八条学園怪異譚
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第九話 職員室前の鏡その十三
「嫉妬は前にも言ったが人の心を特に歪ませるからな」
「だからそうしたものもなくなって」
「さらによくなったんですね」
二人の心が。それは二人もわかってきた。
「そういうことなんですね」
「心が外見にも出て」
「人は持って生まれた顔からだ」
それからだというのだ。
「変わっていく、人相という言葉があるがだ」
「あっ、そのことお姉ちゃんに言われました」
愛実は自分が尊敬する姉に言われたことを思い出して述べた。
「あれですよね。生き方が顔に出るって」
「心、それが出るのだ」
「何かリンカーンでしたkっけ。人は四十になれば自分の顔に自信を持て、と」
「ヤクザ者の顔はどうだ」
日下部は例えとしてそうした世界にいる人間を出した。所謂裏の世界であり碌な人間が集まらない世界である。
その世界にいる人間の顔はどうなっていくのか、日下部が今話すのはこのことだった。
「悪い顔だな」
「大抵そうですよね」
「いい顔をしているヤクザ者なぞいない」
日下部は断言さえした。
「それは何故かというとだ」
「いいことをしていないからですか」
「ヤクザ者は悪事で生きている」
それ故にヤクザなのだ。ヤクザは即ち悪の代名詞とさえなっている。
「そうした人間がいい顔になる筈がない」
「悪いことばかりを考えているから」
「心は顔や目に出る」
例え隠していてもだというのだ。
「必ずな」
「だからですか」
「人は自分の顔をよく見ることだ」
「心が出るからですか」
「歳を重ねるにつれそれは出て来る」
顔はだというのだ。
「徐々にしてもな」
「そうなんですか」
「そして悪を考えていると心が蝕まれる」
ただ顔に出るだけではないというのだ。
「心が病む。心が病めばだ」
「それでも何かなるんですね」
今度は聖花が日下部に問うた。二人は鏡を前にして鏡に映っていない彼と共にいてそれで話をしているのだ。
「やっぱり」
「心が病めば次第に身体も病む」
「病は気からですか」
「そういうことだ。悪しき心に蝕まれているとあまり長くは生きられない」
「あっ、つまりは」
聖花は日下部の今の話からこのことに気付いて言う。
「穏やかな心でいると」
「そうだ。常に怒らず妬まず憎まずだ」
「そうした心でずっといるといいんですね」
「長く生きられるのだ」
「そういうことなんですか」
「大抵長く生きている人は顔が穏やかだがな」
それは心の持ちからにも関係しているというのだ。
「そういうことなのだ」
「そうですか」
「そうだ。そしてだ」
「そして?」
「先程も言ったが君達はそのままでいてくれ」
心が穏やかな、そのままでだと話す。
「是非共な」
「そうすればいいんですね」
「私達は」
「この鏡に映るままに生きて欲しい」
日下部は静かに二人に話す。二人もその言葉を受けて穏やかな顔で頷く。
そのうえで二人は鏡に映る将来の自分達を見たままそのうえでこう言うのだった。
「この鏡ってそういう意味なんですね」
「人の心の戒めなんですね」
「このまま生きればいい」
「そういうことなんですね」
「その通りだ。ところで今回で四回目だが」
日下部は話題を変えてきた。愛実と聖花にこんなことを言ってきた。
ここで二人もその日下部にこう言った。
「あっ、じゃあですね」
「もう」
「そうだな。鏡のことはわかったからな」
日下部も二人に応えて鏡の前を後にする。三人であのガジュマルの木がある小川の方に向かう。そうしながら話していく。
ページ上へ戻る