八条学園怪異譚
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第一話 湧き出てきたものその五
「それで私に食べさせてくれるかな」
「私のトンカツを」
「そう。私もパン焼いてるし」
自分の話も出す。
「だからね。今度ね」
「じゃあ」
「それに。カツとパンで」
咄嗟にだ。聖花は思った。その二つを組み合わせれば。
「サンドイッチできるわよね」
「サンドイッチ?」
「そう、カツサンドってあるじゃない」
「ええ、あれね」
「カツサンド。二人で作らない?」
愛実に顔を向けてだ。こう言ったのである。
「今度ね。時間があったら」
「じゃあ」
俯いたままだがそれでもだった。愛実は聖花の言葉に応えた。
そのうえでだ。こう聖花に言葉を返した。
「今度。時間があれば」
「うん、その時にね」
「私達二人でよね」
「サンドイッチ作ろう」
愛実に話していく。
「そうしようね」
「そうね。それで」
「トンカツね」
「うん、焼いて食べさせて」
このことは話題を変える為でもあったがそれ以上にだ。聖花は愛実の焼いたトンカツを食べたかった。それで愛実に対して言ったのである。
「そうしてね」
「そう。それじゃあ」
「それじゃあ?」
「私もね」
愛実もだ。俯いたままだがそれでも聖花に述べた。
「パンだけれど」
「私の焼いたパンよね」
「食べさせて」
こう言ったのである。
「そうしてね」
「うん。それじゃあ」
「パンね」
また言う愛実だった。
「私に食べさせてね」
「そうするわ。それじゃあね」
「私も」
聖花の顔は見ない。だが。
彼女にだ。こう言ったのだった。
「聖花ちゃんのパン食べたいし」
「食べてくれる?」
「うん、そうするから」
だからだというのだ。
「絶対にね。けれど私は」
「愛実ちゃんは?」
「まだね」
どうかというのだ。自分の焼いたカツがだ。
「凄く下手だけれど」
「それは」
「それでも食べてくれるのならいいけれど」
こう後ろ向きに言うのだった。
「私としては」
「自信ないの?」
「ある筈ないじゃない」
俯いたままだった。今はどうしても顔をあげられなかった。
その俯いたままの顔でだ。愛実は言うのである。
「だって。私何もできないから」
「けれど家庭科の時間なんか」
「家庭科の時?」
「うん。お料理凄く上手じゃない」
愛実のその腕は誰もが驚く程だった。中学生とは思えないまでに見事に作ってみせる。それも素早く手際よくだ。そこには経験があった。
そして料理だけではなかった。他にもだったのだ。
「お裁縫だってお洗濯だって」
「何でもっていうの?」
「うん。お掃除だって得意じゃない」
「全部お家でやってるから」
「いつも奇麗にしないといけないからだっていうのね」
「そう。だから」
自慢できない、自信を持つべきものではないというのだ。
「そんなことじゃ」
「けれど愛実ちゃんお料理凄く上手だから」
こう言ったのである。
「そんなに自信ない顔になることもないから」
「それにお料理なら」
「お料理なら?」
「聖花ちゃんだって得意じゃない」
実際に聖花はそちらでも有名だった。パン屋でいつもしていることが生きていた。
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