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髑髏天使

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第四十二話 共闘その二十一


「中華だってそうだし」
「何でも作れたのか」
「戦中派を甘く見ないことよ」
 今度の言葉はこれだった。
「何でも作れるからね」
「そうだぞ」
 ここで今度は祖父が出て来た。相変わらず背筋がしっかりしている。
「わしも陸軍士官学校を出ているのだ」
「そういえばそこを出ていたな」
「そこで鬼と言われていた」
 祖父は孫にこんなことも言ってきた。
「竹刀を持てば右に出る者はいなかった」
「そうそう、お爺さんはその頃から剣道が強くてねえ」
「そして風流も好きなのじゃぞ」
「風流もか」
「昔の軍人はただ強ければいいものではなかった」
 ここが重要なのだ。軍人、しかも将校ともなればかなりの教養も求められたのである。これは陸軍だけでなく海軍も同じだ。
「料理はせんかったがな」
「それはか」
「それは婆さんに任せている」
 言葉は現在形であった。
「じゃが茶道はするぞ」
「お爺さんの入れた茶はこれがねえ」
 祖母の言葉は妙に嬉しそうなものだった。
「凄く丁寧で美味しくて」
「茶道も身に着けておるのじゃ」
「そちらもか」
「スパゲティの後で淹れてやる。楽しみにしておるのじゃ」
「そうさせてもらう」
「さて、パスタだけれどね」
 祖母もいそいそとした口調である。
「量はかなりあるからね」
「それはいいな」
「あんた本当に食べるからね」
 その牧村を見て笑いながら話していた。
「だから量も考えてるよ」
「イカ墨のそれをか」
「そうそう。あれは美味しいよね」
 祖母は笑顔をさらに明るいものにさせていた。
「一回食べると病みつきになるね」
「全くだ。しかし」
「しかし?」
「まさかここで洋食を食べるとはな」
 牧村にとってはそれが以外なのだった。
「どうもな」
「その意外なのがいいのよ」
「そうだぞ。わしが茶道をやっていることも意外だったか」
「それもしていたのか」
「しかも先生もやっておる」
 そこまで至っているのである。
「茶道は元々武家のたしなみじゃ」
「織田信長だな」
「そういうことじゃ。軍人は教養も大事じゃった」
 このことを自分自身でも話すのだった。
「漢詩もやっておったぞ」
「そちらもか」
「何かとな。学んでおった」
「軍人は大変だったのだな」
「よく陸軍は言われておるがな」
 左翼勢力にである。とかく言われてきたのが帝国陸軍である。
「しかし実際は違った」
「軍規軍律は厳格だったな」
「左様、恐ろしいまでにじゃ」
 これは伝説の域にまでなっていることである。
「まあ俗に言われているようなことはなかった」
「実際はそうだったな」
「そもそも日本刀一本で百人は斬れぬ」
 祖父はこのことも話してきた。
「それはわかるな」
「常識の話だな」
「しかしつい最近までその常識は忘れられていた」
 マスコミによって歪められてきた結果である。それによってだ。
「人の心から」
「人の心から、か」
「そうだ、忘れるにはだ」
「嘘を吹き込めばいいか」
「そうする輩は実際にいる」
 そのマスコミこそがそうしてきたのだ。それにより歴史を改竄してきたと言ってもいい。これが破廉恥な行動であるのは言うまでもない。
「だが。思い出すことはできる」
「思い出せるか」
「嘘を取り去ることもそのうちの一つだ」
「そういうことか」
「御前にはそれを教えておこう」
 祖父としてだった。牧村に語っていた。
「そしてだが」
「茶か」
「夕食の後で共に楽しもう」
 その茶道をだというのである。
「それもまたいいものだ」
「茶会か。はじめてだな」
「そうそう、お茶だったら」
 祖母もその茶会の話に加わってきた。
「お婆ちゃんも参加させてもらうよ」
「婆ちゃんもか」
「実はこう見えてもお茶が好きでね」
「わしも婆さんも酒は飲めん」
 祖父は話してきた。
「だからなのじゃよ。茶に親しんできた」
「酒の代わりか」
「このこともまた話そう」
 祖父は今は話そうとしない。それはあくまでだというのだ。
「ではまずは食べるとしよう」
「夕食をか」
「パスタをな。久し振りだな」
「そうですよね。家でパスタを食べるのは」
 祖母もまたうきうきとした感じを見せている。
「本当に久し振りです」
「うちはどうしてもうどんや蕎麦が多いがな」
「はい、それは」
 その理由はだ。祖母の口から話された。
「やっぱり和食がメインですから」
「何だかんだ言ってもな」
 祖父も祖母のその言葉に応えてきた。
「和食が最も多いな」
「そうですよね。お爺さんおうどん大好きですし」
「力うどんか天麩羅うどんが最もよい」
 祖父はそのうどんの好みについて自分から話した。
「食べやすいからな」
「ですよね、天麩羅はお蕎麦にも合いますし」
「しかし今は」
「はい、パスタです」
 スパゲティだというのである。パスタと同義語になっている。
「三人で食べましょう」
「今度は若奈と共に食べるか」
「そうしましょうか」
 こんな話をしてであった。三人でそのイカ墨のスパゲティを食べるのであった。そうしてその後で。牧村は祖父の話を聞くのだった。


第四十二話   完


                 2010・8・22 
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