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髑髏天使

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第二十二話 主天その十二


「それで読んだ」
「へえ、御前の祖父さんって結構インテリだったんだな」
「そうした本持ってるなんてな」
「俺はそんなに本は読まないがな」
 次に自分のことも話すのだった。
「だが祖父さんはかなりの読書家だった」
「御前の祖父さんってあれだろ?確かサイドカー乗ってたっていう」
「御前が今乗ってるあのサイドカーだよな」
「あれも祖父さんのものだ」
 そうだとここでも答えるのだった。
「今も乗っている。いい乗り心地だ」
「何か凄い祖父さんだな」
「そんなの乗り回していてしかもインテリだったなんてよ」
「職業は軍人だった」
 それだったというのだ。
「軍がなくなってからは少し農業をやっていたが警察予備隊ができてそこに入った」
「で、自衛隊に入ったってわけか」
「そうなるよな」
「そういうことだ。それでサイドカーにも乗っていた」
「ああ、じゃあ陸軍だったんだな」
「サイドカーってことは」
 何人かはサイドカーということからこのことを察したのだった。
「陸王だよな、確か」
「あれに乗ってたのかよ」
「そうらしいな。昔そんな話をしていた」
 牧村は彼等との話から祖父の昔話を思い出した。彼にとっては遥かな昔の話だがそれと共に非常に懐かしい話でもあるものだった。
「そうしたバイクに乗っているとな」
「だよな。やっぱり凄いよ」
「バイクだぜ」
「士官学校を出てそれに乗るようになったらしいな」
「余計凄いよな」
「ああ」
 彼等は士官学校と聞いてさらに驚いた。この場合の士官学校とは陸軍士官学校のことだ。言わずと知れた陸軍の最高幹部の登竜門である。
「あそこ東大入るより難しかったんだぞ」
「そんなところに入っていたのかよ、御前の祖父さん」
「そうらしい」
 だが牧村はそれを聞いても特に何も思っていないようだった。言葉はいつもと変わらない全く以って落ち着いたものであった。
「そんな話も覚えている」
「すげえ祖父さんだよ」
「小泉八雲読んでいてサイドカーにも乗って」
「しかも士官学校出てたなんてよ」
「立派な祖父さんだったんだな」
「今では只の隠居だがな」
 今の祖父のことも話すのだった。
「大阪で子供達に剣道を教えている」
「おいおい、今度は剣道かよ」
「さらに凄いな」
 皆それを聞いてさらに驚くのだった。
「格好いいにも程があるぞ」
「そこまでいくかよ」
「そうか」
 そうしたことまで言われても相変わらずの態度の牧村だった。
「あの祖父さんはそこまで格好がいいのか」
「っていうか完璧じゃねえか」
「で、剣道の方はどうなんだよ」
「八段らしい」
 剣道の段の話にもなるのだった。
「それも人を教えられる立場だそうだ」
「八段か」
「さらにすげえ」
「そんな格好いい祖父さんがいたのかよ」
 彼等は驚くばかりだった。その目は尊敬する輝きで満ちている。
「そういうふうになりたいよな」
「だよなあ」
「俺にとっては怖い祖父さんだった」 
 しかし牧村はその祖父についてこう言うのだった。
「子供の頃どれだけ躾けられたかわからない」
「まあ陸軍だしな」
「怖いよな、確かにな」
 帝国陸軍の軍規軍律の厳正さは伝説の域にある。確かに中には不心得者もいた。しかしその殆どは恐ろしいまでに正義と道徳を重んじ義侠心を愛した者達だったのだ。それがかえって祖国を不幸にやってしまったという見方もできないわけではないにしろだ。 
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