髑髏天使
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第三十二話 変貌その十四
「だからこそだ」
「我等はそれでいい」
「それではだ」
「我等は去ろう」
遂にその全身が炎に包まれ。最後の言葉になっていた。
「貴様の今後はあの世で見せてもらう」
「どうなるかはな」
「それではだ」
「去る」
彼等は青い炎に包まれ消えていった。髑髏天使はそれを見届けてからゆっくりと降り立った。そして牧村に戻ったその時だった。
「また闘ったのだな」
「貴様か」
「見ていた」
死神であった。目玉もいる。
「最初から最後までな」
「今度は闘わなかったのか」
「闘いを挑まれたのは貴様だ」
今はこう言うだけの死神だった。
「だからだ」
「だからか」
「そうだ。私は見させてもらった」
「僕もね」
目玉もそうだというのであった。
「見ていたよ」
「そうか」
「やはりな」
そしてであった。死神はこうも言ってきたのであった。
「貴様はやはり」
「どうしたというのだ?」
「いや、言うまい」
彼も言葉を閉ざしたのだった。
「今はだ」
「言わないというのか」
「言うつもりだった」
こう言ってもであった。
「しかし今はだ」
「いいのだな」
「言う気がなくなった」
だからだというのである。
「だからいい」
「そうか」
「しかしだ。これからだが」
「これからか」
「私は貴様を刈る」
刈る、というのである。
「貴様のその魂をだ」
「俺が魔物になった時とでも言うつもりか」
「そうだ。今の私の役目は魔物の魂を刈ることだ」
その手にはあの大鎌がある。いつもの白銀の光がそこにはある。
その輝きは誇示してはいない。しかし見せてはいた。
そうしてだ。その輝きを見せながらあらためて言うのであった。
「それではだ」
「来るつもりか、今から」
「いや、今はない」
それは否定した。闘う気はないというのだ。
「貴様はまだ人間だ」
「俺は人間だというのだな」
「まだな」
まだ言うのであった。
「まだ人間ではある。しかしだ」
「戯言だな。俺が魔物になるなどとはな」
「そうだといいけれどね」
「何っ!?」
牧村は今度は目玉の言葉に応えた。そのうえでさらに言ってみせた。
「俺がこれから変わるとでもいうのか」
「だから。人は変わるんだよ」
「よく言われる言葉だな」
「よくも悪くも変わるんだよ」
それは決していい場合だけではないというのである。しかもここでの悪い場合というのが問題であったのだ。それこそがであった。
「君だって髑髏天使に変わったじゃない」
「髑髏天使にか」
「そうさ、確かにそれは運命によるものだけれどね」
「運命。五十年に一度この世に現われるか」
「その髑髏天使にね。なるのと同じだよ」
こう言うのである。
「君が魔物になる場合もあるんだよ」
「魔物を倒す髑髏天使でもか」
「過去にそうした話はなかったかな」
「なかった」
死神が目玉の言葉に答えたのだった。
「これまではだ」
「そうだったね。そもそもね」
「智天使になる髑髏天使も殆どいなかった」
「しかもこんな短期間にはね」
「特殊な場合には特別なことが起こるものだ」
死神はここでも冷静に述べた。
「だからこそだ」
「この場合の彼も?」
「有り得る。いや」
「いや?」
「このままどうなってもおかしくはない」
死神は牧村を見据え続けていた。そのうえでの言葉である。
そうしてだ。死神はまた牧村に告げた。
「今の貴様は人になるか魔物になるかの狭間にある」
「人と魔物のか」
「どうなるかは貴様次第だ」
そしてこんなことも言うのだった。
「貴様がどう心を持っていくかだ」
「魔物を倒す」
牧村の考えは今はこれ以外の何でもなかった。
「それだけだ」
「それが何の問題もないものだといいね」
目玉が彼に告げた言葉だった。
「本当にね」
「何の問題もか」
「僕は何だかんだで君のことが嫌いじゃないんだ」
これは目玉の本音であった。彼は今本音を言ったのである。
「君という人間はね」
「俺はか」
「無愛想だけれど努力家だしさりげなく優しさを見せるしね」
「俺は別にそんな人間ではないがな」
「だといいけれどね。それじゃあ」
「そうだな」
死神は目玉の言葉に応えた。
「もう行くか」
「そうだね。じゃあさ」
目玉がまた牧村に告げた。
「また会おうね。その時はね」
「俺が人間でいればか」
「それを願うよ。じゃあね」
こうして姿を消す死神と目玉だった。彼等はこれで去った。牧村は闘いが終わるとサイドカーに乗って家に戻りそのうえでトレーニングをあらためてはじめたのであった。だがその心には何時までも彼等の言葉が残っていたのだった。それは容易に消えるものではなかった。
第三十二話 完
2010・2・28
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