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髑髏天使

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第六話 大天その八


「別に何もな」
「そういうことじゃよ。わかったな」
「外見にもよるのか」
「妖怪といっても千差万別じゃよ」
「適当に溶け込むこともできるしね」
「そうそう」
 ここでまた妖怪達が楽しそうに話す。
「犬とか猫のふりしたり」
「簡単だよ」
「それではだ」
 博士の言葉と妖怪達のお喋りを聞いて彼はあることを仮定した。
「俺達の隣の人間が妖怪の可能性もあるのか」
「魔物は人間に化けておったな」
「ああ」
「溶け込むか化けるかの違いじゃよ」
 今度はこう言う博士であった。
「たったそれだけの違いなのじゃよ」
「魔物が俺達の世界に入っていることは聞いたが」
「そういうことじゃよ」
「そうか」
「世界は複数あるものじゃ」
 またここで言う博士であった。
「しかしのう。それと共に世界は一つなのじゃ」
「互いに重複し合っているということか」
「流石じゃな。すぐに察したか」
「この程度はな」
 鋭い目で言葉を返す牧村であった。
「容易に察しがつく」
「ふむ。左様か」
「では俺は隣人と闘う可能性もあるのか」
「それは嫌か?」
「いや」
 今の博士の問いにはすぐに首を横に振って返した。
「向こうが来るのなら相手をする。それだけか」
「いつも通りの返答じゃな」
「それだけだ。では」
 ここで立ち上がる牧村であった。
「今日はこれで去らせてもらう」
「講義か」
「今日はこれからはじまりだ」
 大学の講義はその日その日で違うものだ。学生は曜日によってそのスケジュールが極めて違うことがある。それは牧村にしろ同じである。
「だからな。邪魔をしたな」
「また明日も来るのか?」
「そのつもりだ」66
 立ち上がりながら博士に答える。
「今日は何かと勉強させてもらった。感謝している」
「感謝されておるのならよいことじゃな」
「それで満足しているのか」
「世の中で感謝されること程よいものはない」
 博士は純粋に笑みを浮かべながら牧村に述べた。
「世の中感謝を知らぬ人間もおるしな」
「それはいるな」
 そうした人間を何人か知っている牧村であった。
「残念な話だ」
「君がそうでなくて何よりじゃよ」
「感謝を知らない人間は寂しい人間だ」
 冷たい、そこには同情をあえて見せない何かがある言葉であった。
「感動がないからな」
「この人も感動とか見えないよね」
「そうだよね」
「それは間違いだ」
 ひそひそ話をする妖怪達に対して返した。
「俺は感動を知っている」
「表に出ないだけ?」
「いつもみたいに」
「見せる必要のないものは見せない」
 これが牧村の返答であった。
「ただそれだけだ」
「本当かな」
「さあ」
「無愛想な人だからね」
「ひょっとしたらアニメのあの青い髪の女の子みたいなの?」
「よく知ってるな」
 牧村は妖怪達がアニメまで観ていることに少し驚いていた。今まで自分が考えていたよりも人間界に親しんでいることもわかった。
「もう結構古いアニメだがな」
「だから僕達一生長いしさ」
「人間の世界のものって楽しいのばかりだし」
「面白いことだったら大歓迎だよ」
「美味しいものもね」
「人間に近い部分も多いのは確かか」
「わかったようじゃな。そういうことじゃよ」
 部屋を出る時に博士の声を聞いた。ここでは最後まで話すことはなかったが。それでも彼の心には残った。妖怪も人間と変わらない部分が多いということに。 
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