八条学園怪異譚
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第九話 職員室前の鏡その十五
「しかし。どうやら」
「どうやら?」
「どうやらっていいますと」
「百物語と同じでだ」
日下部はよく言われている怪談の話をした。
「ある程度の数のものを見ると何かが起こるらしい」
「って妖怪や幽霊以上のですか?」
「もっと別の何かが出るんですか?」
「そうらしい。そしてこうしたことはだ」
歩きながら二人に話していく。
「私よりもあの博士の方が詳しい」
「大学の教授のですよね」
「百二十歳っていう」
「あの博士自体も学園の不思議になるだろうが」
幾ら何でも百二十歳となれば普通ではない。普通八十で教壇に立つということも滅多にないことであるからだ。
しかしその博士は違う。どうかというと。
「百二十歳でまだ普通に学校に来ているからな」
「というか本当に幾つなんですか?」
「百歳を超えてるっていっても」
「さて。百二十歳以上という噂もあるがだ」
これもまた尋常ではないことだった。
「何しろ日露戦争に従軍したという噂もある」
「えっ、ただその時代にいたんじゃなくて」
「従軍したんですか」
「っていうとその頃にはもう大人だったんですよね」
「戦場に行ける歳だったんですよね」
「軍医として従軍していたらしい」
軍人として参戦していないがこの立場から従軍したというのだ。
「そうしていたらしい」
「軍医ですか」
「じゃあ兵隊さんよりご高齢ですね」
「そうなると幾つになるのか」
日下部は博士の年齢についてかなり真剣に考える。
「百三十か」
「一応長寿の記録って百五十ですよね」
愛実が人類の長寿の記録を思い出してこう話した。
「確か」
「それ位だったな」
「それ以上生きているってなると」
「仙人だな」
「そうですね。仙人になりますよね」
「あらゆる学問を修めているらしい」
ただ異常なまでに長生きをしているだけではない。博士はさらになのだ。
「そしてその中にはだ」
「仙人になる為の勉強もあるんですか」
「仙術というがな」
言うまでもなく中国からはじまる。ただ長寿や仙人になるだけではなく魔術や錬金術といったものも含まれている。中々深い学問なのだ。
「それを身に着けているかも知れない」
「だから長生きなんですか」
「私が戦前に会った時は既に老人だったからな」
「その頃にはですよね」
「そうだ。だからだ」
日下部は首を捻りながら話していく。
「あの博士が幾つかはな」
「わからないですか」
「私もな。しかしだ」
日下部は愛実だけでなく聖花にも話す。
「あの博士に聞けばだ」
「この学園の怪談のことが全部ですか」
「わかるんですね」
愛実だけでなく聖花も言う。
「ある程度観ていけば何が起こるか」
「そのことがですね」
「そうだ。おそらく知っている」
あの博士ならというのだ。
「だから聞いてみるといい」
「ううんと。じゃあ今度はね」
「そうよね」
愛実と聖花は二人で顔を見合わせて話す。
「大学のあの博士のところに行こう」
「それで聞いてみようね」
「その方がいい。とにかくだ」
日下部はその二人にさらに話す。
「自分で調べることも大事だがな」
「知っている人に聞くこともですね」
「そのこともいいんですね」
「そういうことだ。私が知っていることは話せるがだ」
それでもだというのだ。
「知らないことは話せないからな」
「知ったかぶりとかはされないんですか」
「それは何にもならないからな」
愛実にもこう答える、
「私はしない」
「そうなんですか」
「知らないことを知っていると言ってもそれは虚栄でしかない」
日下部はその虚栄というものに対しては肯定しない顔を見せている。そのうえで愛実、そして聖花に対してこう言ったのだった。
「虚栄は偽りのものでしかないからだ」
「偽りは、ですか」
「それは何でもない」
形がない、そうしたものだというのだ。
「だから私は真実を言うようにしている」
「若し海軍や海上自衛隊で偽りを言えば」
聖花が言う。
「あまりいいことじゃないですね」
「その通りだ。それは敗戦につながる」
そうなるというのだ。
「軍隊では真実のみが貴ばれるのだ」
「そうですよね。戦争に勝つ為には」
「それが大事になりますね」
「その通りだ。戦争に勝つには真実のみが必要なのだ」
「ですよね。軍隊にいれば」
「そうなりますね」
「その通りだ。だから私は虚栄なぞは認めない」
それも全くだというのだ。そうした話をしながらだった。
三人は小川の出口に来た。そこで日下部は二人に言った。
「ではまた何かあればな」
「はい、お願いします」
「その時にまた」
二人も日下部に対して応える。こうして別れの挨拶をして日下部は水産科の校舎に、愛実と聖花はそれぞれの家に帰った。それでこの日はこれで終わりまた別の話になるのだった。
第九話 完
2012・9・14
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