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髑髏天使

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第二十二話 主天その二十


 三条の、爪と同じ数だけの血が噴き出す。肩には同じ数だけの切り裂かれた傷が生じた。
「影を切り裂いてか」
「俺は貴様を切ることはできない」
 魔物はその噴き出す血を見ながら述べてみせた。
「だが。影を切ることはできる」
「影をか」
「そうだ。影は魂でもある」
 こう言うのである。
「その影を切ればだ。貴様自身も切り裂かれたことになる」
「話は聞いたことがある」
 ここで一旦後ろに下がりそのうえで言う死神だった。
「影を切り裂く魔物の話はな」
「ほう。俺も有名になったものだ」
「それが貴様だったか」
 あらためて魔物を見据えるのであった。
「貴様がその魔物だったか」
「そういうことだ。それこそが俺だ」
 その嘴になった歯のない口で笑ってみせていた。嘴が歪に歪んでいる。
「俺がその魔物だったのか」
「今それがわかった。しかしだ」
「しかし。何だ?」
「私もまた影を操ることができる」
 構えは解いていなかった。そのままであった。
「私もな」
「それは知っているが」
「貴様が影を襲うことができるならば」
 魔物の言葉を受けたうえでさらに言うのであった。
「私はこうしたことができるのだ」
「むっ!?」
「見るのだ」
 その言葉と共にであった。彼の影から無数の影が出て来た。それが一斉に魔物に対して襲い掛かって来たのであった。
「影がだと!?」
「さあ、これならどうするか」
 己はそのまま元の場所に立ったままであった。
「この無数の影達に対しては」
「簡単な話だ」
 魔物はその無数の影達を見ても動じてはいなかった。
「的が一つでなくなっただけだ」
「そう思うのか」
「そうだ。ただそれだけのことだ」
 言いながら今鎌を手に迫ってきた影の一つを切り裂いた。
 手応えは確かにあった。その影を確かに切り裂いた。しかしであった。
「むっ!?」
「言っておくが私は分け身も使える」
 こう言うのだった。
「私自身だけでなく影達もな」
「そうか。影にそれを使ったのだな」
「これでわかったな。そしてだ」
 彼はさらに言うのだった。
「この影達も攻撃を繰り出すことができるのだ」
「それで俺様を斬るつもりだな」
「その通りだ。さあどうするか」
 影達に囲まれながらの言葉であった。
「私の影達に対して」
「ふん。俺様を甘く見ないことだ」
 その爪を禍々しく輝かせながら臆するところはなかった。
「影達がどれだけいようともだ」
 今来た二つの影も切り裂く。すると影達はすぐに消え去った。
 しかしすぐにまた影が来た。それも切り裂く。しかしその影も消え去るばかりだった。
 それでもだった。魔物は臆していなかった。その影達を切りながらも一つ目を動かしていた。まるで何かを探し出すようにしてだ。
「貴様の影は必ずある。それならばだ」
「何時か必ず倒せるというのだな」
「そしてだ」
 彼はさらに言う。
「貴様自身も切ることができるというのはわかっているか」
「無論だ」
 死神は今の魔物の言葉も受けた。
「その様なことはな」
「わかっているならいい。それならだ」
 魔物の方から動いた。その腕を斜め上から繰り出す。
 右が来て次に左であった。だが彼が今切り裂いたものは空であった。切り裂かれた筈の死神はその姿を消し去ってしまったのだった。まるで影の様に。
「むっ、消えたか」
「こうしたこともできる」
 死神の声だけが聞こえた。 
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