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髑髏天使

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第三十六話 日常その十四


「明日という日があるしね」
「そういうことでね」
「牧村君はどうするの?」 
 あらためて彼に顔を向けて問うた。
「それでだけれど」
「そうだな。俺も明日にする」
「そうなの」
「この店に泊り込むのだな」
「アルバイトも兼ねてね」
 アルバイトもあるのだというのだ。
「それもあって。それと」
「それとか」
「修行の意味もあるのよ」
 それもだというのだ。
「私のね。他の店のことも知っておくといいってことで」
「しかしこの店は」
「殆ど同じだけれどね」
 それは笑って話す若奈だった。彼女もそれはわかっていた。
「それでもね」
「違うことはあるのか」
「それを見る為もあってね」
 また話すのであった。
「今年の夏はこのお店に入るの」
「家には帰らないのか」
「この夏はね」 
 帰らないというのであった。
「泊り込むのよ」
「そうか」
「だからずっと一緒だからね」
 今度はにこりと笑ってだった。牧村に対して言ってみせたのである。
「これからもね」
「この夏はか」
「夏だけじゃなくてもいいわよ」
 こうも言ってみせたのだった。
「夏だけじゃなくてもね」
「秋も冬もか」
「それからもよ」
 話をさらに進めてみせてきた。
「ずっとね。私はいいから」
「あら、若奈ちゃんも大胆ね」
 叔母が笑っていた。そのうえでコーヒーとさくらんぼのケーキを出してきた。それをだ。
「若奈ちゃんはこれもバイト代に入ってるからね」
「有り難う、叔母ちゃん」
「そっちの男前は。まあいいわ」
 その若奈によく似た顔を笑顔にしてだ。そのうえでの言葉だった。
「あんたは半額よ」
「いや、金は持っている」
「それでもいいのよ」
 牧村に対して笑ってまた話してみせてきた。
「だって。若奈ちゃんの相手なんだよ。サービスしないとね」
「相手ってそんな」
 言っておきながら頬を赤らめさせる若奈だった。
「牧村君は。その」
「いいからいいから。じゃあそこの色男」
「牧村だ」
 ここで名乗った彼だった。
「よかったら名前を呼んでくれ」
「わかったよ。じゃあ牧村さんだね」
「ああ」
「あんたは特別に半額だよ」
 笑っての言葉であり続けている。
「それか定額で二倍だからね」
「そうか」
「どっちがいいかしら」
「どっちでもいいが」
「そうだね。あんた背が高いしね」
 長身でしからも均整がとれた筋肉質の身体である。
「二倍にしようか」
「それでいいと思うわ」
 若奈もそれに賛成した。
「それでね」
「そうだよね。じゃあコーヒーもう一杯と。それと」
 ケーキはもう出してきた。そのさくらんぼのケーキをだ。
「はい、これね」
「悪いな」
「だから若奈ちゃんの相手だからね」
 これが全てだった。この店での彼はあくまで若奈の相手である。若奈が主体であった。
「いいのよ」
「有り難う」
 牧村は静かに礼を述べた。 
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