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髑髏天使

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第十九話 人狼その五


「充分だ」
「ならいいわ。それにしてもよ」
 そしてそのうえでまた言うのだった。
「最近少しずつだけれど雰囲気も変わってきてるわね」
「雰囲気がか」
「ええ、変わってきてるわ」
 このことを彼に告げるのだった。
「何か余計に鋭くなって」
「鋭くなってか」
「前を見ている?」
 まずはこう言った。
「いえ、むしろ」
「むしろ。何だ」
「本能から闘いを見ている感じかしら」
 今の牧村を見ながら考えつつ出した言葉だった。
「最近の牧村君ってね」
「本能か」
「私の気のせいかも知れないけれど」
 そしてこうも言うのだった。
「そんなふうになってきているわ」
「最近似たようなことを言われる」
 牧村は若奈の言葉を聞いてぽつりと言葉を出した。
「最近な」
「ふうん、他の人にも言われるのね」
「何故かな。どうしてかはわからないがな」
「自分が変わるのって自分自身じゃわからなかったりするのよ」
「自分ではか」
「こんな言葉言われたことがあるのよ」
 若奈は言葉を少し寄り道させてみせた。
「目は自分自身は見えないってね」
「そうだな。他人は見えるがな」
「それこそ鏡がないと見えないから」
 鏡というのだった。ここで。
「だからね。難しいのよね」
「そして自分で気付かなければどうしようもないな」
「そうなのよね。おまけにね」 
 若奈はまた難しい顔をして述べたのだった。
「何でもそうなのよね。まず自分で気付かないとね」
「それはフェシングやテニスだけではないしな」
「お料理もよ」
 若奈の本職である。彼女が家の喫茶店を継ぐことはもう決まっている。それは彼女が三人姉妹の長女であるからだ。そして彼女もそれを受け入れている。
「自分で気付かないと駄目なのよね」
「コーヒー一つ淹れるのもそうだな」
「コーヒー一つだって深いからね」 
 その深さをわからない彼女ではなかった。
「それこそ淹れ方一つで味もかなり変わるから」
「その通りだ。そしてそれを淹れることもな」
「自分で気付かないとね」
 やはりそれもだと話されるのだった。
「駄目なのよね。本当に厄介よね」
「そうだな。そしてできたらだ」
「全然違ってくるのよね」
「少しでも変われば全く違ったものになる」
 言いながら素振りを続ける。その間目の前の鏡から目を離さない。そこには顔中から汗を滴らせている自分自身がいた。そしてその自分自身をじっと見ていた。
「全くな」
「そうよね。牧村君フェシング全然違ってきてるわよ」
「最初と比べてだな」
「ええ。もう別人」
 こうまで言う若奈だった。
「剣捌きだけでなくフットワークや身体の動き全体がね」
「剣はただ剣を操るだけじゃない」
 それだけではない。これはフェシングだけではなかった。
「身体の動き全体が大事だからな」
「テニスの動きもちゃんと出てるわね」
 若奈はそれも見て言うのだった。
「今の素振りにも」
「お互いを影響させ合う」 
 牧村の言葉だ。 
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