばかりだ」
ヤクザやゴロツキこそそうした輩だ。世の中の屑と言ってもいい。
「それを殺すことは。許されざる残虐行為だが」
「まあいいんじゃないの?正直なところ」
「悪い奴等なんていなくなっていいよ」
すねこすり達は妖怪だ。だから人間の法律の外にいる。
だからこうした法律に反することでも道に反しないと思ったならば平然としてこう言えるのである。
「そうそう。掃除してるからね」
「人間の社会のゴミを消してるから」
「あれはあれでいいとも思うよ」
「屑を消したんだよ」
「そうした考えもできる」
日下部もまた淡々としている。今彼は幽霊である。
「法律の目を盗むなりして悪事を重ねる輩もいるからな」
「仕事人みたいね、そう考えると」
「そうよね」
愛実と聖花は顔を見合わせて言った。
「ヤクザって悪いことしてるものだし」
「ゴロツキはその予備軍だし」
「そうした連中を殺すって確かに殺人だけれど」
「悪い奴を始末してるって考えられるわね」
二人もこの考えはわかった。だがだった。
法律に反する、殺人であることは間違いないので素直には賞賛出来ずに言う、二人共法律の知識はしっかりとしていた。
「それってね」
「どうしてもね」
「まあとにかくね。その事件は僕達も詳細を知らないし」
「無茶苦茶な事件だとは思うけれどね」
またすねこすり達が二人に話す。
「妖怪でも知らないことは多いからね」
「何でも知ってる訳じゃないよ」
「そのことはわかったわ。妖怪でもヤクザは嫌いで」
「それで知らないこともあるのね」
「そうそう、泉のことだってそうだし」
「僕達はそれを使わないで学園内に出入りしているしね」
寺と学園を区切っている壁を乗り越えるだけでそうしている、彼等にとっては本当にそれだけのことである。
だからこう言うのだった。
「泉のこともね」
「悪いけれど知らないよ」
「そうなのね。わかったわ」
「じゃあ今回もね」
二人はいささか残念な顔で話した。
「また探さないとね」
「最初からね」
「中々見つからない様だな」
日下部もその二人に言う。
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