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八条学園怪異譚

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第七話 魚の目その一


                 第七話  魚の目
 日下部と話をした二人は数日は何もなく過ごした。その数日の最後の日に二人で学校の食堂に入って昼食を食べた。その中だった。
 愛実は肉じゃが定食を食べていた。そのうえで自分の向かい側に座っている聖花にこう言ったのである。
「この肉じゃがってね」
「日下部さんが言ってたわよね」
「そう。海軍からはじまってね」
 日下部に言われたことをそのまま話す二人だった。
「最初はビーフシチューだったのよ」
「ビーフシチューね」
「全然違うわよね。これって」
「ええ、全然」
 聖花も言う。このことは。
「別物にしか見えないけれど」
「そrでも材料は同じなのよ」
「ジャガイモにお肉に」
「人参と玉葱でしょ」
「そうね。完全に一緒ね」
 食べる材料は本当に同じだった。しかしそれでも全く別の料理になってしまっている、愛実はそのことを言うのだった。
「ただ。調味料がね」
「日本のものよね」
「聖花ちゃん肉じゃがについては」
「東郷平八郎に縁があるっていうのは聞いたことがあるわ」
 それはだというのだ。聖花はこのことは聞いていた。
「けれどそれでもね」
「詳しいことは知らなかったのね」
「そうなの。肉じゃがのことは」
「私もそうだったの」
 最近まで知らなかったというのだ。肉じゃがを実際に本格的に勉強するまでは。
「けれど。その東郷平八郎が身体を壊していたか何かでビーフシチューを食べたいって言って」
「それで肉じゃがができたの?」
「作る炊事、給養っていうのかしら」
 この辺りは軍隊用語だった。軍、自衛隊では炊事は給養と呼ぶのだ。
「その給養の人がビーフシチューの調味料を知らなくて」
「日本の調味料で作ったのね」
「それでできたのよ。肉じゃがが」
「そうだったの」
「そう本に書いてあったわ。けれどね」
「全然違うわよね」
「ええ、本当にね」
 愛実も唸る様にして言った。
「私も調べてびっくりしたわ」
「ビーフシチューが肉じゃがになるなんて」
「信じられないわよね。けれどね」
「肉じゃが美味しいわよね」
「ええ。前から好きだったけれど」
 愛実は肉じゃがの中のじゃがいもを食べた。それはよく煮られていて柔らかく味もしみ込んでいた。そのじゃがいもを食べながらの言葉だった。
「今は前以上にね」
「好きなのね」
「ええ。大好きよ」
 笑顔での言葉だった。
「本当にね。後はね」
「カレーも勉強してるのよね」
「そう。それで他のお料理もね」
「勉強してるのね」
「トンカツだけじゃないから」
 このこともわかったことだった。
「私が身に着けないといけないお料理はね」
「ううん、だったら」
「今愛実ちゃんが食べてる」
「秋刀魚定食も?」
「そう。それにしてもその秋刀魚って」
 見てみるとかなり大きい。しかも頭もある。
 その頭も見てだ。愛実は聖花に言った。
「いい秋刀魚ね」
「そうよね。脂も乗ってて」
「すだちかけた?」
「うん、もうね」
 秋刀魚には欠かせないそれもだというのだ。
「かけたわ」
「すだちがないとやっぱりね」
「秋刀魚を食べた気がしないわよね」
「そう思うわ。けれどね」
「けれどって?」
「聖花ちゃんお魚の目も食べたの?」
 愛実は怪訝な顔で聖花にこう問うた。 
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