八条学園怪異譚
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第十三話 理科室のマネキンその五
「結構辛いかも知れないわよ」
「何でも昔がいいっていうものじゃないけれど」
「そう。やっぱり今の男の子を見ないとね」
「じゃあ私やっぱりダルビッシュさんかしら」
「やれやれねえ。そこで兄貴って言ったら最高なのに」
愛実はあくまで日本ハムを推す聖花の横で肩をすくめてみせてから言った。
「そうはしないのね」
「だって。ダルビッシュさん本当に好きだから」
「金本兄貴の侠気がいいんじゃない」
「愛実ちゃんってそういう人が好きなのね」
「痺れない?ああいう人」
「確かに。嫌いじゃないけれど」
「特撮俳優の人もいいけれど。とにかくね」
愛実はさらに言っていく。
「男の子も中身でしょ」
「金本さんみたいな人ね」
「うん、そういう人がいたら自分からアタックしたいなって」
「頑張ってね、その時は」
聖花は微笑んで愛実と今は普通の学園のことも含めて楽しく話した。二人共今は怪談から離れていた。だが。
部活でかるたをしていると彼女達と同じジャージ姿の一年の娘達がこんなことを言っているのを耳にした。
「ねえ、普通科の理科室だけれど」
「あっ、あの人体模型よね」
「それに骸骨もね」
こうした話の定番の話になる。
「動くらしいのよ」
「夜になるとよね」
「そうそう、動くのよ」
かるたに励む二人の横で話していく。
「夜の十二時になったらね」
「ひとりでに動いて踊るらしいのよ」
「普通科の宿直の先生がそれで襲われてね」
「どうなったの?」
「食べられたらしいのよ」
怪談のお決まりの流れにもなる。
「それで夜の十二時には普通科の理科室の近くには行くなって言われてるらしいのよ」
「うわ、普通科ってやばくない?」
「やばいわよ。人食い模型が出るのよ」
「お祓いして欲しいわね」
「全くよね」
こんなことを話しているのを聞いた二人だった。二人はその夜早速日下部のところに行きこのことを話した。
日下部はその話を聞くとすぐに二人に答えた。
「それは嘘だ」
「人食べないですよね」
「そうですよね」
「模型が人を食べるものか」
日下部は常識から話す。妖怪や幽霊の世界にもこうしたものはあるらしい。
「特に骸骨だが」
「ええと。食べても」
愛実は骨しかないその骸骨の姿を思い出した。
「中に入らないですよね」
「ぼろぼろと落ちる」
幾ら口で食べてもだ。
「内臓もないのだからな」
「そうですよね、やっぱり」
「全く以ておかしな話だ」
日下部も首を捻りながら言う。
「そんなことは有り得ない」
「じゃあ何でそんな話が」
「噂だ。実際には襲われた人間もいない」
その模型達にだというのだ。
「確かに夜の十二時になると踊るがな」
「それはするんですか」
「歌いもする」
それもするというのだ。
「だが気のいい連中だ。人に迷惑はかけたりはしない」
「というか日下部さんってその模型の人達とお知り合いなんですね」
聖花は彼の話からそのことに気付いた。
「そうなんですね」
「その通りだ。友人達だ」
「ですか」
「本当に至って気のいい連中だ」
日下部はまた言った。
「私は踊ることはしないがな」
「ダンスとかされないんですか」
「歌は歌うがな」
だが踊ることはしないというのだ。
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