八条学園怪異譚
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第十一話 池の怪その九
「なら酒をこの池の如く用意しておくのだ」
「じゃあお酒がないと?」
「怒るに決まっておろう」
うわばみで酒がなくて何になるというのだ。
「御主達の胡瓜を一本残らず喰ってやるぞ」
「うわばみさんって胡瓜食べるの?」
「酒のあてになるのなら何でも食う」
どうもこのうわばみは雑食らしい、普通蛇は胡瓜等菜食系は一切口にしないのだがこのうわばみは食うというのだ。
「だからだ」
「困ったなあ。お酒ならあるけれど」
「ならよいではないか」
「うわばみさん飲むから」
大酒飲みといえばうわばみだ。とにかく飲む。
「一斗樽も幾つもだし」
「十は用意しておくことだ」
「だからね。ただでさえお酒に強いのにそれだけの大きさだし」
十メートル以上は確実にある、あのアナコンダよりも巨大だ。
「僕達のお酒がなくなってしまうよ」
「ではわしに勝つことだ。御主達がわしに勝てば胡瓜を山位やろう」
うわばみもうわばみで河童が勝った場合の条件を出してくる。
「どうじゃ、それでな」
「いや、僕達の大きさじゃうわばみさんに勝てないから」
「そういえば御主はわしに一度も勝っておらぬな」
「大きさが違い過ぎるじゃない」
まさに一飲みという位違う。うわばみの大きさは優に河童の十五倍はある、だから河童も彼に対して言うのである。
「勝てないよ」
「ではせぬか」
「うわばみさんと相撲ができるっていったらね。水の妖怪だと」
「牛鬼か」
「牛鬼なんてこの学園にいないから」
凶悪な妖怪として知られている。漁師を襲い何処までも負い掛けて来ると言われている。
「あんな危ないのはね」
「牛鬼は獰猛で凶悪だからな」
「そうだよ。僕達河童にとっても脅威だし」
「わしもあの者達は好かぬ」
「この学園にいなくて本当によかったよ」
「全くだな」
牛鬼については両者の意見は一致していた。
「しかしそれではじゃ」
「うわばみさんの相手いないね」
「やはり河童よ、御主がするか」
「だから勝負にならないから」
河童はまたうわばみに対して言葉を返す。
「大きさ見てよ、大きさ」
「やれやれ。面白くないのう」
「本当に誰かいないかな、相撲の相手」
河童はうわばみとの勝負を避けてこう呟いた。
「折角誰かと一緒って思ったのに」
「猿はどうじゃ。犬とかな」
「どっちも大嫌いだから」
河童はうわばみの今の言葉にこれ以上はないまでの拒否反応を見せて言い返した。
「河童にとって猿も犬もね」
「厄介者以外の何でもないな」
「全くだよ。あいつ等はあいつ等だけで喧嘩してればいいんだよ」
河童は水かみの手を握って必死の顔で言う。
「犬猿の仲っていうしね」
「実際は三すくみだな」
「そうだね。僕達河童もあいつ等と中が悪いから」
「というか御主達も嫌いな相手がいるのだな」
「狐君や狸君達は平気だけれどね」
彼等はいいというのだ。尚狐や狸はイヌ科である。
「犬も駄目なんだよ、河童は」
「また嫌い過ぎだな」
「身体が拒否反応を起こすんだよ」
「では四国はどうだ」
四国は猿の話が多い。特に人を食う大きな猿の話が目立つ。
「わしの故郷でもあるが」
「河童全軍で攻め込みたいね」
「それで猿達を成敗したいか」
「ついでにあそこは犬神もいるから」
あまりよくはない妖怪だ。祟ると言われている。
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