| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

髑髏天使

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二十四話 妖異その十


「いなかったな」
「あれっ、いないの」
「そうなの」
「魔物にも魔神にもいなかった」
 それもどちらもだった。全くいなかったのである。
「全くな」
「ふむ。それはまた面白いのう」
 博士はそれを聞いて呟く様にして述べたのだった。
「そういうのが一人もいなかったのか」
「それなり以上に相手をしてきたが一人もだ」
「魔物とはそういうものじゃがな」
 人や同胞を食らうものだというのである。
「そうではないとはのう」
「ただ俺が今まで出遭っていないだけかも知れない」
 こう仮説を立ててもみた。
「そうした魔物とはな」
「そうかも知れんのう」
 博士もその可能性は否定しなかった。
「ひょっとしたらじゃがな」
「だからといってもどうかというわけでもないがな」
 牧村の言葉はさばさばとしたものであった。
「別にな」
「まあそのうち会うじゃろう」
 博士は言った。
「その時に考えておくことじゃ」
「そうさせてもらう。しかしのう」
「しかし?」
「君はどうなのじゃ?」
「俺か」
「そう。君じゃ」
 牧村への言葉であった。
「君はそのまま人間でいてられるのかのう」
「俺は人間だ」
 今更言うまでもないといった口調だった。
「それは変わらない」
「人間であればよいのじゃ」
 博士はまた言った。
「しかし髑髏天使になってからの君は」
「何か変わったか」
「強くはなった」
 それは認めるのだった。
「強くはのう。しかし心は変わってきたのではないかのう」
「あれっ、そう?」
「別に変わってないよね」
「ねえ」
 妖怪達は彼等の話を聞いて首を傾げるのだった。それは納得していないことの何よりの証であった。
「何もね」
「特にね」
「何処もおかしいことはさ」
「それだったらいいのじゃがな」
 博士は妖怪達の言葉を聞いてそれならばというのだった。
「わしの気のせいだったらのう」
「そうだ。気のせいだ」
 牧村はあえてそうしようとした。これは彼の心の中だけであり外には出さなかった。博士にも妖怪達にも己の心を見せようとしなかった。
「博士には悪い言葉だがな」
「よい。気のせいならばのう」
 そして博士も彼のその言葉を受けてそう返したのだった。
「それでじゃ」
「それではだ」
 壁から背を離す牧村だった。そのまま部屋を去ろうとする。
 だがここでまた。妖怪達が言った。
「それで牧村さん」
「何か食べる?」
 こう牧村に対して声をかけてきたのである。
「ケーキあるよ」
「どうなの?」
「石榴のケーキね」
 それだというのである。今日のケーキは。そして時際に牧村にその石榴のケーキを出してきた。石榴の器用に種を取った紅いものを出してきたのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧