髑髏天使
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第四十五話 新生その六
見れば中学校の塀の上には鉄条網がある。随分と物々しい。
博士はその鉄条網を見て牧村に話した。
「この中学校じゃったな」
「ああ、大体察しはつく」
「君もか」
「この中学校出身だったな」
言葉に忌まわしいものを含ませての言葉だった。
「あの兄弟は」
「そうじゃ、あの馬鹿兄弟じゃ」
「カリスマの家系と言っているあの愚劣な一家のだな」
「左様、あの三人はこの中学校の出身じゃ」
「そうだったな。生まれはここだったな」
「今では地元の恥じゃよ」
何故そうなったかはその連中の品性と知性、そして人格故である。テレビがどれだけ持て囃してもだ。生来のそうしたものは隠せないのだ。
「見事なまでにのう」
「下衆は何処にでもいる」
牧村は一言で言い捨てた。
「そのまま滅んでしまえばいいのだがな」
「そうじゃな。それでじゃが」
「お好み焼きだな」
「ここから少し先に行ったところじゃ」
そこだというのであった。
「そこにその店はある」
「そうなのか」
「大阪は何といってもお好み焼きの本場じゃ」
今更言うまでもないし既に言っていることだがそれでも言う博士だった。
「しかもどちらかというとじゃ」
「どちらかというと」
「洒落た場所よりこうした場所の店の方が美味いのじゃよ」
「そうしたものはか」
「何も気取って食うものではない」
こうも話すのだった。
「だからじゃよ」
「そうだな。それは神戸でも同じだな」
「あのぼっかけカレーがあるじゃよ」
「ああ」
神戸の長田名物である。筋肉を使ったカレーだ。
「あれも洒落た店で食べても美味しくないじゃろ」
「長田の店や家で食べてこそだな」
「そういうことじゃよ」
まさにそうだと言う博士だった。
「だからじゃ。それでな」
「ああ、それでだな」
「こうした場所の店がいい」
これが結論だった。
「それでその店じゃが」
「何処だ、それで」
「ここから少し行った商店街にある」
そこだというのである。
「他にもいい店が沢山ある場所じゃよ」
「そんなにか」
「団子もあればうどんもあるしラーメンもある」
中々多彩と言えば多彩である。
「コロッケに天麩羅にホルモンもじゃ」
「たこ焼きもだな」
「当然じゃ。勿論たこ焼きもある」
「そしてそのお好み焼きもだな」
「何ならじゃ。お好み焼きの他にも食べるか?」
牧村に顔を向けて問うた。身長差のせいで見上げる形になっている
「他のも」
「そうだな。悪くないな」
「とにかく食べられるうちに食べることじゃ」
博士は言った。
「そうしなければ後で後悔するぞ」
「過去にそういうことがあったのか」
「いつもじゃ」
「いつもか」
「後で食べようと思ったものは必ず誰かに食べられる」
博士の語るその顔が寂しいものになる。
「そうして悔しい思いをしてきているからじゃ」
「食べるのは妖怪達か」
「それと家族じゃ」
敵は一つではなかった。
「学校にも家にもおるのじゃよ」
「食べる相手はか」
「そうじゃ、何処にでもおる」
博士は泣きそうな顔になっていた。
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