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髑髏天使

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第二十六話 座天その五


「だからそういうこともあるだろう」
「あのね、側にいるからわからないのよ」
 すると妹は今度はこう言うのである。
「中学校でも塾でも。私男の子から人気があるみたいだし」
「気のせいだな」
「気のせいだなって」
「自意識過剰だ。あまりよくないことだ」
「どうやらお兄ちゃんには言ってもわからないみたいね」
 ここでも怒ったふりをする言葉を出してみせてきた。
「わかったわ。私にも考えがあるわよ」
「では何をするつもりだ」
「若奈さん」
「何かしら」
 ここで、であった。若奈が店の中から出て来た。それぞれの手にティラミスを置いた白い皿を一つずつ持って出て来たのである。
「そのティラミスですね」
「ええ」
「両方共下さい」
 こう言うのである。
「私に下さい」
「待て」
 それを聞いた牧村はすぐに妹に言い返した。
「一体何のつもりだ」
「だから。言っても駄目ならよ」
 今度は意地悪そうな笑顔をその顔に作ってみせてきていた。
「こうするだけよ」
「人の食べ物を取り上げるのか」
「そうよ。実力行使よ」
 それをするというのである。
「わかったかしら、これで」
「ああ、わかった」
 こうされては認めるしかなかった。彼にしろ食べる為に来ているのだ。それでその食べるものを害されてはどうすることもできなかった。
「わかったからティラミスはな」
「はい。じゃあ若奈さん」
「ええ。一つよね」
「はい、それで御願いします」
「わかったわ。じゃあ」
 未久の前に一皿、そして牧村の前に一皿ずつ置いていく。それと共に紅茶も用意する。ここでまた二人に対して問うてきたのである。
「それで葉だけれど」
「セイロンを頼む」
「アッサム御願いします」
 それぞれ言う。これで紅茶も決まる。
 牧村はまず紅茶を口に含んだ。ここでまた未久が言うのだった。
「あれっ、お兄ちゃんって」
「どうした?」
「左利きだったっけ」
 こう言ってきたのである。見れば彼は左手でカップを手に持っていた。彼女はその兄の手を見て言ったのである。
「前右に持っていたと思うんだけれど」
「どちらでもいける」
 彼は妹の問いにこう答えた。
「どちらでもだ」
「持てるの」
「そうだ。それは知らなかったか」
「っていうかはじめて見たわよ。いえ」
 ここで彼女は気付いたのだった。そのことに。
「そういえば最近鞄とか左手で持つこともあったかしら」
「俺は両利きだ」
「最近なったみたいね」
 そしてこうも彼に言った。
「左手を使ったり」
「あっ、そうよね」
 未久の言葉を聞いて若奈も言ってきた。彼女は今は見せのコップを拭いている。一つ一つ奇麗な布で丹念に拭いているのであった。
「牧村君最近右手だけじゃなくて左手でもフェシングできるし」
「両方使うようにしている」
 だからだと答える牧村だった。実際に今も左手でフォークを使ってそのうえでティラミスを食べている。またしても左手を使っていた。
「どちらもな」
「器用ね」
 未久はその兄のフォークを使うのを見ながら述べた。 
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