髑髏天使
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第二十六話 座天その二十四
「これでわかったな」
「ええ、よくね」
「それではだ。行くのだ」
赤い炎に包まれていく魔物に対して告げた言葉だった。
「冥府にな」
「貴方には負けたわ」
その赤い炎の中で魔物は微笑みながら言ってみせてきた。
「完全にね」
「認めるのだな、それは」
「ええ、そうよ」
ここでも微笑み続けていた。
「それじゃあ。魔物としてあの世に行くわ」
「暫くそこに留まっているのだな」
「そうさせてもらうわ。あちらの世界もあちらの世界で楽しいし。それに」
「それに?」
「どうやらあちらから楽しいものが見られそうだし」
ここでこんなことも言ってきたのである。
「どうやらね」
「楽しいものだと」
「それを楽しみにしながら逝くわ」
こう言うのであった。
「それでは。またね」
「楽しいものか」
魔物が赤い炎の中に消えていくのを見届けながら呟く死神だった。
戦いは終わった。死神は元の姿に戻った。その彼の上にまたあの目玉が出て来た。そうしてそこから彼に対して声をかけてきたのだった。
「今回も無事に終わったね」
「無事か」
「一時はどうなるかって思ったけれど」
「勝つことはわかっていた」
彼は冷静な言葉で目玉に返した。
「既にな」
「その割りには苦戦してなかった?」
「それでもわかっていたことだ」
そうだというのであった。
「私が勝利を収めることはだ。何故ならだ」
「何故なら?」
「私は死神だからだ」
これが彼の根拠なのだった。
「だからだ。勝つのはわかっていたことだ」
「だからなんだね」
「そうだ。それではだ」
「うん。それじゃあ帰ろうか」
目玉は今度は彼にこう言ってみせた。
「僕達の世界にね」
「今からな。しかし」
今度は牧村を見る死神だった。彼もまた髑髏天使から元に戻っていた。そのうえで彼を見ながら言うのだった。
「また強くなったのだな」
「座天使だね」
「そうだ」
まさにそれだと返す死神だった。
「あいつはそれになった」
「雰囲気が違ってきたね」
目玉はその彼を見ながら述べた。
「随分と。何か」
「どうなっていると思う」
「人間離れしてきたね」
そうなってきたというのである。
「何かね」
「人間離れか」
「僕の気のせいだといいけれど」
「いや、気のせいではないな」
「そうだっていうんだね」
「あの気配はだ」
死神もまた牧村を見続けていた。
「間も無く変わるな」
「そうだね。このまま行けばね」
「人でなくなったならば」
死神の声はここで鋭いものになった。まさに鎌であった。
「動く」
「予定通りだよね」
「そうだ。刈る」
さらに具体的な言葉であった。
「あの魂をだ。刈る」
「わかったよ。その時は仕方ないね」
「そういうことだ」
ここで牧村が彼等のところに来た。そうして彼から声をかけてきたのであった。
「いいか」
「何だ」
「俺はこれで帰らせてもらう」
こう彼等に対して言ってきたのである。
「これでだ。貴様達はどうする」
「私は私の世界に帰らせてもらう」
「僕もね」
彼等は静かに今の牧村の問いに答えた。
「これでだ。そこで休ませてもらう」
「そうさせてもらうよ」
「そうか」
それを聞いて静かに頷いた牧村だった。
「わかった」
「それでいいのだな」
「聞いただけだ。俺が何かを言うことではない」
いつも通りの素っ気無くしかも他人に干渉しない言葉だった。
「それならそれでいい」
「そういうことだな」
「では俺もこれでだ」
彼の横にサイドカーが来た。脳波で呼んだのである。
そのサイドカーを一瞥したうえでだ。また死神達に告げたのであった。
「帰らせてもらう」
「それでは。今日はこれでお別れだな」
「また会うことになるな」
こうは言っても牧村の言葉にはこれといって感情が見られない。これもいつも通りであった。
「その時にまた、だ」
「そうだな。またな」
言葉を軽く交えさせて終わりであった。彼等はそれぞれの場所に戻った。闘いは終わりまたあらたな戦いに入るのであった。それまでの休息であった。
第二十六話 完
2009・11・20
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