スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇
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第六十一話 砂漠の狼
第六十一話 砂漠の狼
地上に降下したロンド=ベルはダカールを拠点としてネオ=ジオンに備えていた。既にネオ=ジオンもその主力をカイロに置いており南下に取り掛かろうとしていた。ロンド=ベルはそれを受けてサハラ砂漠に展開して彼等を待ち受けていたのであった。
「敵はどういったルートで来るでしょうかね」
「一番の近道は砂漠の通過だな」
グローバルは早瀬のその問いに対して答えた。
「それは君も予測していることではないのか」
「はい。ですから今こうしてサハラ砂漠に展開しております」
「ふむ」
「四隻の戦艦により。これならばネオ=ジオンといえどもそうおいそれとは対抗できはしないでしょう」
「だが彼等はそれだけではない」
グローバルはまた言った。
「彼等は。ジオンの残党も抱き込んでいるのだぞ」
「それはわかっています」
「ならば。数のうえでは油断はできないな」
「ですが彼等は旧式機ばかりです」
クローディアがここで言った。
「あまり脅威に感じる必要はないと思いますが」
「クローディア君、戦いはマシンだけでするものではない」
グローバルは彼女に対しても言った。
「例え一年戦争の頃のマシンだとしても。乗っている者が優秀ならば違うのだ」
「はあ」
「フォッカー少佐達のバルキリーも。新型機が出ていてもまだ第一線だな」
「はい」
「それと同じだ。要は乗る者だということだよ」
「ではジオンの残党はかなりの脅威だと思われるのですか」
「その通りだよ」
彼は言った。
「だからこそ。気をつけてくれ給えよ」
「わかりました」
「ところでラ=ギアスに向かった彼等はどうしているかな」
「それは」
そこまでは流石に知りようがなかった。
「無事だとは思いますが」
「だといいがな。我々も宇宙での戦いが終わったのだ。彼等もそろそろだと思うがね」
「はい」
「エネルギー反応です」
ここでキムから報告が入った。
「エネルギー反応」
「はい。巨大な質量のものが三つ。こちらに実体化してきております」
「巨大なものが三つ」
「まさか」
「いや、そのまさかかも知れないぞ」
グローバルは早瀬とクローディアに対して言う。
「どうやら彼等も無事だったみたいだな」
「はい」
実体化したものは彼等が期待したものであった。今ここにロンド=ベルは無事再び合流したのであった。
彼等は七隻になりそのままサハラに展開していた。既に砂漠にマシンを投入し敵に備えていた。
「砂漠での戦いも久し振りだな」
アムロが笑いながら言う。彼はニューガンダムで出撃していた。
「一年戦争の時を思い出す」
「ああ、あの時か」
ブライトもそれに応える。
「あの時は。苦労したものだ」
「俺も御前も。お互い若かったな」
「そうだな。リュウ中尉やセイラさんがいてくれたおかげで助かった」
「リュウさんか。元気でやっているかな」
「ヘンケン艦長の部隊で元気にやっているそうだ」
「そうか。また会う機会があったら酒を飲み交わしたいな」
「その時は私も呼んでくれよ」
「ああ、わかった」
「けどダカールを空にしていいのかね」
ふと勝平が呟く。
「オールスターってのはいいけどさ。ダカールに誰もいねえってのはまずいんじゃねえかな」
「おい、何言ってるんだ」
宇宙太がそれを聞いて呆れたように言葉を返した。
「ダカールにもちゃんといるだろうが」
「誰がだよ」
「キング=ビアルがいるでしょ。もう、自分の家族がいるのに忘れちゃったの?」
「おっと、そうだったか。そういえばそうだったんだな」
「この馬鹿は」
「何でこう何でもかんでも忘れちゃうのよ」
「俺は戦いだけにしか興味ねえからな」
勝平はこう言って開き直ってきた。
「だからそんな些細なことは忘れちまうんだよ」
「そんな能天気なことで今まで良く生きてこられたな」
「本当。今回ばかりは呆れたわ」
「ははは、気にしない気にしない」
「それにあそこには連邦軍の主力もいるしね」
「そうだったんだ」
勝平は万丈の言葉に顔を向けさせた。
「そうさ。ミスマル司令が指揮をとってね」
「ああ、あの面白いおっちゃんか」
「ははは、おっちゃんか」
「何かなあ、あの人すぐ顔が変わるしなあ」
「まあそうだね」
「普段は滅茶苦茶おっかなそうな顔してんのにミスマル艦長を前にしたら急に変わっちゃうんだもんなあ」
「ははは、それだけ娘さんが可愛いってことさ」
「そうなんだ」
「あたしなんかお父さんやお母さんにあそこまで可愛がられたことはないけどね」
「いや、恵子ちゃんも大事にされてきたよ」
「そうかしら」
「君が気付いていないだけでね。可愛がられてきたんだ」
「だったらいいけれど」
「普通の親はね、そうなんだ」
万丈の顔が変わった。
「間違っても自分の子供を犠牲にしたりはしない。絶対に」
その顔が曇った。しかしそれは一瞬のことであった。
「試しにナデシコの艦橋を覗いてみようか」
「ナデシコの」
「そうさ。きっと今頃ミスマル司令がおいおいとやってるよ」
「何か面白そうだな」
「悪趣味な気もするけれどな」
「まあ固いことは言わないで。それじゃあスイッチオン」
こうして四人なモニターのスイッチを入れた。すると万丈の予想通りの光景がそこにあった。
「おお~~~~、ユリカ」
ミスマル司令は泣きながらユリカに語り掛けていた。
「無事だったか!?宇宙に行くと聞いてお父さんはどれだけ心配したか」
「もう、心配し過ぎよ、御父様ったら」
だが当の本人はいつものようにあっけらかんとしたものであった。
「火星にいた時と同じなんだから。こんなの平気よ」
「しかしコロニー落としにマスドライバー。おまけにポセイダル軍と戦闘があったそうじゃないか」
「ソロモンの悪夢もいましたけど」
「おお、何と恐ろしい話だ」
「・・・・・・案外普通よね」
ハルカは目を閉じ苦笑いを浮かべて困ったような顔でエクセレンに対して言った。
「まあね」
エクセレンも同じような顔で大きな汗をかきながら応えていた。
「ロンド=ベルだと。もっと洒落にならない戦いもあったんでしょう?」
「ロシアでのティターンズとの戦いなんか。十倍の戦力差だったから」
「またワイルドで」
「パイロットもジェリド=メサにヤザン=ゲーブル。ザビーネ=シャルにカテジナ=ルースよ」
「クールなのがあまりいないわねえ、何か」
「大変だったわよ、何かと」
「そうでしょうねえ、そんな顔触れが相手だと」
「で、その時もこんな調子だったんだけれど」
「やっぱりね」
「今度の敵はジオンの残党だよ!?お父さんはどれだけ心配か」
「大丈夫ですって。思い切りやっちゃいますから」
「しかも艦長相変わらずだし」
「こりゃ先が思いやられるわ」
「そろそろ新型艦も届くんですよね」
「うむ」
メグミの言葉を聞くと急に元の厳しい顔に戻った。
「その通りだ。今度就航するナデシコCはもうダカールに向けて送られている」
「ジャブローからですか」
「そう。ネルガル重工が気を利かしてくれてね。有り難いことだ」
「それじゃあダカールでの戦いが終わったら乗り換えますね」
「うんうん、だから何時でもダカールに戻っておいで。お父さんは本当にユリカのことが心配で心配で」
「・・・・・・人の顔って本当に一瞬で変わるのね」
「まあ私達も結構表情豊かだけれどね」
「声が似ている人達の中にはそうでない人達もいるにはいるけれどね」
「まあそれは言わない約束で」
この時宇宙にいるサラとラー=カイラムにいるエマがクシャミをしたのはあまり知られてはいない。
「とりあえず司令」
「何だね、シナプス大佐」
また元の顔に戻った。
「まずはダカールの防衛ですが」
「うむ、それだがね」
「はい」
真面目な顔のまま話は続けられる。
「実は既に整え終えてはいる」
「はい」
「神ファミリーにも協力してもらってね。既に市街地の外にモビルスーツ部隊を展開させている」
「では万全とみなさせて頂いて宜しいでしょうか」
「だが実はそうもいかない」
「何故」
「我々のモビルスーツの数が足りないのだ。太平洋とジャブロー、そしてヨーロッパ方面に集中させていてね」
「とてもダカールにまで手が回らないということですか」
「恥ずかしい話だが。こればかりはどうにもならなかった」
「仕方ありませんな、それでは」
「神ファミリーに関しても。残念ながら連邦軍内で偏見が根強い」
「おい、何でだよ」
それを聞いて勝平が話に入ってきた。
「俺達だって地球の為に戦っているんだぜ。それが何で」
「ところが君達の出自を理由にする者達もいるのだ」
ミスマル司令は沈痛な顔でこう述べた。
「出自って」
「君達がビアル星人だからだ。そして君達がいるせいでガイゾックがやって来たとな。そうした意見もあるのだ」
「馬鹿言ってんじゃねえ、あいつ等が地球に来るのは」
「人間とは愚かな一面もある」
その声に沈痛さが増していった。
「そう考えられない場合もあるのだ。今はこうした状況だしな」
「クッ・・・・・・」
「君等が地球の為に戦ってくれていることは多くの者がわかっている。しかしわかっていない者もいるのだ」
「あの三輪のおっさんかよ」
「彼もそうだが彼だけではないのだ」
司令は言った。
「残念なことだ。実に」
「そんな・・・・・・」
それを聞いてさしもの勝平も黙ってしまった。
「それじゃあ俺達は一体・・・・・・」
「気にすることはないさ」
だがここで一矢が言った。
「俺も。エリカがそうした目で見られているからな」
「一矢さん」
「けど、俺は負けない、エリカもな」
「・・・・・・あんた、どうしてそんなことが言えるんだよ」
それを聞いても勝平は言葉を返せなかった。
「あんな状況でどうやって」
「パンドラの箱の話を知っているかい?」
「パンドラの箱」
「そう。ギリシア神話にあるあれさ」
「確か箱を空けたらそこから多くの災厄が出て来るんですよね」
恵子が問うた。
「そう。だけれど人間の側に残ったものが一つだけあった。それは」
「希望」
勝平達は同時にそれを呟いた。
「そう、それはどんな災厄にも負けないんだ。だから俺もエリカも負けはしないんだ」
「相変わらず甘いことを言っているな」
京四郎がそれを聞いて言う。
「京四郎」
「だが。希望を持つのは悪いことじゃない。少なくとも俺は御前のその甘さが好きだ」
「済まない」
「謝る必要はないさ。背中は任せておけ」
「ああ」
「俺もいるしナナもいるしな」
「そういうこと。だから任せてね、お兄ちゃん」
「わかった。俺は常に希望を持っている」
「そういうことなのね、一矢さんが希望を持てるのは」
恵子は晴れやかな顔で言った。
「そうさ。俺達は一人じゃない。京四郎もナナもいてくれる」
「毎度毎度世話がやけるがな」
「けど。任せてもらっていいわよ」
「何か心強いな」
宇宙太の声が温かいものになった。
「そうして周りに誰かいてくれるとな」
「俺達にも家族がいるしな」
「頑張っていくわよ」
「よし」
ザンボットチームも前に出た。ルリはそんな彼等を見て表情を変えずにまずは呟いた。
「いいですね、やっぱり」
「そうね」
それにレイが応える。
「私にはよくわからないことがまだあるけれど」
「そうなのですか」
「けれど。碇君達と一緒にいるようになって。わかってきたわ」
「それは何よりです」
「貴女も。そうだったみたいね」
「はい。私もナデシコに来るまではそうでした」
ルリはそれを認めた。
「温かいということが何なのか。知りませんでした?」
「今は知っているのね」
「ええ。ナデシコの皆さんと、そして一矢さんを見ていると」
そう言いながらモニターに映るダイモスを見ていた。
「わかってきました。少しずつ」
「一矢さんのこと。応援しているのね」
「はい」
これは一言で言い切った。
「是非共。幸せになって欲しいです」
「そうね」
レイはその言葉に頷いた。
「私も。そう思うわ」
「レイさんも」
「よくわからないけれど。あそこまで一途になれるのなら」
「いいのですか」
「これからも大変だろうけれど頑張って欲しいわ」
「そうですね」
「あの人達に何かあったら」
「その時は私達が」
「頑張りましょう」
「わかりました」
「けれどちょっち妬けるのよねえ」
ミサトはやれやれといった顔でこう言った。
「あそこまで熱いと。離れ離れになってまで」
「ロマンスよね」
リツコがそれに応える。
「若い男女の許されぬ愛。ロミオとジュリエットよ」
「けれどそれがいいんですよ」
マヤがここで話に入る。
「例え何があろうとも掴み取るんだ、って。一矢君見てると私も恋をしたくなります」
「恋。それはここに来い・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
イズミの突然の駄洒落にグランガランの艦橋は凍りついた。
「イズミさん、それはちょっと違いますよ」
「そう」
「恋は愛なんですよ。燃えるような恋」
「意外とマヤちゃんって夢見る少女だったのね」
「そうね。けれどイズミちゃんの駄洒落をフォローできるなんて流石ね」
「似てる声で慣れてきたってことかしら」
「さあ」
ミサトとリツコは二人のやり取りを聞きながらそう話していた。
「一矢君とエリカちゃんはこれから目が離せませんよね」
「結構うちの部隊ってそうしたのは完成されてるからなあ」
「まあ全然気付いていない連中もいるけどな」
「確かに。どっかの方向音痴君とかね」
「ははは、彼はなあ。まだまだ先だよ」
マコトとシゲルは笑いながら話をしていた。そこでマサキがクシャミをした。
「チェッ、風邪かなあ」
「何かベタよね、それって」
「何とやらは風邪ひかないっていうけど」
「おい、そりゃどういう意味だ」
マサキはシロの言葉につっかかった。
「俺だって風邪くらいひかあ」
「冬でもトランクス一枚で寝ているのに?」
「あれが男のパジャマなんだよ」
「そんなの初耳だニャ」
「男の素足なんぞ見苦しいだけだニャ」
「ああ五月蝿え。そんなこと言ってると逆さづりにするぞ」
「その時はあたし達影に隠れるから」
「どうぞ御自由に」
「チェッ」
ここはマサキの負けであった。仕方なく口をつぐむ。
「けど。何かあっという間だったよねえ」
クロは話題を変えてきた。
「ラ=ギアスからここまで。色々とあったニャ」
「それはそうだな」
マサキもそれには同意した。
「何かとな。それでまた地上だ」
「ここにいる敵はもうわかっているよな、マサキ」
「ああ、まあな」
今度はシロの言葉に頷いた。
「けど、まだ何かあるだろうな」
「何か」
「ああ。ネオ=ジオンとかティターンズとか以外にもな。他にも色々いるしな」
「バルマーとかかニャ?」
「それもあるけれどな。他にもだ」
「他にも」
「何か・・・・・・嫌な予感がするんだ」
マサキは真剣な顔でこう呟いた。
「それとはまた別に。出て来そうでな」
「そういう時のマサキの勘って当たるからなあ」
シロが言った。
「要注意ってことよね。まあ何もないことを祈るわ」
「ところでクロよ」
「何?」
「御前の声もなあ。よく聞き間違えるんだよ」
「ニナさんとかかニャ?」
「ああ。シロもな。カトルとそっくりだしな」
「おいらはそうかも知れないけれどクロは大分違うニャ」
「まあそうだけれどな。俺もヒイロと声が似てるしな」
「そうそう」
「まあそれは置いておいてだ。今度の敵はジオンの残党だったよな」
「それもいるってことだぞ」
「ああ。何かな、嫌らしそうだな」
「嫌らしそう?」
「砂漠だろ?砂漠で戦うのはな」
「確かサイバスターは土には相性がよかった筈だぜ」
「そういう問題じゃなくてな。何処から敵が出て来るかわからねえからよ」
「ああ、それ」
「気をつけておいてくれよ。奇襲なんか受けたら洒落にならねえからな」
「了解」
「じゃあ哨戒はおいら達に任せておくニャ」
「頼むぜ。何かあってからじゃ遅いからよ。ミオも頼むぜ」
「頼まれるわよ」
「地中とかな。宜しく頼むぜ」
「了解」
「あとはゲッターとスペイザーか」
「任せておきな」
「こういうのは大好きだしね」
隼人とマリアがそれぞれ言葉を返す。
「任せておいてよ」
「大丈夫かね」
「あっ、何か気に障る言葉」
「いや、そうじゃなくてな」
「マサキって本当に女の子の扱い下手よね」
「こんなこと言ったら突っ込まれるのに決まってるじゃない」
「まあいいわ。作戦行動中だし」
マリアはマサキのところにまで行こうとしたがそれは止めた。
「そのかわり。あとで怖いわよ」
「チェッ」
「黙っていればいいのに」
「雉も鳴かずばっていうけど」
「御前等も黙ってろよ」
マサキはクロとシロにこう言って誤魔化そうとした。
「それより哨戒はいいのかよ」
「今のところ問題はないニャ」
「地中にも何もいないわよ」
ミオからも通信が入ってきた。
「そうか。けれどそろそろだろうな」
「だろうね」
ミオもそれには同意した。
「何が出るかな、何が出るかな」
「・・・・・・何でそんなに嬉しそうなんだよ」
「知らない?こうやってでっかいサイコロ回す唄があるんだけれど」
「そんなの知らねえよ」
「そっかあ、残念」
「大体いつもそんなネタ何処で仕入れて来るんだよ」
「テレビで。何かと勉強になるよ」
「ネタも勉強かよ」
「そういうこと。意外と面白いよ」
「俺は生憎お笑いは目指しちゃいないんでな」
「けど素質はあるよね」
「同感」
「流石にミオはよく見てるニャ」
「御前等さっきからどっちの味方なんだよ」
「あたし達はあたし達の味方よ」
「そもそも猫に何を求めているんだよ」
猫は元々我が侭で気紛れなものである。クロとシロはファミリアでありかなりしっかりしているがこうした習性はやはり同じであった。
「御前等それでもファミリアかよ」
「ファミリアだけれど猫だニャ」
クロが言い返す。
「そしてマサキの無意識の表れでもあるんだぞ」
「そうだったな」
マサキはそれを言われ少し頷いた。
「ファミリアってそうだったんだな」
「そうそう」
「ヤンロンのあれもミオのも納得できるな」
「けどテュッティのあれは腹が立つニャ」
「仕方ねえだろ。犬と猫は仲が悪いもんだ。俺には別に何ともねえぞ」
「それでもむかつくニャ」
「まあそう言うな。お互い嫌い合っているんだからお互い様だ」
「うう」
「ただわかんねえのがシュウんとこなんだよな」
「チカのこと?」
「ああ。あれはなあ。一体何なんだろうなあ」
「シュウの抑圧された意識じゃないかな」
シロが言った。
「抑圧された意識」
「そうさ。だってシュウっていつも慇懃な態度じゃない」
「ああ」
「それだとストレスもあるんじゃないかな。それがチカに出ているんじゃないかニャ」
「で、あんなにやかましいのか」
「おまけに口も悪いし」
「シュウも密かに口は悪いけどな」
「お金にも汚いし」
「あれがわからねえんだよな。まあシュウも色々あるってことか」
「そうだと思うニャ」
「その点マサキはわかり易いけどね」
「つまり俺が単純だって言いたいんだな」
「そういうこと」
「おめえ等当分餌抜きだ」
「あたし達前から何も食べないよ」
「ファミリアだから。残念でした」
「ヘッ、本当に口が減らねえ奴等だぜ」
そんな話をしながら砂漠を進んでいた。そしてその先ではネオ=ジオン軍が進撃していた。
「宜しいのですか、ハマーン様」
イリアがグワダンの艦橋にいるハマーンに対して問う。
「何がだ」
「ロンメル大佐のことですが」
「致し方あるまい」
ハマーンはまずはこう言葉を返した。
「彼が望んだことなのだからな」
「しかしロンド=ベルは宇宙に向かった部隊と地球に潜伏していた部隊が合流しかなりの戦力となっていますが」
「それもわかっている」
ハマーンは言った。大空魔竜達三隻の戦艦は地球に潜伏していたと考えられているのである。ラ=ギアスで戦っていたことは他の者は知らない。
「幾らロンメル大佐と青の部隊が精鋭だといっても。質量共に違い過ぎます」
「マシュマーとグレミーの部隊を援軍に送っているがそれだけでは不足か」
「私はそう思います」
イリアも引かなかった。
「やはり。全軍で向かうべきだったかと思います」
「確かにそれでは勝てたかも知れない」
「ならば」
「だが。それでロンメルが納得すると思うか」
「大佐がですか」
「そうだ。あの男は誇り高い。自らの手で戦うことをよしとしている。本来ならばマシュマーやグレミーが向けられたことも
内心快く思ってはいない筈だ」
「誇りですか」
「私も最初は全軍でロンド=ベルに向かうつもりだった。ただでさえ我が軍は数が少ない」
「はい」
「火星の後継者達の援軍はあってもな。それにあの草壁という男」
「草壁という男」
「ジオンの大義とは関係のない男だ。ましてや北辰衆なぞ。信用できる筈もない」
「それは同意致します」
イリアも北辰衆は信頼してはいなかった。
「彼等からは得体の知れないものすら感じます」
「そなたもか」
「はい」
どうやらハマーンもそれは同じであるようだった。
「あの者達は。獣だ」
「獣ですか」
「そうだ。餌を与えているうちはいい。だがそれをきらしたならば」
「我等にも牙を剥いて来る、と」
「私はそう見ている。若しミネバ様にその牙を剥いたならば容赦はするな」
「はっ」
「消せ。一人残らずだ」
「わかりました」
「ロンメルのことは彼等に任せよ。今は我々は一路ダカールに向かう」
「ハッ」
「そしてミネバ様をそこにお入れするのだ。そしてジオンの大義を宣言する」
「それこそがジオン復活のはじまり」
「そう。ミネバ様がジオンの公王になられる時だ。今まで長きに渡ってアクシズに閉じ篭っていた我々がな」
「ではその時の為に」
「進む。よいな」
「了解」
こうして彼等はサハラ砂漠を隠密に迂回してダカールに向かっていた。しかしこれもまた何者かに補足されていたのであった。
「そう易々と貴女達をダカールに行かせるわけにはいかなくてね」
白いスーツの男が砂漠のジープの中でノートパソコンを打っていた。
「悪くは思わないようにね。まあダカールは見れるでしょうから御安心を」
そう言ってパソコンを打ち続けていた。彼はそれが終わるとジープで何処かへ姿を消したのであった。
「敵発見」
先頭を行くガンダムチームからの報告を受けてロンド=ベル隊に緊張が走った。
「敵の数は」
「何か砂嵐が酷くてよくわかんねえんだけれどよ」
「わかるだけでいい。報告してくれ」
ブライトがビーチャに対して言う。
「どれだけだ」
「レーダーに映っているのは二百機程かな。何かやけに古そうなモビルスーツが多いな」
「古そうな」
「ああ。こりゃデザートザクかな」
「えっ、デザートザク」
バーニィがそれを聞いて嬉しそうな声をあげた。
「そんな年代ものがまだあったんだ」
「ちょっとバーニィ」
クリスが彼を窘める。
「今は戦闘中よ。わかってるわね」
「わかってるけどさ」
「まあまあクリス中尉」
コウが間に入ってきた。
「いいじゃないか。折角年代もののモビルスーツが出て来たんだし」
「そんなの前のバルマー戦役で嫌になる程出て来てますけど」
「細かいことは言いっこなし。そうかあ、デザートザクかあ」
彼もまたモビルスーツマニアなのである。
「いいなあ。他に何があるかな」
「ゲルググがあるよ」
今度はモンドが言った。
「あとグフもあるし。何か凄いよ」
イーノも言う。彼もかなり楽しそうであった。
「うわ、聞いてるだけで涎が出そう」
「これで旧ザクでもあれば完璧なんだけれどな」
「流石にそれはないみたい」
エルが応える。
「けれどこれだけ旧型モビルスーツがあれば。売れるわよねえ」
「ルー、貴女エゥーゴのパイロットだったんじゃ」
「前はそうでしたけど。今はシャングリラでジャンク屋やってますから」
「そうだったの。道理で」
クリスはそれを聞いて異様に納得していた。
「感じが変わったと思ったら」
「意外といいものだよ、ジャンク屋も」
プルがルーにかわって答える。
「気楽だしな。それに毎日お風呂に入られる」
「プルツーも変わったし。この子達には合ってるのかもね」
「今度俺も店に入れてもらおうかな」
「バーニィさんなら何時でもいいぜ」
ジュドーが言った。
「クリスさんも。一緒にどうだい?」
「私は遠慮するわ。私はやっぱり軍にいるのが合ってるし」
「それは残念」
「クリスさんだったらモデルにでもなれるのに。惜しいなあ」
「褒めたって何も出ないわよ、イーノ」
「あれっ、僕何も言っていませんけど」
「じゃあケーンね」
「へへっ、その通り」
ケーン達ドラグナーチームがクリス達の横に来ていた。
「何かお金の話が聞えたんで」
「俺達もお金は大好きなんで」
「三銃士の参上というわけ」
「全く困った子達ね」
クリスはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「そんなのだと。将来いい大人にはなれないわよ」
「そこは口八丁手八丁」
「ノリと勢いで」
「どうにでもなるのが人生と」
「あっきれた」
「まあモビルスーツの素晴らしさがわかるんじゃいいんじゃないかな」
「何言ってるのよバーニィ、彼等が欲しいのはお金よ」
「あれっ、そうなの」
「大体彼等にしろジュドー君達にしろしっかりしてるんだから。何処をどうやったらこんなふうになるのかわからないけれど」
「きつい御言葉」
「何か俺達って結構ジュドー達と同一視されてるんだな」
「この前フロイライン=アスカには三馬鹿なんて呼ばれてたしなあ」
「何か言った?」
今度はアスカが出て来た。
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのよ」
「ほら、噂をすれば何とやら」
「本当に耳年増だよなあ」
「一言余計なのよ、あんた達は」
そう返してまた言う。
「大体男ってのはねえ、無口で強くないといけないのよ。それで何でそんなにペチャクチャと」
「無口で強い、ねえ」
「じゃあBF団十傑衆の直系の怒鬼なんかは」
「いいねえ、あれで格好いいし」
「しかも組織の大幹部ときた」
「・・・・・・あたしはとりあえず普通の人限定なんだけれど」
「人間だよなあ、一応」
「確か科学的にはそうだったな!」
「あれの何処が人間よ!七節艮であちこちぶっ壊しまくってんじゃない!あんなの使徒より強いわよ!」
「使徒より強いって」
「それは言い過ぎじゃ」
「あたしはああいった常識外れなのが一番嫌いなのよ!ちょっとはまともな人間はいないの!?」
「タケルなんかどうだ」
「タケルさん」
アスカはそれを聞いてキョトンとした顔になった。
「ああ。強いし無口な方だしそれにルックスもかなりのもの」
「年上だしアスカ的にもいいんじゃないのか」
「あたし別に年上は」
「あれっ、違ったのか」
「そういうんじゃないわよ」
ケーンに応える。
「ただ。あの人はちょっと」
「タイプじゃないってか」
「いや、格好いいとは思うわよ。けど」
「けど。何なんだよ」
ジュドー達も話に入ってきた。
「あたしなんかが入られる人じゃないから」
「謙遜ってやつ?」
「だから違うって。けど、何か重いもの背負っている人だからね。あたしなんかよりずっと」
「まああの人はね」
これにはガンダムチームもドラグナーチームも頷いた。
「本当に。辛いだろうから」
「そういうのを受け止めてくれる人がいたらいいんだけれどね」
ルーが言う。
「包容力があるか。優しいか」
「けど。タケルさんも凄く優しい人だから」
「それがかえって辛い場合もあるしね」
ビーチャにモンド、そしてイーノも言った。
「そうなのよね。誰かいてくれたらいいだけれど。タケルさんにも恋人が」
エルの続いた。
「せめて全部わかってくれる人がいると違うだろうな。俺のとこのリィナみたいに」
「あれっ、そういえばリィナここにいないね」
「ダカールに置いてきた」
プルに答える。
「ダカールに」
「ああ。今回砂漠での戦いだからな。色々と危ないしな」
「危ないって何がだ」
プルツーがそれに問う。
「お風呂ならあるぞ」
「そんなんじゃなくてな。砂漠って毒蛇とかいるだろ。サイドワインダーとかよ」
「ジュドー君」
クリスがそれを聞いて困った顔をして彼に声をかける。
「何、クリスさん」
「それ北アメリカよ。アフリカにサイドワインダーはいないわよ」
「あっ、そうだったか」
「まあここにも色々といるけれどね。だから安心できないのは同じだけれど」
「じゃあリィナ置いてきたのはどのみち正解だったかな」
「リィナちゃん人参食べろって五月蝿いのがなければなあ」
「それは御前が単に人参嫌いだからだろ。あの娘はいい娘だぜ」
「それはわかってるさ。けれどな」
キースの言葉に口を尖らせる。
「やっぱり人参は食べられないよ」
「やれやれ」
「話はそれで終わりか」
今度はバニングが入ってきた。
「大尉」
「丁度いいタイミングだ。来るぞ」
「敵が」
「そうだ。砂漠から来る。用意はいいな」
「勿論」
彼等は一斉に応えた。
「空からの部隊はドラグナーチームと変形可能なモビルスーツがメインであたれ。他の者は砂漠から襲って来る部隊を迎撃しろ」
「了解」
「我々は砂漠での戦いにはあまり慣れてはいない。地の利も敵にあることを忘れるな」
「はい」
「わかったら行け。いいな」
「わかりました」
バニングの指示の下彼等は一斉に動いた。するとその前に砂の海からジオンのモビルスーツ達が次々と姿を現わしてきたのであった。
「来たな、連邦の犬共め」
その先頭にいるデザートザクに乗る険しい顔の男が呟いた。彼がロンメルであった。
「この日が来るのをどれだけ待ったことか」
彼は感慨を込めて呟いた。
「今日こそはジオンの大義を。果たしてくれる」
「ジオンの大義ですか」
上にいる赤いバウから通信が入ってきた。
「今まで待たれていたのですね」
「貴官は」
「グレミー=トトです」
まずグレミーが名乗った。
「大佐の援軍に来たネオ=ジオンの者の一人です」
「そうか、そうだったな」
ロンメルはそれを聞いて頷いた。
「とりあえずは感謝する」
「はい」
だがその言葉は何処か不愉快さが混じっていた。やはり援軍というものに内心楽しんではいないようであった。
「援軍に来たのは貴官の部隊だけだったか」
「いえ、私だけではありません」
「すると」
「私も一緒です」
ザクⅢ改が砂漠の中から姿を現わした。
「マシュマー=セロ、義によって助太刀させて頂きます」
「義によって、か」
「はい」
マシュマーはその言葉に頷いた。
「私もまたネオ=ジオンの大義の為に戦っていますから」
「そうか。いい目をしているな」
「有り難うございます」
「疑いを知らない目だ。ジオンにはそうした目をした者が多かった」
「はい」
「アナベル=ガトーもまたそうだった。いい男だった」
「少佐を御存知なのですか」
「当然のことだ」
ロンメルは答えた。
「私もかってはドズル閣下の下にいたことがあったからな。その時に知った」
「そうだったのですか」
「立派な武人だ。星の屑作戦のことは聞いている」
「はい」
「あの時は今一歩で及ばなかったが。今こうして我々がそれを果たそうとしている」
「ミネバ様の下に」
「ミネバ=ザビ様か」
「はい」
マシュマーとグレミーが同時に頷いた。
「ドズル閣下の忘れ形見だったな」
「その通りです。今ようやくミネバ様も地球に来られました」
「夢にまで見たものだ。何もかも」
彼はまた感慨の世界に入った。
「一年戦争の時我々はここに残った」
「アフリカに」
「そして時を待っていたのだ。ジオンが復活する時をな」
「バルマー戦役でも別働隊として活躍されていたと聞いていますが」
「そうだった。だがその時もすんでのところでギレン閣下が倒られた」
「あれは残念なことでありました」
彼等はギレンがキシリアに暗殺されたことを知らない。知っているのがネオ=ジオンにおいても僅かな者達だけであった。ハマーンも知ってはいた。彼女はドズル派でありキシリアが事故死するとキシリア派を一掃している。そしてミネバを擁立したのである。
「ロンド=ベルを粉砕されようとしていたその時に」
「だが閣下の志は今も生きている」
ロンメルは力強い声で言った。
「この戦いでロンド=ベルを打ち破る。そしてジオンの大義を実現するのだ」
「はい」
「それでは」
「全軍攻撃開始!一兵たりとも逃すな!」
「了解!」
こうして戦いがはじまった。まずは地の利を心得る青の部隊が動いた。彼等は砂の中に潜みながらロンド=ベルに攻撃を仕掛けてきたのであった。
これに対しロンド=ベルはまずは戸惑った。
「クッ、まるでガラガラヘビだぜ!」
ピートが言う。
「何て奴等だ。砂漠をまるで海みたいに泳いでやがる」
「ここは彼等にとっては遊び場のようなものだからな」
大文字がここで言う。
「皆油断するな。敵は何処から来るかわからない」
「はい」
「周囲とレーダーに気を配れ。そして慎重に進むのだ。よいな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
こうして彼等は陣を整えながら戦いに入った。まずは出て来たモビルスーツを各個に撃破していくことからはじめた。
「まるでモグラ叩きだな、こりゃ」
ケーンが言う。
「何かそう思うと楽しくなってきたぜ」
「あら、あんたモグラ叩き得意だったの」
アスカがそれを聞いて突っ込みを入れる。
「だったら今度勝負しない?あたし得意なのよ」
「いいけど勝ったら何くれるんだよ」
「あたしのプロマイドでどうかしら」
「んなもんいらねよ」
「あっ、何よその言い方」
「俺にはリンダちゃんって女神がいるんだよ。そんなの欲しくとも何ともねえぜ」
「ふうん、あんたって意外と一途なんだね」
「当たり前だ、一途なのがケーン=ワカバの売りなんだよ」
「お笑いだけじゃなかったんだ」
「御前俺を何だと思ってたんだ?」
「馬鹿」
「馬鹿とは何だ、馬鹿とは!俺だってなあ」
「話はいいからさっさと次の敵狙おうぜ」
「そうそう。レディとのお付き合いはまた後で」
そんな二人の間にタップとライトが入って来た。そして口喧嘩を止めさせる。
「ちぇっ」
「じゃあ何事もなかったかのように」
「戦闘再開っと」
「レディィィィィィゴォーーーーーーーッってな」
「ああ、もう聞きたくもない言葉」
「何か言ったか?」
「何にも」
ドモンをかわした後でアスカも戦いに入る。戦いはさらに激しさを増していった。
その中でアスカも所謂モグラ叩きに参加していた。まずは敵の攻撃を防ぐ。
「フィールド舐めんじゃないわよ!」
フィールドで攻撃を防いでから叫ぶ。そして次にそのフィールドを掴んできた。
「フィールドってのはただ守るだけじゃないっていうの見せてあげるわ」
そしてそれを振り回してきた。
「こうやるのよ!」
それを投げる。そして砂漠から出て来たばかりのゲルググを一機粉砕した。
「ついでにおまけよ!」
その後でグレイブも投げる。それで今度はデザートザクを粉砕したのであった。
「どんなもん?」
「凄いけれど無駄な動きが多いな」
「ゲッ、貴方が」
モニターに映った顔を見てギョッとした顔になる。何故か左目が一瞬だが異様に大きくなった。そこにいたのはドモンであったからだ。
「どうした?俺の顔に何かついているのか?」
「いや、そうじゃないけれど」
彼女はどうもガンダムファイターというものが苦手なのである。
「だったらいい。派手なのもいいがもう少し落ち着いていけ」
「はあ」
「いいな。筋はいい。このままいけば見事なファイターになれるからな」
「別にガンダムファイターになりたくなんかないんだけれど」
「また何か言ったか?」
「何でもないわ。それじゃあ」
「うむ」
これでモニターから姿を消した。アスカはそれを見てようやく胸を撫で下ろした。
「ああ、びっくりした」
「何か今回の戦いやけに驚いてない?」
今度はシンジがモニターに出て来た。
「どうしたの?そんなに驚いて」
「別に驚きたくて驚いてるんじゃないわよ」
アスカはこう言い返してきた。
「けど驚くしかないのよ。帰って来たら人が増えてるし」
「ミリアルドさんとかキョウスケさんとか」
「そうそう。アイビスさんやアラドさん達がいないのが気になるけれどね」
「何か遅れるみたいだよ」
「そうなの」
「残って何かしてるみたいで。後から来るって」
「だったらいいけれどね。何か心配ね」
「アスカでも心配するんだ」
「何、その嫌な言い方」
シンジの言葉に顔を顰めさせる。
「あんたも何が言いたいのよ」
「いや、ちらっと思っただけで」
「ちらっとだけでも充分よ」
「そんな、下着を見るんじゃないんだから」
「下着っていえばあんたトランクスに替えたそうね」
「それがどうしたんだよ」
「いや、何か似合うかなあ、って思って」
「別にそんなことどうでもいいだろ」
「今度見せてよ」
「なっ、そんなことできる筈ないじゃないか」
下着姿を見せろと言われて顔を赤らめる。
「何馬鹿なこと言ってるんだよ」
「あたしの下着姿も見せるからさ」
「いいよ、そんなの」
「あら、見たいんじゃないの?この発育のいいナイスバディを」
「だからいいって」
「そんなこと言っていいの?折角女の子の方から誘ってるのに」
「こんなの誘うとかそんなのじゃないだろ」
シンジも言い返す。
「下着なんて。そんなの」
「見せてあげるって言ってるのに」
「だからいいって」
「二人共いい加減にしなさい」
そしてここで怒る者が入って来た。
「馬鹿なこと言ってないで早く戦いに戻る」
エマであった。彼女はきつい言葉で二人に対して言う。
「わかったわね。ほら早く」
「はあい」
「バカシンジのせいよ」
「何で僕のせいなんだよ」
「あんたがあたしの誘いに乗らなかったからでしょ」
「そんなの関係ないじゃないか」
「関係あるわよ」
「いい加減にするようにね」
「・・・・・・わかりました」
エマの青筋を立てた顔を見てようやく黙った。こうして二人も戦いに戻ったのであった。
「また会ったな、ジュドー!」
「あんたとも長い付き合いだよなあ」
マシュマーとジュドーは剣を交えながらこう言い合った。
「何か。他人じゃないような気がしてきたぜ」
「当然だ。私達はライバルなのだからな」
「ライバル」
「そう。ライバルとは互いに認め合い、競い合うもの」
いつもの調子で語りはじめた。
「それが他人同士でない何よりの証拠ではないか」
「よくわかんねえけどとにかく俺達がライバルってことだな」
「その通り」
「それじゃあ遠慮なくいくぜ。どのみち最初っから遠慮なんてしてねえけれどな」
「うむ。ではこちらも参る」
マシュマーも頷いた。
「覚悟!」
ビームサーベルで切りつける。しかしジュドーはそれを受け止めた。
「甘いんだよ!」
「ならば!」
今度は突いてきた。しかしそれもかわされてしまう。
「やるな!」
「あんただけが腕をあげてるんじゃないんでね!俺もそれなりに努力してるんだよ!」
「嘘。一番訓練とかさぼってる癖に」
プルが突っ込みを入れる。
「それで努力してると言われてもな。白々しいだけだ」
「ええい、黙ってやがれってんだ!」
誤魔化すかのようにプルとプルツーに対して叫ぶ。
「大体おめえ等何やってるんだよ。戦いはまだまだこれからだろうが!」
「だってあたし達はモグラ叩きなんだもん」
「モグラ叩きぃ!?」
「そうさ。砂漠から出て来るモビルスーツを待っているんだ。ジュドーとは別にね」
「そうだったのかよ」
「そう。それがモグラ叩き」
「何か御前等もケーンさん達の影響受けてきたな」
「波長が合うからね」
「明るいとニュータイプじゃないみたいな考えがあるけれどな」
「まあ最初のアムロさんはそうだったらしいけれどな」
「おいおい、また俺か」
アムロがそれを聞いて苦笑を浮かべた。
「何か俺ばかり引き合いに出されるな」
「やっぱりパイオニアですから」
「言い易いし」
「おまけに頼りになるしな、アムロ中佐は」
「頼られているのかな、本当に」
「いや、これはマジですよ」
ジュドーがフォローを入れる。
「アムロさんがいないとロンド=ベルじゃないですから」
「そうかな。俺なんて口煩いだけだと思うが」
「それはブライトさんがいますし」
「こら、ジュドー」
それを聞いたブライトがモニターに現われてきた。
「私がどうしたというのだ?」
「あっ、いけね」
「全く。御前達みたいな連中ははじめてですか」
「それじゃあ俺もパイオニアってやつですね」
「馬鹿を言え。御前達はトラブルメーカーだ」
「あら」
「仕方のない奴等だ。全く」
「何か俺達って問題児っぽいな」
「っぽいじゃなくてそのものだ。わかったら早く戦争に戻れ」
「へいへい。相変わらずブライトさんは厳しいなあ」
ぶつくさ言いながら戦いに戻る。
「それじゃあマシュマーさんよ、あらためて」
「参る!」
二人の戦いが再開した。その横ではロンメルがバニングと対峙していた。
「連邦軍の中にもこうした動きが出来る者がいるとはな」
ロンメルはバニングの動きを見ながらこう言った。
「見上げたものだ。一年戦争からの生き残りか」
「いい動きをしているな。これはモビルスーツの性能に頼ってはいない」
バニングも同じものを感じていた。
「見事だ。敵は誰だ」
そう言いながらデザートザクのエンブレムを見る。肩に青い狼が描かれていた。
「ロンメル大佐。彼がか」
「GP-01.バニング大尉か」
ロンメルもまた相手が誰かわかった。
「どうやら戦いがいのある相手のようだな」
「お互い一年戦争からの生き残りというわけか」
両者は呟き合った。
「ならば容赦はいらないな」
「手加減をした方が負けだ。ならば」
そう言いながら互いに間合いをとる。
「この一撃で決める」
「二撃目はないな」
ビームライフル、ザクマシンガンを構えた。そして撃つ。
撃つと同時に動いた。攻撃をかわす為だ。だがここで皮肉な結果が生じてしまった。
デザートザクの動きが一瞬だが遅かった。やはり性能差が出てしまった。それによりビームがロンメルのデザートザクを貫いてしまった。
そして果てた。攻撃はこれで終わりであった。ロンメルのデザートザクはガクリと砂漠に膝を落としてしまった。
「ロンメル殿!」
マシュマーが彼に気付き慌てて駆け寄ろうとする。ジュドーとの勝負を捨ててまで。
「いや、いい」
だがロンメルは彼を退けた。血が垂れた口で語る。
「勝敗は戦の常。これもまた運命だ」
「しかし」
「マシュマー=セロといったな」
「はい」
「貴殿のような若い者がジオンの志を知っている。わしはそれだけで満足だ」
「ですが」
「わしは亡霊だった。亡霊は消え去る運命」
「・・・・・・・・・」
「ただそれだけのことだ。後は貴殿等に任せたい」
見れば青の部隊はほぼ壊滅していた。残っているのはネオ=ジオンの新鋭モビルスーツだけである。それが全てを物語っていた。
「さらばだ。後は任せた」
「ロンメル殿」
「ジオンの大義」
「はい」
「そしてミネバ様を。宜しくな」
「わかりました。このマシュマー=セロ、命にかえても」
「・・・・・・・・・」
その後ろではグレミーが黙ってそのやりとりを見ていた。彼は一言も発しはしない。
ロンメルのデザートザクが爆発した。そして全ては終わった。青の部隊は砂漠に散ってしまった。
「これからどうしますか」
「こうなってしまっては止むを得まい」
マシュマーはグレミーに対して言った。
「一時撤退だ。そしてロンメル殿達の墓標を築くぞ」
「わかりました。それでは」
「だがダカールには向かう」
それでもマシュマーは言った。
「それが。ロンメル殿の意志、そしてジオンの大義だからな」
「ジオンの大義」
「貴官もそれはわかっていよう」
「勿論です」
当然のように頷く。だがその顔には何故か純粋なものはなかった。何処かギレン=ザビを思わせる企んだものが感じられるものであった。マシュマーはそれに気付きはしなかったが。
「では退くぞ」
「はい」
「ロンド=ベルよ、また会おう!」
こうしてネオ=ジオンは後方に退いていった。砂漠での戦いはまずはこれで終わった。
「思ったより呆気なかったな」
ジュドーは姿を消したネオ=ジオンの後ろ姿を見ながらこう呟いた。
「意外とね。あのマシュマーにしてはあっさりと」
「いつもだったら騎士道がどうとかいってしつこく戦場に残るのにね」
「それであの部下に言われるんだよな」
「ああ、ゴットンさんのことね」
「あの人ゴットンさんっていうんだ。はじめて知ったよ」
ガンダムチームの面々がそれに続いて話をはじめた。
「何はともあれ。これで第一ラウンド終了ってことだな」
「第二ラウンドはもっと北で相手はハマーンってとこかしら」
「いや、残念だがそうはならない」
ルーが言ったところでブライトの通信が入ってきた。
「何かあったの、ブライト艦長」
「皆すぐにダカールに戻るぞ」
「ダカールに」
「ハマーンの本軍が砂漠を迂回してダカールに向かっているとのことだ。すぐにそれの迎撃に向かう」
「じゃあ青の部隊は囮だったってことかよ」
「そうだ」
ブライトはジュドーの言葉に応えた。
「戦争においてはよくあることだ。私も迂闊だった」
「ちぇっ、けどハマーンらしいって言えばらしいよな」
「そうだな」
クワトロがそれに頷く。
「ハマーン、これで我々を出し抜いたつもりか」
「いや、まだそうと決まったわけじゃない」
アムロがここで言う。
「要は間に合えばいいんだからな。違うか」
「ふっ、確かに」
そしてクワトロもそれを認めた。
「では戻るとするか」
「ああ」1
ロンド=ベルの面々はそれぞれの艦に戻った。そしてダカールに戻ることになった。七隻の戦艦はマシンの収納を終えるとダカールに踵を返したのであった。
「慌しいなあ、本当に」
「ねえプルツー、ちょっと時間があるよ」
プルがここでプルツーに話し掛けてきた。
「だからさあ」
「お風呂だろ」
「あっ、わかった?」
「いつものことだからな。まあいい」
プルツーの方も丁度その気になっていたようである。
「入るか」
「うん。新しいお風呂セット出してね」
「そうだな。戦いの間に一息つくとしよう」
「うん」
二人はセットを持って風呂場に向かった。それをアムとレッシィが見ていた。
「何かまた戦争だってのにあの二人には緊張感がないな」
「あたし達が言えた義理じゃないけれどね」
「そう言われると困るな」
アムの言葉に少し顔を苦くさせる。
「この部隊はどうもこうしたお気楽さがな」
「嫌なの?」
「別に嫌とは言っていないさ。ただポセイダル軍にいるよりはずっと感じがいい」
「そうなの」
「あそこはギスギスしていたからな。十三人衆の間でも色々とあった」
「足の引っ張り合いとか?」
「それはチャイ=チャーだけだったな。むしろギワザの動きの方が気になった」
「ギワザの」
「あいつには気をつけた方がいい。何かを企んでいる」
「企んでいるって何を」
「そこまではわからないが。十三人衆のメンバーに何かと声をかけていた」
「ふうん」
「フル=フラットとも接触を持っていたらしい。明らかに何かを考えている」
「謀反でも起こす気かしら」
「それはあるかもな。あいつは野心家だ」
「野心家ねえ。あの小心者だ」
「小心者でも野心は持つさ。それに釣り合うかはともかくな」
「きついね、その言葉」
「冷静に言っているだけさ。あたしの見方でね」
「それがきついのよ」
「あたしはああした男は好かないんだよ。ネイがどうして惚れてるかまではわからないけれどね」
「あの二人もね。あのままいくとは思えないけれどね」
「それはどうしてだい?」
「ギワザってさ、自分勝手な奴じゃない」
「ああ」
「そんな奴が。最後までネイを信じられるとは思えないのよ」
「それもそうだね」
「それかあいつ自身が負けるかだね。あいつじゃポセイダルには勝てないわよ」
「勝てはしなくてもいいところまではいくかもね」
「結局はそれ止まりだと思うけれどね」
「きついな、アムも」
「あんたに習ったのよ」
笑いながらそう返す。
「それじゃあ今度は声が似てるってよく言われるプルちゃん達に習って」
「お風呂に入るんだな」
「ええ。あんたもどう?」
「そうあな」
レッシィは少し考えてから答えた。
「そうさせてもらうか。では行こう」
「まずはサウナで汗をかいてね」
「おい、おじさん臭いな」
「それが気持ちいいのよ。テュッティさんだってそう言ってるじゃない。美容にもいいって」
「美容にもか」
「あんたもそのでかい胸をちょっとは引き締めたら?そうしたらダバにももてるかもね」
「フン、じゃあそっちはその胸を大きくさせるんだな」
「言われなくたってもう大きくなってるわよ」
「それじゃあそれをお風呂で確かめさせてもらうか」
「望むところ」
そんな話をしながら二人も風呂場に向かった。こうして戦士達は束の間の休息を楽しむのであった。
この時ハマーン率いるネオ=ジオンの本隊はサハラ砂漠を大きく迂回してダカールに向かっていた。その後方の本陣にグワダンがいた。
「そうか、青の部隊がか」
「見事な最後だったとのことです」
ハマーンはランス=ギーレン、ニー=ギーレンの二人から戦いの報告を聞いていた。
「彼等は死に場所を求めていたのだ」
ハマーンは報告を聞いた後でこう呟いた。
「死に場所を」
「そうだ。だからこそ我等に協力を買って出たのだ」
「ダカールに行く為ではなく」
「それもあっただろう。だがそれだけではなかったということだ」
ハマーンは寂寥感を感じさせる声でこう述べた。
「それが死に場所を求めていた、ということですか」
「そういうことだ」
そしてその声のまま述べた。
「その結果だ。本望だっただろうな」
「そして我々が得たものは」
「時間だ」
ハマーンは一言で言った。
「時間を得た。何よりも貴重な時間をな」
「それではこのままダカールへ」
「陸と。そして」
「海から」
「そちらの用意もまたできているな」
「無論。そして彼等も来ます」
「くれぐれも言うがダカールは傷つけるな」
「はっ」
「ミネバ様が入られる場所だ。市民達にも危害を加えるな」
「市民達もですか」
「今はネオ=ジオンの評判を落とすわけにはいかんのだ」
ハマーンはここでは政治的な判断を下した。
「ダカールで以前何があったかは知っているな」
「シャア=アズナブルの演説ですか」
「そこでティターンズの毒ガス使用が暴露された。それにより彼等は信頼を失った」
「そして地球圏の掌握を果たしたものの結局は」
「支持を得られず今に至る。ああはなりたくないであろう」
「はい」
これにはランスもニーも頷いた。彼等とてむざむざと自分達の信頼を落とすような真似はするつもりはなかった。
「そういうことだ。わかったな」
「はい」
「了解しました」
「では行くぞ。速度をあげよ」
ハマーンは軍の速度をあげさせた。そしてダカールに向かっていた。
ロンド=ベルとネオ=ジオンのダカールを巡る攻防は続いていた。両者は互いの信念と誇りをかけてアフリカの砂漠において干戈を交えるのであった。
第六十一話 完
2005・12・19
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