SAO─戦士達の物語
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SAO編
十一話 花に囲まれて
~♪
耳元で奏でられるチャイムの音で、シリカは目を覚ます。
この世界では朝、自分だけに聞こえる起床アラームで、強制的に起こしてくれるという非常に便利な機能が有る。
無論、起きてから二度寝するしないは自由だが、いつも朝が苦手なシリカはしかし、今日はスッキリと目が覚めた。
現在時刻は午前七時。
一度大きく伸びをしてから、ベットから降りようとしてシリカは普段部屋に無い物の存在に気が付いた。
部屋のティーテーブルの上の小さなポット。
それを見た途端に、シリカは昨日の出来事と、ついでに此処がどこなのかを思い出した。
『私、リョウさんの部屋で、そのまま……』
そこまで理解したとたん、顔が火炎ブレスで炙られたかのように熱くなる。
SAOの世界は感情表現が過剰なので、もしかしたら頭か耳から湯気の一つでも出ているかもしれない。
地面に寝袋がほったらかしになっている所を見るに、どうやらリョウは床で寝たらしい。
幸いと言うべきか、今は何故か本人は居ないがそれはどうでもいい。
恥ずかしいやら申し訳ないやら、そんな感情がごちゃ混ぜのパニックになった結果、シリカは両手で掛け布団をひっつかみ、顔を覆って身悶える。
────
「―――――!!―――――!!」
「……朝からベットの上で何をやってんの、お前は。」
「ぴゃぁーーーーーーーーー!!!」
どれくらいそうしていたのか分からないが、突然苦笑した様なリョウの声が掛けられ、驚いたシリカは変な声と共に顔を跳ね上げた。
と、いつの間にか部屋に戻って来ていたリョウともろに目が有ってしまった。しかも早く目を離せばいい物を、何故か目が離せなくなり、リョウと見つめ合う形になってしまう。
こうして見ると、やはり年上と言う印象の強い青年だ。だが、どこか幼さの残った顔をしている。
高校生、位だと思うのだが……どうなのだろう?
そんな事を考えていると突然リョウが困ったような表情と共に頬を掻き、
「あのー、正面から見つめ合うのはさすがに恥ずかしいんで目、逸らしていいか?」
「ぴぁ!?え、あ、は、はい!」
「……とりあえず落ち着けな。」
笑いながらそう言うリョウに、シリカは言われた事とは逆にますます赤くなってしまうのだった。
それから五十分ちょっと。
準備や朝食などを済ませ、宿の隣の道具屋で回復ポーション等の補充を済ませた二人は、ゲート広場へと向かう。
シリカはリョウに先行して転移門へと飛び込もうとしたが、そこではたと足を止める。
「あ……あたし、四十七層の街の名前……」
マップを見て確認しようとすると、横に来たリョウが右手を差し出してきた。
「俺が指定した方が早えぇだろ?」
「あ、はい」
有りがたく申し出を受けることにして、おずおずと差し出された手を握る。
「転移!フローリア!」
一瞬、軽い転移時特有の浮遊感がしたかと思うと、次の瞬間には無数の色彩の乱舞がシリカの目の中に飛び込んで来た。
「うわあ……!」
意識せずして、自然と歓声が口から洩れる。
第四十七層 主街区 《フローリア》
そのゲート広場は、無数の花々詰め尽くされていた。
円形の広場を細い通路が十字に貫き、それ以外の場所が煉瓦で出来た花壇となっていて、そこに、見た事の無い花々がまるで周りに埋もれないよう自分の存在を主張するかのように一輪一輪咲き誇っている。
「すごい……」
「この層の通称は《フラワーガーデン》、街どころかこの階層事態の至る所が花だらけなんだぜ?まったく、ある意味大したもんだ」
「ある意味って言うか……す、凄いです!」
「凄いと言えば、北の森には滅茶苦茶でかいラフレシアみたいなのもある」
「そ、それはちょっと……」
「まぁ、あれの匂いには俺も参ったからなぁ」
そう言ってリョウに笑い、シリカは花壇を覗き込む。
水色っぽい、矢車草にも似た花に顔を近づけ、香りを吸い込む。
花は、花弁からおしべ、葉や茎に至るまで、驚くほどリアルに作られていた。
ただし、それはシリカが注目しているこの花だけで、視界の端に移る花は、グラフィックは少々雑だ。
これはSAOに採用されている、《ディチール・フォーカシング・システム》による物である。
これは簡単にいえば「プレイヤーの注目した物のみ、そのディティールがリアルになる。」と言う仕組みだ。
ナーヴギアに使われているCPUや、SAOのメインフレームは確かに優秀だが、流石にこの広大なアインクラッド全域のグラフィックをリアルに出来るほどのキャパシティを備えてはいない。
しかし、このシステムを使えばシステムにかかる負荷は大幅に減り、なおかつ、プレイヤーには本物さながらの見事なグラフィックを体感してもらう事が出来る。
ちなみに、この仕組みを思いついたのも、ゲームデザイナーでもある茅場本人だとかそうでないとか言われている。
閑話休題
存分に花の香りと色彩を楽しんだシリカが顔を上げると、リョウは近くの屋台で何か買い物をしていた。
振り向いたリョウは、面白い物を見つけた子供の様な表情でこちらに駆け寄ってきた。
「見ろシリカ、こんなもんが有ったぞ。」
「何ですか……?壺?」
リョウの小脇には、茶色い16,7㎝くらいの壺が抱えられていた。
壺の中からは、5本の竹串が突きだしている。
「これはな、60本までならどれだけ食べても団子が次々に中から湧き出るように出て来ると言う団子好きにはたまらない魔法の壺なのだ。まぁ、先ずは一本食ってみ?」
「は、はぁ……いただきます。」
喜々とした表情で壺をこちらに差し出してくるリョウに、完全に花より団子だなぁ……とか思いつつ、シリカは壺の中から竹串を一本引っ張り出す。
中から出ていたのは、みたらしだれっぽい何かが掛った団子っぽいものだった。ちなみにリョウは緑色の草餅っぽい色の団子に餡子っぽい物が掛ったタイプの物だ。
「(はぐっ)」
「(もぐっ)」
シリカが四つの内の先端の一個(リョウは一気に二個)食べ、咀嚼する。
と、モチモチとした食感と共に口の中にみたらしの香ばしく、甘じょっぱい味が広がる。
「おっ、普通に団子だな!これ。」
「おいしいです!」
一個目を食べ終えた二人が同時に感想を述べる。
なるほど、これは中々当たりの様だ。
こんなのんびりとした調子で良いのだろうか?と思いつつも、シリカはこの状況が嫌ではなかった。
────
さて、現在俺達二人は三十五層の主街区を歩き、南門へと進んでいる道中だ。
隣にはシリカが並ぶ形で一緒に歩いている。
ちなみに俺は、先程勝った屋台の魔法の壺から取り出した、胡麻のしつこさのあまり無い甘さと、香ばしさが特徴の団子を感じている所だ。(壺の中には、これと、草餅餡子とみたらしの団子が入っていた。)
途中、シリカから従弟妹についてなどを聞かれたりして駄弁っていたのだが、ちょうど団子を食べ終えたころ、目の前に鉄で編まれたアーチにツタの植物がからみついたよう作りの南門が見えてくるとシリカはとたんに緊張した様な表情になる。
いや、実際に緊張はしているのだろう。
少なくとも、これから自分のレベルでは本来圧倒的に届かないフィールドへ出るのだ、誰でも緊張はする。特に、彼女にとっては大切なパートナーの命が掛っているのだから尚更だ。
門の目の前まで来た所で足を止めると、シリカは少し前に出て、俺と向き合う形で立つ。
「さて、いよいよ冒険開始なわけだが。」
「はい。」
表情の引き締まった状態のシリカに取りあえず一番重要な注意をする。
「お前のレベルと渡した装備なら、まぁ此処のモンスターは別に倒せない敵ってわけじゃない。だが……」
俺は左の袖に手を突っ込む。実はここ、左右共にポーチのように物を入れられる仕組みになっており、片方に付き二つくらいまでなら物を入れられる。
他にも俺は、服の裏だとか、腰の後ろの所だとか、色々な所に色々な物を仕込んでいるのだが……まぁ、今はどうでもいい。
「フィールドじゃ何が起きてもおかしい事はねぇからな。もしもなんかあって俺が離脱しろって言ったら、何処でもいいからその結晶で跳べ。その際、俺の事は一切考えるな。」
「で、でも……」
「いいな?必ずだぞ?」
口ごもるシリカの言葉をさえぎって俺は言葉を強調する。
その言葉に納得したのか、はたまた俺の迫力がすごかったのかは知らないが、シリカはたじろいだように頷く。
心配してくれる気持ちは勿論嬉しいのだが、無理をされてもしもの事が有ったのでは、話にならないのだ。
頷き、少し暗い表情をしているシリカに、俺は先程とニッと笑いながら出発を促す。
「さぁ、んじゃパパァ~っと行くぞ!」
「あ……はい!」
少し驚いたように顔を上げたシリカだったが、直ぐに明るい笑顔を取りもどし、頷いた。
かくして、俺達ピナ救済チーム(2人だが)はフィールドへと繰り出した。
さて──行軍中、どうもシリカは足手まといになるまいとしているらしい。
気合十分に前を歩いている。
──駄菓子菓子
「ぎゃ、ぎゃああああああ!?なにこれ──!?き、気持ちワル────!!」
「ま、そうなるわな」
歩き出して数分、最初のモンスターとエンカウントしたのだが。
どうやら戦闘以前の問題が有ったようだ。
「や、やあああ!!来ないで────」
『いやいや、そんな事言ったってモンスターなんだから近付いて来るぞー』
とか胸中でツッコミつつ、俺はシリカの戦闘(?)を傍観している。
草むらから飛び出してきて、今シリカと相対しているのは、太い茎の先を枝分かれさせ、地面をしっかりと踏みしめることで、移動可能な、まさしく《歩く花》とも言うべき奴である。
まぁそれだけなら特に何も無かったのだろうが、問題なのはその茎の先だ。
そこにはヒマワリの様な巨大花が乗っており、その中央にいかにも汚そうな不揃いな牙を生やした口がパックリと開いて内部の毒々しい赤をさらしている。
また、茎と花の間からは肉質のツタが伸びており、どうやらその蔦と口に攻撃判定が有るらしい。
「やだってば────」
先程、この層に来た時の反応から察するに花は好きなのだろう。
それもあってか、その醜悪な外見に相当な嫌悪感を催したらしいシリカは殆ど目をつぶって短剣をぶんぶんと振り回すだけになっている。
「狙いもしないで剣振っても当らねぇっての、花のすぐ下の白くなってるとこ狙えば倒せるからやってみー?」
「だ、だって、気持ち悪いんですううう──」
まぁ、直視するのも嫌なんだから相当なんだろうけども……。
「そいつで気持ち悪がってたらこの先大変だぞー。似た様な花がいくつもついた奴とか、食虫植物っぽいのや、粘液だらけの触手が山ほど生えたモル○ルみたいな奴まで……」
「キエ────!!」
その先を聞くのが嫌になったのか、シリカは奇声を上げながら殆ど狙いも付けずにソードスキルを繰り出すが、まぁ見事に空振る空振る。
面白いな、もうちょっとからかってみようか……?
そんな少々黒い事を考えていると、スキルを使った事で出来た技後硬直の隙を突いてするりと二本のツタがシリカの足元に滑り込み、足首を捉えて見た目に反した怪力でひょいと持ち上げた。
「わっ!?」
足から宙吊りにされたシリカは身体が上下逆さまになり、かなり不安定な体制になる。
しかしそれだけでは収まらない。
まぁ当然と言えばそうなのだが、シリカが下半身に来ていたのは黒いスカートだったわけで……それが仮想の重力と物理法則に馬鹿正直に従いずりりっと下がる。
「わわわ!?」
「おぉ、すっげ」
慌ててシリカは左手でその裾を抑え、右手を使って自分の足に巻きつくツタを切ろうとしているが、いかんせん無理な体勢であるせいで上手くいってない。
左手を使ってツタを掴めばいいのだが、それをするとスカートが完全にずり落ちるわけだ。
最早必死と言った様子のシリカは、顔を真っ赤にして助けを求めて来た。
「り、リョウさん助けて!見ないで助けて!」
「無茶を言うな。蔦切るぞ」
淡々と言いつつ俺は袖の中から刃の部分だけが金属で、他は木で出来たブーメランを取り出す。
これは投擲スキル専用のアイテムで、鉄製のナイフやピックには威力で劣る代わり、耐久限界値までは自分から主人のもとに帰って来ると言う便利な投擲武器だ。(通常は回収したければ自分で取りに行く)
「疾っ!!」
鋭い呼吸と共に投げ出されたブーメランは水色のライトエフェクトを纏っている。
投剣、初級技「カッターシュート」
まぁ、ただ普通に投げるよりも少し威力が高い位の技が出来る投擲技だ。
回転し、飛んで言ったブーメランはシリカを拘束していたツタを切る。
戻って来るブーメランを取るまでの間にシリカは体制を立て直して空中でソードスキルを繰り出し、忠告通り花の首根っこを攻撃。
すると巨大花は頭をころりと落とすと同時にがしゃーんと爆散し、ポリゴンの欠片を浴びながら着地したシリカは、振り向くと殆ど同時に俺に訪ねた。
「……見ました?」
ふむ、表情が真剣だな。
俺は肩をすくめながら答える。
「白、むがぺっ!?」
「リョウさんの馬鹿ぁ!!」
蹴られた。痛い
────
初めの戦闘終了後、五回ほど戦闘をするとようやくモンスターの姿にも慣れ、二人は快調に行程を消化して行った。
一度イソギンチャクに似たモンスターの、粘液まみれの触手に全身をぐるぐる巻きにされた時は意識が飛びかけたが。
リョウの方は基本的には後ろから傍観しているだけで、危なくなると、ブーメランを投げて援護するだけのサポート役に徹していた。
この世界でのパーティプレイは、モンスターに与えたダメージの量によって経験値が分配されるため、高レベルのモンスターを次々に倒したシリカはたちまちレベルを一つ上げた。
赤レンガの街道を進んでいくと、小川にかかった小さな橋が有り、その向こうに一際小高い丘が見えて来た。
直線の街道は、その頂上までつながっている。
そこを指差して、俺は言った。
「ほーら、見えて来たぞぉ、あれが、《思い出の丘》だ」
「ほんとに一本道なんですね」
「なんだよ、疑ってたのか?ま、とにかく、基本的にはただ登って行くだけでいい。ただし、エンカウント率が異常なほど高いって話だから、あと少しだからって油断すんなよ?帰りもあるしな」
「はいっ!」
真剣な顔で答えるシリカの目には、大きな期待が宿っている。
そのせいか先程までより足が速くなり、リョウもそれに続く。
噂通り、登り道に踏み込んだとたん、モンスターのエンカウント率が高くなった。
しかし、シリカに持たせた短剣は俺の持つ武器の中でも結構強い部位に入るので、大体のモンスターは、通常の連撃ワンセットで倒す事が出来る。
ちなみに、複数の敵が出て来た時は一体を残して俺が倒すことにしていた。
初めの内は、《足技》を鍛えるために蹴りでモンスターを倒す俺に驚いていたシリカだったが、今は慣れたようだ。
ただ、少し瞳に疑念が混じっている所を見るに、俺の強さにに疑問は持っているようだが。
さて、激しいエンカウントの嵐を退けて、少し高い木立を抜けるとそこが頂上だった。
「うわあ……!」
シリカが歓声を上げる。
そこは木立に囲まれた中にぽっかりと空いた空間で、そこにこれまた色とりどりの花が咲き誇っていた。
「やーっと着いたなぁ」
少し疲れた声を出しつつ、リョウはシリカに歩み寄っていく。
ちなみに此処は、安地(モンスターの出ない、フィールド上の安全地帯の事。中立地帯とも言う)に設定されているので、モンスターは心配しなくていい。
「ここに……その、花が……」
「ん、話じゃ真ん中あたり岩が有って、そのてっぺん……聞いてねぇか。」
言いきる前にシリカは花畑の中央の白く大きな岩へと駆け出すと、そこを覗き込む。
リョウは後ろからのんびりと後ろから近づくが、岩の上が見えるか見えないかの所でシリカが血相を変えて振り返った。
「リョウさん!は、花が無い……!」
「はぁ?んなわけ……っておい!だから泣くなって!つーかよく見ろ!」
「え?……あ……」
また泣きそうになっているシリカを促し、岩に視線を戻させると、そこではちょうど一本の草の芽が伸び始めている所だった。
双葉の芽はやがて白い蕾に姿を変え、それをだんだんと膨らませながら茎をのばしていく……
テレビなどで、植物が生長する早送りの映像等を見た事が有るだろうか?
それと同じ事が、今目の前で、リアルタイムで行われていた。
そして──
リョウとシリカが見守る中、その涙滴型の蕾は徐々にほころび、ついに、しゃらんと言う鈴のような音と共に花開いた。
リョウとシリカは暫くその神秘的な情景に見とれていたが、やがてシリカが確認するようにこちらを向く。その目に宿るのは希望と、少しの不安。
リョウが腕を組んでしっかりと頷くと、シリカも頷きかえし意を決したのか右手をのばす。
そしてシリカの右手が細い茎に触れた瞬間、それは砕けるように中ほどから茎が切れ、シリカの手の中に中央に真珠色の滴を溜めた白い花だけを残した。
確認のためシリカが指先でクリックし、出現させたネームウィンドウには確かに、《プネウマの花》と表示されていた。
「これで……ピナを生き返らせられるんですね……」
「おう。その花の滴を《心アイテム》に振りかければ、一発OKだ。だがまあ、此処じゃ帰り道に強いモンスターが多すぎて少々不安だからな。やるのは帰ってからにするとしよう。ってわけで、帰りも急ぐぞ?」
「はい!」
頷き、アイテム欄に花をしまうシリカの目には、歓喜と希望とに染まっていた。これからまた怖い思いをさせると思うとリョウは少々罪悪感が湧いたが。仕方ないと割り切る。
自分が守り切ればいい話だし特に不安も無い。
幸いなことに、帰り道では殆どモンスターにエンカウントしなかった。
駆け降りるように進み、麓に到達する。
後は街道を一時間歩くだけ。それでまたピナに会える──。
弾む胸を抑えつつ、心なしか軽くなった身体で若干スキップしながら小川に掛かる橋を渡ろうとした時突然、後ろから肩にリョウの手が掛けられた。
どきりとして振り返ると、リョウは何と言うかめんどくさそうな顔をして、橋の向こう側の道の両脇にある木立の方を睨んでいる。
やがて、首の後ろに手を回しながら呆れた様な声が吐き出された。
「おいそこの木の陰。バレバレだ、出てこい」
「え…………?」
シリカは慌ててリョウの見る方向に目を凝らすが、人影は見えない。
緊迫した数秒の後、不意に木の葉ががさりと動いた。
同時にプレイヤーを示すカーソルが表示されるが、色はグリーンなので少なくとも犯罪者では無い。
橋の向こうに姿を現したのは、シリカの知っている顔だった。
「ろ……ロザリアさん!?何でこんな所に……!?」
そう、出て来たのはロザリアだった。赤い髪。エナメル上に輝く黒のレザーアーマーを装備し、片手には細身の十字槍を携えている。
ロザリアは唇の片側を釣り上げた笑いを浮かべると、シリカを無視してリョウの方を向く。
「アタシのハイディングを見破るなんて、なかなか高い策敵スキルね、あなどってたかしら?」
「さあな。お姉さんが高いと思ってるそのスキルが、実は結構低かっただけかもな」
リョウの皮肉を気にした様子も無く、ロザリアは今度はシリカに視線を移す。
「その様子だとし、首尾よく《プネウマの花》をゲットできたみたいね。おめでと、シリカちゃん」
ロザリアは明らかに何かを企んでいる。直感でそれを感じたシリカは数歩後ずさる。
約一秒後、その予想を裏切らないロザリアの言葉が続けられた。
「じゃ、さっそくその花を渡してちょうだい」
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