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髑髏天使

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第四十三話 熾天その八


「俺でよかったら」
「っていうか私でいいかしら」
 若奈の言葉が返ってきた。
「私で」
「俺に断る資格はない」
「ないの?」
「そうだ、ない」
「どうしてないの?」
「男にはないものだからだ」
 返答はこれだった。
「だからだ」
「何で男の子にはないのよ」
「女の申し出は受け入れるものだな」
「まあよく言われるわね」
「特にそうした相手にはな」
「あの、今言った言葉だけれど」
 若奈は今の彼の言葉を聞いてまた言った。
「はっきり覚えておいていい?」
「そうしてくれ」
 普段のあのぶっきらぼうな言葉ですらなかった。
「そうしたいのならな」
「わかったわ。じゃあ覚えたわ」
 若奈も顔を明るくさせて確かな声で返した。
「今の言葉ね」
「ああ」
「それじゃあ。就職決まったから」
「俺のか」
「そうよ、しかも永久就職だからね」
 念押しまでしてきた。若奈にしても確かにしたいことだったからだ。
「ずっとよ、ずっと」
「死ぬまでだな」
「そうよ、死ぬまでずっとマジックでの勤務よ」
「喫茶店でか」
「マスターやってもらうから、次のね」
「では大学卒業してからそれの修行か」
「違うわ、それは」
 今の牧村の言葉はすぐに否定されてた。
「卒業してからじゃないから」
「就職活動がはじまってからか」
「そういうことよ。バイト代は出るからそれは安心して」
「アルバイトをしながらか」
「そうよ。色々と覚えてもらうから頑張ってね」
「わかった。それではな」
 牧村も頷いた。そうしてであった。
 若奈はだ。こんなことも言った。
「お菓子のレパートリーも増やしたいし」
「メニューをか」
「臨機応変でね。お父さんも今色々と考えてるのよ」
「あのマスターもか」
「メニューはそのままお店の命よ」
 そこまで重要だというのだ。これはその通りである。
「だからよ。味をよくすると共に増やしてね」
「俺が作るんだな」
「そういうこと。値段とのバランスも考えて」
 流石は喫茶店の娘である。若奈はここまで考えていた。見ればその顔はこれまでの女の子の普通の顔からだ。商売を見る顔になっていた。
「うちのお店って学生のお客さん多いし」
「それと八条学園の関係者だな」
「先生も多いしね」
「そうだな」
「けれど学生さんが多いから」
 メインはあくまでその層なのだという。
「甘いものには五月蝿いのよ」
「特に女の子がか」
「女の子がよく行く店は確かよ」
 若奈は断言した。
「舌で動くからね」
「舌でか」
「そう、舌でよ。女の子の脳と舌は一つになっているのよ」
「そこまでいくか」
「いくわよ、女の子はね」
 若奈のその断言は続く。
「だから。頑張ってよね」
「味は今よりも上をか」
「目指して」
 一言であった。 
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