SAO─戦士達の物語
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SAO編
二十七話 始まりは雑貨屋にて
「はぁ……お茶が上手いな」
「爺臭「その突っ込みはいらん。分かってるから」」
エギルの言葉を無理矢理遮って、俺はもう一杯、先程家に買い置きするために買った緑茶を飲む。
正直言って、これがこの世界に有った事は非常に喜ばしい。
俺は紅茶も好きだが、実際の所緑茶の方が好きなのである。
「にしても、今日早えぇじゃねぇか、どうした一体?」
「んー?いや、ついさっきレベルが101に到達してな、ワンオーワンできりが良いし、めでたいから、今日は早めに戻って来たってわけで……」
「お前……なんつーとこまで行ってんだよ……三桁到達者なんておめえが初じゃねェのか?」
「あー、かもな……いや、聖騎士のオッサンなら行ってるかもよ?」
「ヒースクリフか。確かに有りそうだが……それにしたって行き過ぎだと思うがな」
「あ、人には言うなよ?知られて面倒な事なんざ無い方がいいからな」
「勿論。分かってますよっ……と客だ」
そう言って、エギルは店の扉をくぐった槍使いの青年の相手をし始める。
少しだけ槍使いを観察するが、弱気な感じだし、目に少々の怯えが見える。これは駄目だろう。
エギルは付き合ってみると良い奴だし、価格もまじめに交渉すればまともだったり時々(本当に時々だが)おまけしてくれたりなんかするが、それを知らないエギル初心者(?)だと、なまじ本人の顔が怖いため萎縮してしまい、金銭交渉のプロたるエギルにあれよあれよと話を進めされて、どう考えても理不尽な値段で買い取られたりする。
まぁそれ以前にそもそも、SAOに置いてプレイヤーショップで売買したいのなら遠慮や萎縮自体NOなのだが。
案の定、今回のお客はエギルを恐れたまま交渉を進めてしまったため簡単に押し切られてしまい、質の良い防具の素材となってくれる「ダスクリザードの皮」二十枚を、500コルと言う良心もクソもあったもんじゃない値段で買い取られてしまった。
『ご愁傷さん。学べよ、青年』
そんな事を思いつつお茶をもう一杯啜る夕暮れ時。
笑う棺桶討伐作戦から約二カ月半。
浮遊城アインクラッドにおけるデスゲームSAOは始まって、もうすぐ二年が経とうとしている。
残る階層は26
生存者の数は約6000人
────
「おーっす、相変わらず阿漕な商売してるな」
そう言って槍使いの後ろから続いてきたのは見慣れた黒衣の片手剣使い。キリトだ。
「おう、元気か少年」
死角になっていたので見えなかったのだろう。まだこちらに気付いていない様子のキリトに話しかけると、驚いたように此方を向いた。
「おぉ!?兄貴居たのか。珍しいな兄貴が俺より早いなんて」
「何だ、どいつもこいつも人を帰りの遅い子供みたいに言いおって……まぁ事情は後で話すさ。それよか何持って来たんだよ?なんか面白いもんか?」
「あぁ。面白いってゆーか、なんてゆーか……エギル、たのむ」
「おうよ」
そう言って、エギルと向き合ってトレードウィンドウを開くキリト。同じく向き合ったエギルはウィンドウを出し……目を見開いた。驚愕しているようだ。
「おいおい……こりゃS級のレア食材アイテムじゃねぇか……《ラグー・ラビットの肉》、俺も始めてお目にかかるな」
それを聞いた俺は思わず高い口笛を吹く。
S級のレア食材アイテムと言ったら、売れば7万、いや10万コルは堅いだろう。
何しろSAO内で最高級とも言える食材アイテムである。
原則、SAO内での娯楽と言ったら先ず間違いなく「食う」ことが上がる。NPCのレストランでも旨い所は旨いが、料理スキルの高い職人プレイヤーが、高級な食材を用いて作る料理の旨さは、その比では無い。
それだけの食材を持っていて、食わずに金にすると言うのは正直、自身でもよく食うと自負している俺ならまずあり得ない事だ。
「何だキリト、お前自分じゃ食わねぇのか?相当旨いと思うぞその肉なら」
「そりゃ分ってるけどさ……このレべルのアイテムとなったら扱える奴も限られてくるしなぁ……」
それは確かにそうだ。
鍛冶スキル等と同じで、アイテムのレベルが高いほど、その手の物を扱う時スキルの熟練度が高く無いと失敗率は高くなる。
ましてこのランクの食材となれば、最低でも熟練度900異常の料理スキルの持ち主が欲しい所だが、そんなスキルの持ち主がそこらへんにごろごろしている訳は無い。
だが……
『お前によばれりゃ喜んで飛んでくるだろう女を、俺は知ってるがな……』
鈍感な義弟を正面に見ながらそんな事を思う。と……
「キリト君」
突然、聞き覚えのある声と共に、陳列棚の裏から手が飛び出し、キリトの左肩に触れる。
前言撤回。真後ろに居たようだ。
キリトは一瞬驚いたような顔をしたが即再起動。肩に付いていた手を掴んで、振り返るざまに言う。
「シェフ捕獲」
「いやキリト、その言い方はどうかと思うぞ?」
「何……ってあれ?リョウ居たんだ?珍しいね、こんな早く帰って来るの」
「なぁ、エギル、俺ってそんなにいつも戻って来るの遅いっけ?」
「まあ……なぁ。用事がなきゃ大体早くて日が暮れる直前位だろ。キリト達も帰った後とか多いしなぁ。おめえの自業自得だな」
「はぁ……」
少し立ち上がって全員が見える位置に移動する。
現れたシェフ……もといアスナの後ろには、二人のコーブメンバーが立っている。
その内、左に居た赤いバンダナの男は知り合いだ。少し手を上げて挨拶すると、彼も同じ動作で返して来た。
もう一人の男は見覚えが無い。油っぽい長髪を後ろで束ねた、色白で細身な三白眼の男。
キリトがアスナの手を掴んでいる事がお気に召さなかったらしく、さっきの籠った眼でキリトを睨んでいる。
ま、気持ちは分かるよ。
そんな風に観察している内に、キリトとアスナの会話は進む。どうやら、キリトがアスナに肉を調理しれくれたら一口食わしてやると、提案しているらしい。っておい
「いやいやキリト、それ報酬として少なすぎ。っていうか、どんだけ食う気だお前は」
「「(リョウ)兄貴が言う(か)?」」
「Hey……」
ハモったよこいつ等。
俺が好きなのは甘味だ、別に何でもかんでもやたら食う訳じゃない……はずだ。
「コホン……とにかく、一口ってのは少な過ぎだ。せめて半分くらいくれてやれ」
「そうよ。っていうか、私だってS級なんて殆ど食べた事無いんだからね?」
「ぬ……分かったよ。んじゃ半分こだ」
「聴き分けが良くてよろしい」
俺がそう言うと、キリトはエギルに向き直って話し始める。
曰く、取引中止
了承した巨漢曰く、俺にも少し味見を……
意地の悪い黒衣曰く、四百文字詰め作文用紙二枚分の感想文をくれてやる
再び巨漢曰く、Oh NO!
といった感じだ。
そうして、キリトは店の出口に向かって歩き出そうとする。それを……
「ちょい待てい」
「グエッ!」
襟首を掴んで引き戻す。
当たり前だが、キリトは首を押さえて抗議するように此方を向く
「何すんだ!?」
「『何すんだ』、じゃない。お前アスナに何処で料理させる気なんだ?ゴチャゴチャしたお前の家か?まとも道具も無しで?ゴキブリ湧くのに?」
「前半二つはともかくゴキブリは出ねえよシステム的に!」
「おぉ、失礼。で?」
「う……」
以前にも行ったが、キリトの家は此処、第五十層アルゲードにある。
確かに近いが、あまり女性を招くのには感心しない程度に散らかっているはずだ。
「と、言う訳だアスナ。頼めるか?」
「え?あ、うん……それなら仕方ないわね。食材に免じて私の部屋を提供してあげるわ」
そう言ったアスナは、態度こそ仕方なさそうにしているものの、目には明らかに歓喜の色が浮かんでおり、心なしか頬も血色良く染まっている。
……計画通り
「……へ?……え?」
「え?、じゃ無くてちゃんとお礼言え少年」
「あ、はい。ありがとうございます……」
『『何故敬語……?』』
そんなこんなで、キリトはアスナの家にお邪魔することが決定した。
少々油髪のおっさ……お兄さんが、キリトの事を雑魚だとか、ビーター(ベータテスターと、改造等によってズルをする事でゲーム内で強くなる“チーター”と言う言葉をかけ合わせた、テスター参加者と一般プレイヤーとの間に大きな溝があるSAO特有の蔑称)だと言ったりとか色々五月蠅かったが、最終的にはアスナが押しきってキリト達は転移門へと向かって言った。
その姿を見る、クラディールと言う名らしい油髪の男の憎悪の宿った眼が妙に気になったが、今は気にしない事にしよう。
その夜、こんなメッセがアスナとキリトからそれぞれ送られてきた。
From Kirito
Main 何か成り行きでアスナと明日PT組むことになってしまったんだが……兄貴どう思う?
From Asuna
Main 勢いでキリト君と明日PT組んで迷宮区に行く約束しちゃった!どうしよう!?
おーやおや、こりゃ明日は何か起きそうな予感……
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