髑髏天使
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第四十七話 神々その十一
「少なくなって」
「そうした意味でも貴重な存在だな」
「そうね。牧村君にとってだけじゃなく」
若奈の言葉は彼に止まらなかった。さらに広い範囲での言葉だった。
「日本にとってもね」
「大きくなったな」
「だってそういう人ってね」
「必要か」
「どうしてもね。そうだから」
「注意する人はか」
「必要よ」
だからだと言う若奈だった。
「それでなのよ」
「そうだな。そうした人はな」
「最近かなり減ってしまったけれどね」
「残念な話ではあるな」
「昔はやっぱりいたのよね」
「博士の話ではな」
その博士である。百年以上生きている人間の言葉だというのだ。
「いたらしい」
「戦前には?」
「主に軍人がそうだったらしい」
「帝国陸軍とか海軍とか」
「そうした職業の人は本当に厳しく言っていたらしい」
「海軍ねえ」
若奈が反応を見せたのはそちらだった。陸軍ではなくそちらだった。
「海軍っていったらね」
「何かあったのか」
「うちのひいお爺ちゃんが海軍だったのよ」
「そうだったのか」
「海軍経理学校だったんだって」
これまた随分と古い学校だった。舞鶴にあった学校で海軍の経理将校を育成する学校だった。この学校も入るのがかなり難しかった。
「そこにいてそれでね」
「海軍で頑張っていたのか」
「よく海軍の歌歌ってたわ」
このことも話す若奈だった。
「懐かしいわね」
「それでその人もか」
「ええ、物凄く厳しかったわ」
そうだったというのである。
「剣道じゃなくて柔道をしていてね」
「柔道か」
「それが凄かったのよ」
若奈のその細い眉が少し顰めさせられた。そのうえでの言葉だった。
「八段で」
「帯の色が変わるな」
「あっ、知ってたの」
「柔道の帯は初段で黒になる」
「そうそう、まずはね」
初段から五段が黒なのである。所謂黒帯だ。柔道に限らず空手においてもそれがステータスシンボルの一つになっている。それだけ目印となるものなのだ。
「それで六段になったら」
「赤と白になるな」
「それで八段はね」
「完全に赤になる」
牧村は静かにこのことを話した。
「それだったんだな」
「そうなの。物凄く強くてね」
「海軍仕込みの柔道か」
「滅茶苦茶強かったのよ。小柄で細かったのにそれでもね」
「柔よく剛を制すか」
「昔は何か武専?」
ここで若奈の目は少しいぶかしむようなものになった。表情も少しきょとんとしたようなものになる。そのうえでの言葉であった。
「そこの人と試合をしたこともあったとか」
「武道専門学校か」
「何なの、そこって」
「昔あった学校だ」
そこから話す牧村だった。
「剣道、柔道、そして薙刀だけを学ぶ学校だ」
「それだけをなの」
「そう、そしてそれの専門家を育てる学校だった」
「じゃあその腕はやっぱり」
「日本屈指だった」
言葉は過去形だった。しかしそれでも確かなものがそこにはあった。
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