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髑髏天使

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第七話 九階その一


                   髑髏天使
                  第七話 九階
「そうか、大天使になったのだな」
「はい、そうですよ」
 あの老人がいた。いるのは誰もいない倉庫の中だった。剥き出しになった鉄パイプや金網が見える。コンクリートの床は暗く冷たい。所々に水滴が見え中は静まり返っている。彼はそこで一人の赤いドレスの、妖艶な美しさを持つ長い髪の女と対して話をしていた。
「やまちちを倒して」
「あのやまちちをか」
 女はやまちちが倒された話を聞いて顔を顰めさせた。
「にわかには信じられないが」
「ですが大天使の力なら」
「やまちちを倒しても当然か」
「はい。天使ではありませんから」
「確かに。しかし」
 ここで女は言うのだった。
「思ったより。早かった」
「大天使になるのがですか」
「貴殿はどう思うのだ?」
 女は老人に対して尋ねてきた。
「貴殿は。大天使になるのは早いと思うか」
「いえ、こんなものですよ」
 老人はにこりと笑って女に答えた。
「この程度でしょう。あの青年を見ていると」
「人間の男のか」
「名前は。別にいいですね」
「人間としての名前はどうでもいいだろう」
 女はそちらには何の興味も見せなかった。
「そんなものはな」
「その通りですね。重要なのは」
「髑髏天使だ」
 語る女の目が赤くなった。
「髑髏天使。やはり階級を登るか」
「果たして何処まで登られるのか」
「生きている限りだな」
 女は老人に対して返した。
「生きている限り。間違いなくな」
「おや。それでは」
「そうだ。魔物達を倒しそれだけ強くなっていく」
「経験を積むということですね」
「人間だな」
 女はそんな髑髏天使を人間だと評した。
「まさにな」
「ですが。覚えておられますか」
 老人はその温和な笑みと共に女に言ってきた。
「我等の最高神も同じだったではありませんか」
「確かにな」
「我等にしろ同じですしね」
「人ではなかったがな」
 女は人間という言葉に少し目を顰めさせた。
「私はな」
「ですが今は同じではないですか?」
「神か」
「そうです」
 今度は神という言葉が出て来た。
「我等十二魔神」
「うむ」
 老人の言葉に頷く。
「そもそも元は魔物でも神でもなかったではありませんか」
「神とはなるものか」
「そうです」
「そして魔物もまた」
「あの方も本来そうでありましたし」
「そうだな。そしてだ」
 女はここで話を変えてきた。
「今ここにいるのは我等だけか」
「残念なことに」
 こう答える老人だった。
「他の方々はまだ」
「そうか。出て来ているのは二人だけか」
「どうされますか?」
「同志達の復帰は時間がかかりそうか」
「その方それぞれのようです」
 老人の返答はこうであった。
「ですからどうにも」
「我等の手では難しいか」
「まずはそれについては様子を見るべきですよ」
 老人の言葉は温和で静かに教え諭すものであった。
「今は」
「わかった。しかし髑髏天使」
 女は髑髏天使のことに想いを馳せた。
「果たしてどうなるのか」
「それも見せてもらいましょう」
 二人は暗い工場の中で話をしていた。その姿を見る者はいない。だが確かに話はされた。このことだけは確かなことであった。 
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