魔法少女リリカルなのは〜転生者の誓い〜
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第八話・弄ばれる転生者
「……ここは?」
現状に対する俺の言葉。
そして目の前には見渡す限りただ一様に白い世界。
現在、それが俺の前に広がる世界だ。
そしてこの光景。いや、俺はこの世界の事を知っている。
転生の間、もしくは神の間だろうか?
少なくとも俺がリリカルなのはの世界へと転生する際に俺はここに来ている。
そう考えると俺の人生が、俺の運命が、
終わり、そうして始まった場所だ。
特に思う事が無いわけでは無い。
しかし、だ。
そんな事よりも今は目の前の問題を片付けなければいけない。
感傷に浸る暇も、考察する暇もない。
つまりだ、
「ふむ、もう戻って来たか…」
今現在、俺の目の前で口元を愉快そうに歪める男の事だ。
その男は真っ黒なサングラスとそれとは対照的な真っ白な肌をしていて、
趣味の悪い柄物のアロハシャツ、その下には一目で高級だと分かる仕立ての良いスーツを着ている。
また、座っている椅子は玉座のように荘厳だが、所々に気味の悪いドクロのオプジェが取り付けられている。
特徴が有り過ぎるがどれが特徴なのか分からない。
いや、恐らく彼の特徴など存在しないのかもしれない。
なぜなら彼が、彼こそが、
俺を転生者にした張本人であり、
自らをゼウスと語る神であるからだ。
「君ならばもう少し上手く立ち回ると思っていたのだが…」
非常に残念そうに。しかし、何処かそれを楽しむように。
彼は話しかけてくる。
その表情はおもしろい玩具を見つけた子供のそれに近い。
なるほど、俺という別の物語の主人公を別の世界に転生させるという遊びを行っている彼からしてみれば
自身の想像を下回ったというのは非常に面白いのかもしれない。
なぜなら彼は神だ。
なぜなら俺は神の予想を覆したのだ。
ある意味で偉業なのかもしれない。
しかし、俺はそれを凄いとも思わないし、もちろん嬉しくもない。
俺がこの場で持ち得る感情はただ一つである。
生き返りたい。
ただそれだけだ。
それを予想していたのだろうか、それとも神ともなれば感情の一つや二つ程度は読みとれるのか、
どちらにせよ神はまた口を開いた。
「まあ、君がワシの予想を下回った事についてはまたの機会にするとして…」
そこで神は一度言葉を区切り、口元に笑みを浮かべ、
まるで俺を試すように、
「君の転生の際に与えるはずだった特典、および願いの残り分はどうするかね?」
そう聞いてきた。
もちろん、俺の答えは決まっている。
「生き返らせてくれ!」
それしか無い。
その答えを彼は予想していたのだろう。
理由については特に何も聞かず、話を続ける。
「ふむ、それは不可能ではないが一つ条件がある」
「何だ?」
恐らくだが願い事を二つとも消費するとか、そのあたりだろうと予測する。
しかし
「生き返るにあたり懸念事項があってね…」
神の答えは違った。
「懸念事項?」
反射的にその言葉を聞き返す。
「ああ、些細な事だがね」
そう言って神は何かのスクリーンのようなものを俺の前に展開する。
そのスクリーンには俺の全身像が映し出されていた。
俺の体に何か問題があるのだろうか?
俺がその疑問を抱いたの知ってか知らずか、神は懸念事項に付いて説明する。
「生き返るのに願い事を一つ消費するとして…」
そこでスクリーンに変化が起きる。
「このままでは生き返った直後に君は死ぬがどうするかね?」
スクリーンに訪れた変化は実に分かりやすいものだった。
つまるところ俺が少女に斬られたところに赤い線が表示されていた。
その線は俺の胴体を斜めに横切り、そのまま左肩部分まで伸びている。
「ここでもう一つ願いを使えば断たれた部分の再生は可能だが、あいにく願い一つにつき繋ぐ事が出来るのは一ヶ所だ」
つまり、と神はおかしくて仕方がないといった感じで
「君は腕と胴体ではどちらを繋げるかね?」
神の顔には趣味の悪い笑顔で満たされていた。
無論、答えは一つしかない。
「…胴体だ」
そう、それしかない。そうとしか答えようがない。
腕を失っても生きてはいける。無論、それに伴う苦労や苦しみはあるが。
しかし上半身と下半身が両断された状態では生きてはいけない。
誰が考えても分かる簡単な答えだ。
何故、こんな簡単な事を神は俺に聞くのか。
それは
「そうか、ならばもう君に聞く事はない。では生き返らせてあげよう」
満足いったという感じの顔をする神、ゼウス。
つまるところは腕か胴か選ばせることで俺を精神的に追い込みたかったのだろう。
どこまでも趣味の悪い奴だ。
「ああ、そうだ」
神は何か思い出したといった感じで
「そのうち君にはプレゼント送るとするよ」
プレゼント?何故?
と思うが生き返るためなのだろう、俺は強烈な眠気に誘われる。
「何故プレゼントを渡すのか知りたいのかい?それは…」
聞いてもいないのに答えようとするあたり、やはり神は人の心を読めるのだろう。
俺はその聞いてもいない答えをどうせなら、ともう少しで失ってしまいそうな意識の中聞く。
「簡単に死なれてもらってはあまり長く楽しめないからね」
その答えを聞いて
ああ、そういえばコイツを殴るの忘れてたな、と今更ながらに思い出し
最早意識を保とうとはせず、まぶたを閉じた。
後書き
更新遅くてすいません。
今更ながらお気に入り登録40件超えているのに気付きました
これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。
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