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『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』

作者:零戦
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第十一話





「……これはどうするんですかね?」

「俺に聞くな片瀬」

 イタリカに到着した第三偵察隊を待っていたのは石弓や弩、弓矢を構えたイタリカ市民だった。更に城壁の上には機械式の連弩も設置されている。

「……熱湯は勘弁してほしいな」

 ヒルダはそう呟く。

「何者かッ!! 敵でないなら姿を見せろッ!!」

 城壁の上から兵士が叫んでいる。

『俺とレレイ、テュカで行く』

 無線で伊丹が知らせる。

「隊長、自分とロゥリィも行かせて下さい」

 樹はヒルダもと考えたが、ロゥリィは亜神だと言っていたのでロゥリィにしたのだ。

『……分かった。それ以外は全員待機だ』

「行くぞロゥリィ」

「分かったわぁ」

 樹とロゥリィが自動貨車から降りて伊丹達と共に門の横にある通用口へと向かう。

「よし、俺が……」

 伊丹が意を決して扉を叩くと、中からガタガタと音がして扉を開けようとするのだと樹は思った。

「よく来てくれたッ!!」

 勢いよく開かれた扉は伊丹を巻き込み、気絶させた。

 レレイとテュカは冷えた視線で扉を開けた女性――ピニャ・コ・ラーダを見つめた。

「……もしかして妾? 妾?」

 ピニャの焦った言葉にレレイ達は思わず頷き、樹はこっそり溜め息を吐いて倒れた伊丹に向かうが明らかに気絶している。

「ぁ~駄目だこりゃ。完璧に気絶してるわ」

 樹はそう呟きピニャを見つめた。

「そこの御嬢さん。一応加害者やし、ちょっと手伝ってくれ」

 樹の言葉にピニャは頷いて、レレイ達は城内に入った。

「貴女どういうつもりッ!?」

 テュカが水筒から水を伊丹にかける。

「ん……」

 程なくして伊丹が目を覚まして起き上がる。

「大丈夫すか隊長?」

「何とかな。悪い、大丈夫だ」

 樹からの言葉に答える。

「で、誰が状況を説明してくれるのかな?」

『………』

 伊丹の言葉にイタリカの住民達は視線をピニャに向ける。

「妾……?」

「だろうなぁ」

 樹はピニャが上の奴だと思って小さく呟いた。



 場所は館へと移動してピニャはこれまでの状況を説明した。

「隊長、司令部に救援要請を送るべきでしょう。時間を要するなら航空部隊が適任です。海軍航空隊が待機しているので十分に攻撃出来ます」

 状況説明を聞いた樹はすぐさま伊丹に具申する。

「……そうだな、司令部にはそう要請しよう」

 この時、二人の脳内には上空から急降下爆撃をする九九式艦爆と九九式襲撃機と機銃掃射をする零戦や九六式艦上戦闘機が浮かんでいた。まぁ実際にそうなるが……。

「では……」

 ピニャが身を乗り出す。

「一時的に休戦としましょう。今はこのイタリカの市民を守るのが先決です」

 伊丹はピニャにそう言った。

「有りがたいッ!! それで貴官らに死守してもらいたい場所だが……」

 ピニャは嬉しそうに伊丹に指示を出す。そして死守する門は南門だった。南門は一度破られており修復は困難な状況だった。

 そこで敵も南門を攻めるだろうから城門と城壁での第一防衛線と内側の柵で防ぐ第二防衛線をとピニャは考えていた。

 明らかに城門が突破される事を前提に戦術を構築していた。

「ピニャ代表」

 そこへ樹が口を開いた。

「何だ?」

「もし、敵が南門からではなく他の門から来た場合は直ぐに伝令で我々に伝えて下さい。若しくは我々で移動の判断をします」

「南門から来るはずだが……」

「敵とてそれを読んでいる可能性はあります。戦には常識は通用しない」

 樹はピニャにそう言った。

「……分かった、此方からも伝令は送るが独自で動いても構わない」

 ピニャはそう判断をした。ピニャの言葉に樹は無言で頭を下げるのであった。



「せっかく姫様が思案した作戦を少し変更するなんて……」

 伊丹達が退出した後、ピニャの傍らにいたハミルトンが作戦を若干変更させた樹に対してそう批判した。

「……仕方なかろうハミルトン。彼等もイタリカの市民を助けてくれるのだ。あまり文句を言うな」

 ピニャはハミルトンの頭を冷静にさせる。

「ですが……」

「そうだ、ハミルトン」

 ピニャは思い付いたかのように手を叩いた。

「彼等にも食事を提供するから彼等の様子を見てきてくれ。本当に彼等は強いのかどうかをな」

「わ、私がですかッ!?」

 ピニャの要望にハミルトンは驚いた。

「なぁに、食事を渡してどんなのかを見るだけだ」

「はぁ……」

 ハミルトンは反論したかったが相手は姫であるので結局は首を縦に頷き、夕食用の食事をメイド数人と共に南門へと向かったのである。

「古田、軽機関銃は此処」

「東、小銃は此処」

 南門では伊丹が防衛のために陣地の構築をさせていた。

「ねぇ? 敵のはずの帝国にどうして味方しようとしているのかしらぁ?」

 作業を見ていたロゥリィが樹に聞いた。

「……街の住人を守るためや」

 樹の言葉にロゥリィは苦笑する。

「本気で言っているのぉ?」

「……そういう事になってる筈だが?」

「私はぁあの女は気に入らないわぁ。出ていってやろうかと思ったわよぉ」

「成る程な、どうりで機嫌が悪いと思った」

 樹はその時のロゥリィを思い出しつつ、樹は栗山から受け取った日章旗の手拭いを鉄帽に巻こうとする。

「手伝うわぁ」

「お、済まんな」

 樹は鉄帽を外して巻いてもらう。

「エムロイは戦いの神。人を殺める事を否定しないわぁ。でも、それだけに動機がとても重視されるの。偽りは欺きは魂を汚す事になるわよぉ」

 ロゥリィはそう言って両手で樹の頭に鉄帽を載せた。

「……隊長とも話したが、住人を守るのは嘘やない」

「ホントぉ?」

「あの姫様に日本と戦うより仲良くした方が得やと理解してもらうためや」

 樹の言葉にロゥリィは微笑んだ。

「それ、気に入ったわぁ。そういうことなら是非協力するわぁ。私も久々に狂えそうで楽しみぃ」

 ロゥリィは黒いスカートを摘んで優雅な振舞いで頭を下げた。

「エムロイの戦いを貴方に見せてあげるわぁ」

 ロゥリィはそう言って微笑むのであった。







 
 

 
後書き
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