『曹徳の奮闘記』改訂版
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第八十五話
前書き
フラグ……立ったのかは微妙です。
「ぅ~夜風は気持ちいいなぁ~」
俺はフラフラしながら厠に向かう。
「ちと飲み過ぎたかな?」
肴もあったからなぁ。
「……ん?」
ふと厠の付近に人影が見えた。
「先客やろか?」
誰か吐いたんやろか?
「お~い大丈夫か?」
「ッ!? な、長門ッ!!」
人影は翡翠やけど、何でそんな驚いた顔を……。
「……血?」
「ッ!?」
翡翠の口の周りには厠に備え付けられた蝋燭の火の光りで照らされた血が付着していた。
俺に指摘された翡翠が慌てて口の周りを手拭いで拭いた。
「い、いやぁこれはちょっとそこでフラフラしていたら転んだんだよ。口に石が当たって口の中は血の味がするし困ったもんだよ」
翡翠が弁解するように言うけど……。
「……病だな?」
俺は翡翠に聞いた。
「いやだからこれは違うって……ゴホゴホッ!!」
「翡翠ッ!?」
その時、翡翠が咳き込んだ。
そして口を押さえた左手からは血が垂れてきた。
「翡翠……」
「……バレたら仕方ない。病だよ」
翡翠は自白するように言う。
流石にこの場面を俺が見ても怪我だと信じられへんからな。
「……何時からなんだ?」
「……反董卓・袁術連合が終わって涼州に帰って暫くしたらだよ。長年の戦場であたしの身体はボロボロになっていたんだ」
翡翠がフフと笑う。
「せめて翠と蒲公英が立派になるまでは生きたいと思っていたけど……どうやら駄目なようだね」
翡翠は血が付着した左手を見つめる。
「長門、何であたしが劉備じゃなくて袁術に頼ったか分かるかい?」
「……いや、分からんな」
「それは……長門がいるからだよ」
「え?」
「劉備の思想は間者等からの報告で聞いていたけど、現実味は低いと思っていた。劉備のところに逃げ込んでもやがては曹操に食い荒らされると思っていた。そんな時に思い出したのが長門、あんただよ」
「俺?」
「そう。あんたとは一度洛陽で一回だけ見た事がある。ま、長門は知らないと思うけどね。長門の目を見た時、感じたんだ。こいつならもしかしたら……ってね」
翡翠が笑う。
「だからあたし達は袁術軍のところに来たんだよ」
「……そうだったのか。てか俺に関しては買い被りのような気がするけどな」
俺は苦笑する。
「長門がどう思うが、長門は袁術軍になくてはならない存在だよ……だから、翠と蒲公英をあんたに頼みたい」
翡翠はそう言って俺を見つめる。
「……悪いけどな翡翠、それは断る。貴女はまだ生きる必要がある」
「でも病では……」
「俺を信じてくれないか?」
「え……?」
「もしかしたら病を治す事が出来るかもしれない」
「……いいよ。無理だったら二人を頼むよ」
「分かった。少し待っててくれ」
俺は頷いて宴会場に向かった。
……厄介な事になったな……。
――宴会場――
宴会場に戻るとそこは死屍累々としていた。
「えぇっとロッタと冥琳は……おったおった」
ロッタは腹を出して爆睡していた。
冥琳は寝てはいないが肴を食べている。
「冥琳、ちょっと来てくれないか?」
「ん? それは構わないが……」
「それとロッタもな」
「んぅ~?」
ロッタをおんぶしながら冥琳と共に宴会場を後にした。
――厠――
「……というわけだ」
「翡翠殿が病なのは分かったが……何故私を呼んだ?」
「体調が優れないとか聞いたで? それに仕事が多くて夜更かしがここ毎日続いていると報告にあるし孫呉の時もあったらしいな」
「ッ……」
冥琳の表情が変わった。
「翡翠同様に病に侵されているんだろ?」
「……あぁそうだ」
冥琳が頷いた。
「仕事が忙しいのは分かるが休む時に休め。お前が死んだら悲しむのは皆やで?」
「……済まない」
冥琳が謝る。
「兎に角、二人の病を治そうにもロッタが爆睡しているからなぁ……」
「ニュフフフ~♪」
ロッタは俺の背中でまだ爆睡中だ。
「いいよ、明日でも大丈夫だ」
「大丈夫か翡翠?」
「あぁ。まだ大丈夫だよ」
「なら明日にしよか」
俺の言葉に二人は頷いてその場で解散となった。
なお、ロッタは仕方ないので部屋まで運んで寝台にぶちこんだ。
そして翌日。
「うぅ~、まだ頭が痛い……」
「頼むでロッタ」
右手で頭を押さえるロッタに言う。
「分かってるわよ。二人に死なれるのも嫌だしね」
ロッタはそう言って杖を持つ。
「いいわね二人とも?」
「うむ」
「何時でも構わない」
二人が頷いた。
「行くわよッ!!『リカバー』ッ!!」
『………』
「……あれ?」
「……まさか『リカバー』は上級魔法に入ると?」
「……そういえばそうだったわ……」
「何てこった……」
俺は頭を抱えた。神様とやらは残酷過ぎじゃないか?
「いいんだよ長門。これは初めから決まっていた運命なんだよ」
「翡翠……けどな「病人は此処にいるのかァッ!!」は?」
誰だ? 何か暑苦しい男の叫び声だな……。
「おぉ此処に病人がいたかッ!!」
「いやいやあんたは誰だ?」
「俺か? 俺の名は華佗だ。五斗米道で病人を治療するために町から町へと歩いているッ!!」
……華佗やと? なら……。
「あんたならこの二人の病は治せるか?」
「あぁ、俺は鍼を使って病魔と闘う事が出来る」
「ならば二人の身体を治してやってほしい。二人はまだ生きるべき人間であり家族や仲間がいるんだ」
「分かった、協力しよう。そのためには貴方の力がいる」
「俺の力?」
「俺の氣だけでは二人を治しきれないが、貴方の氣を使えば治せる事が出来る」
「分かった。俺もやろう」
「なら俺の肩に手をそえてほしい。そしたら後は俺に任せろ」
「よしきた」
俺は左手を華佗の右肩にそえる。
「行くぞッ!! ハアアァァァァァァァッ!!」
華佗は鍼に氣を送る。お、何か俺の氣も吸われていく感覚があるな。
「今だッ!! 元気になれえぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
そして華佗の鍼が翡翠の胸に突き刺さって翡翠は光りに包まれた。
光りが無くなるとそこにはいつもの翡翠がいた。
「どうだ翡翠?」
「……身体の痛さが無い……」
翡翠は驚きながらも自分の身体を触る。
「成功……のようだな」
華佗がニヤリと笑う。
「よし、なら次は冥琳や」
「分かった。そこだッ!! 元気になれえぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
今度は冥琳が光りに包まれた。
そして光りが無くなるといつもの冥琳がいるわけで……。
「どうだ冥琳?」
「……うむ。身体がスッキリしたような感覚かある」
冥琳はそう言うけど、顔は嬉しそうやった。
「念のために医師にも診てもらう」
そして医師にも後に二人を診てもらったけど異常は無かった。
――翌日――
「ありがとう華佗。俺は貴方に御礼がしたいけど何かないか?」
「いや、俺はそんな物は求めない。病人のために俺はそんなひたすらさすらうだけだ」
意外にも頑固だけど……ならば。
「ならさすらうとしても路銀は必要だろ? これは俺からの餞別だ」
俺は小袋に入った路銀を華佗に渡す。
「……分かった。有り難く受けとる。それと俺の真名は炎華だ」
「いいのか?」
「あぁ、俺が認めたんだ」
「そうか、なら俺の真名は長門だ」
「おぅ、また会おう長門」
「またな炎華」
華佗――炎華はそう言って城を後にした。
「……いるんやろ貂蝉に卑弥呼?」
「むぅ、バレたか」
「久しぶりねぇん」
「あぁ、華佗を呼ばしたのはお前らやろ?」
「そうよぉん。ロッタちゃんが上級魔法を使えないからねぇん。別に問題ないわぁ」
貂蝉と卑弥呼はそう言う。
「今回は助かったよ。ありがとう」
俺は二人に頭を下げた。
「いいわぁ。私達は何もしてないわ、ただ華佗ちゃんに病人を教えただけよぉ」
「……そうか」
「それじゃあ行くわぁ。ダーリンを追いかけないとねぇ」
「そうであるな」
「そうか、またな」
「えぇ、またね。ブルウゥゥゥワァァァァァッ!!」
そして二人は消えた。
その後、俺は三人を見送って城に戻ると翡翠が廊下を歩いていた。
「身体は大丈夫か翡翠?」
「あぁ、何にも影響はないみたいだ」
「俺を信じてよかっただろ翡翠?」
「まぁそうだね。ありがとうと言わしてもらうよ長門」
翡翠は俺に微笑んだのだった。
後書き
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