| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

髑髏天使

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三話 日々その八


 この勝負は蛇男の勝利だった。髑髏天使の剣は弾き返された。かろうじて手放すことはなかったがそれでも姿勢を大きく崩すことになってしまった。
「くっ・・・・・・」
「剣はいい」
 またこのことを髑髏天使に告げる。
「しかしだ」
「しかし。何だ」
「剣の腕はまだ隙があるな」
 今度の言葉はこれであった。
「筋もいいのだな」
「俺が未熟だというのか」
「少なくとも俺の鞭には勝てはしない」
 彼が冷然とした言葉を放つ番であった。
「今の腕ではな」
「俺が勝てないというのか」
「そうだ」
 はっきりと言い切ってみせてきたのであった。
「今の腕ではな」
「俺は髑髏天使だ」
 このことを述べて言い返す。魔物を倒す髑髏天使、彼の中にその自覚が芽生えようとしていたのであった。だからこその言葉だった。
「その俺が。敗れるというのか」
「今のままではな」
 笑ってはいなかったし嘲笑もなかった。ただ事実のみを述べた言葉であったがだからこそ髑髏天使の心にも響くものがあった。はっきりと。
「俺には勝てはしない」
「まだ言うか」
 怒りと共にまた剣を振るう。しかしそれも蛇の鞭の前に防がれるだけだった。
「くっ・・・・・・」
「無駄だ」
 また髑髏天使に告げる。
「その程度ではな。何度も言うが俺には勝てない」
「いや、勝つ」
 言葉は強いものだった。言葉は。
「俺は髑髏天使だ。だからこそ」
「勝つというのだな」
「そうだ、勝つ」
 言いながらまたしても剣を振るう。何度も何度も防がれようとも。しかしそれでも剣を振るう。何故か蛇男は自分から攻撃を浴びせようとはしないのだった。
「何があってもな」
「そうか、勝つというのか」
「貴様にな」
 言いながら剣を縦横に振るう。
「俺は・・・・・・勝つのだ」
「わかった」
 彼のここまでの言葉を聞いたからであろうか。蛇男は急に動きを止めるのだった。そうしてすっと後ろに下がり間合いを離してきた。音もなく。
「ではまた会おう」
「!?どういうつもりだ」
「今は貴様を倒す時ではないということだ」
 静かにこう語る。
「今はな」
「情けをかけたというのか?」
「それもまた違う」
 今の髑髏天使の言葉もまた否定するのであった。
「それもまたな」
「違うというのか。一体」
「また会おうと言った筈だ」
 また彼に言う。
「またな。会おう」
「だからどうしてだというのだ」
 いぶかしむ顔で蛇男に対して問う。表情は髑髏なのでわかりはしない。しかしそれは声に出ていた。髑髏天使としてでだけではなく牧村来期の声にもなっていた。
「俺を今ここで倒さないというのは」
「これが俺の考えだ」
「考えだと」
「敵を倒すがその敵を選ぶのだ」
 これが彼の考えであるというのだ。
「強い敵をな。倒すのが好きなのだ」
「強い敵をか」
「はっきりと言っておこう」
 厳然とした言葉になってきていた。
「今の貴様では俺の相手にはならない」
「まだ言うか、この俺を」
「己を知ることも実力のうちだと言っておこう」
 怒りを覚え前に出ようとしてきた彼に対してまた言うのだった。
「それだけだ。ではな」
「また会うのだな」
「そうだ」
 姿を消しつつまた告げたのだった。
「またここに来るのだ。強くなったその時にな」
「わかった。ではまた来る」
 蛇男を見据えながら語る。
「貴様を倒しにな」
「そうだ。また来るのだ」
 姿は消したがそれでも声は聞こえていた。
「またな。その時にこそ強くなって来るのだ」
「わかったと言っておこう」
 その場に立ったまま姿を消した蛇男に告げる。
「今はな」
 蛇男の気配は完全に消え髑髏天使だけが残った。彼はただ一人そこに立ち尽くしていた。牧村に戻った時その顔には苦々しいものが満ちていた。その顔で誰もいない緑に囲まれたハイウェイに立っていたのだった。その苦い顔のままで。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧