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八条学園怪異譚

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第一話 湧き出てきたものその二


「頑張ってね。応援してるわ」
「はい、私頑張ります」
 聖花は目を輝かせて部長の言葉に応えた。この時愛実は部室にいなかった。だが。
 聖花が自分とも比べられて部長に手放しで褒められて応援されているのは聞いた。丁度部室の入り口に来ていたからだ。これがはじまりだった。
 クラスでもだ。時々だがクラスメイト達にこう言われもした。その言われることとは。
「ねえあんた一組の林田さんのお友達よね」
「幼稚園からずっと一緒のクラスだったのよね」
「うん、そうだけれど」
 この時はにこやかに答えることができた。
「ずっと一緒だったのよ。今も部活でね」
「あの娘凄いじゃない」
「この前の中間テストね」
 中学校から中間テストがある。期末テストもだ。クラスメイト達はその話をしてきているのだ。
「五教科殆ど満点だったじゃない」
「それで今の期末テストでもね」
「一組の娘に聞いたのよ」
 クラスメイト達は笑顔で愛実に話していく。
「今回も凄いみたいよ」
「抜群の成績でね」
「クラスで一番らしいのよ」
「聖花ちゃん頭いいのよ」
 愛実は彼女達の言葉に笑顔で応えることができた。実際にそうした。
「小学校の時でもいつも一番だったのよ」
「そうよね。頭いいよね」
「それもかなりね」
「塾でもね」
 愛実と聖花も塾に通っている。八条塾という八条グループの系列の塾だ。八条町では清原塾と並ぶ大手である。しかも予備校としても全国に展開している。
 その八条塾においてもだ。聖花はどうかというのだ。
「特進クラスにいるのよ」
「凄いね。東大行けるかもね」
「京大かもね」
「それで果ては総理大臣とか?」
「博士とかじゃないの?」
 クラスメイト達は無邪気に聖花を褒める。愛実の前で。
 そしてだ。悪気はなかったが愛実にこう言ってしまったのだ。
「あんたは中の上位よね」
「大体そんな感じよね」
「一緒にいて勉強教えてもらったりとかはないの?」
「ええと。それは」
 自分のことを言われるとは思わなかった。それでだ。
 戸惑ってだ。クラスメイト達にこう返した。
「時々そうしてもらってるけれど」
「それで中の上なの?」
「そこそこって感じなの?」
「それ位?」
「そうだけれど」
 口を小さくさせて身体はよりそうさせて。愛実は少し俯いて答えた。
「私はね」
「ずっと一緒にいてもあんたはそれ位なのね」
「まああんたは林田さんじゃないけれどね」
「同じかるた部でもあの娘はエースになれそうだけれど」
「あんたは次点らしいわね」
「聖花ちゃん凄いから」
 また言う愛実だった。
「だからね」
「あんたはあんたっていうのね」
「そう言うのね」
「まあ」
 弱い声でだ。愛実は答えた。
「そうだけれど」
「まあそうだけれどね」
「あんたはあんたよ」
「けれど本当に林田さんは凄いわね」
「滅茶苦茶頭いいじゃない」
「そうね。本当にね」
 自分とも比べられて聖花が褒められることを聞いてだ。愛実は嫌なものを感じた。聖花は凄いのに自分はどうかと。周り全部に言われている様に思えた。
 こうしたこともあった。急にだ。
「ああ、森本いいか?」
「何?」
 一緒のクラスの少し格好いい男子にだ。不意に声をかけられたのだ。実は愛実のタイプだったりする。少し話した感じでは性格も悪くない。
 その彼に声をかけられてどきりとしなかったと言えば嘘になる。愛実もそんな歳になっていた。
 だがその彼女にだ。男子生徒はこう言ってきたのだった。 
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