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未来を見据える写輪の瞳

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八話

 その日、死の森にいた木の葉の忍。その中でも上忍以上の者が火影によって招集された。そこで中忍第二次試験試験管であるみたらしアンコより一つの情報がもたらされた。それは……

 「あの大蛇丸が……この中忍試験に!?」

 木の葉には他里にまでその名をとどろかす伝説の三忍と呼ばれる忍が居る。その中の一人。今は抜け人と成り各国で指名手配されているS級の犯罪者、大蛇丸がこの中忍試験に潜伏しているというのだ。

 「しかも狙いは……」

 「あのうちはか」

 大蛇丸がアンコに語ったその目的。それはうちは一族の生き残り、うちはサスケを手に入れることだった。しかも、既にサスケには大蛇丸が生み出した呪印が刻まれているとのこと。潜伏を見抜けなかったこともそうだが、完全にしてやられた。

 「奴の要求は中忍試験を中止せずに行い続けることじゃ。それに、うちはサスケを入手する以外にも何か企んでおるのかもしれん。各々、警戒を怠るな!」

 「「「は!」」」

 次々と部屋を出ていく流れに乗って、カカシも部屋を後にする。しかし、カカシの胸中にはとある疑問が渦巻いていた。あのとき感じた悪寒の原因はこれだったのか、と。

 (いや、違う)

 確かに、三忍は五影クラスの実力者達だ。カカシも数度だが、彼等の戦闘を目にしたことがあるし人と成りも少しは知っている。大蛇丸は三忍の中でも最強とされる人物であり、そんな人物が里を襲うとなれば大事であることは間違いではない。だが、それでもカカシは悪寒の原因は他にあると断じる。

 (一体、何が起こるっていうんだ……)

 だが、真実はまだカカシにも分からない。







 数日が経ち、いよいよ第二次試験も大詰めとなった。既に塔には幾組もの合格者が到達しており、残り時間はそう長くない。木の葉の下忍組も、先ほど最後の組であるカカシ班が無事到着した所だ。

 「カカシィ! 新人でありながら第二次試験も合格するとは、さすが俺の永遠のライバルの教え子達だ!」

 「まぁね。アイツ等も頑張ったんでしょ」

 サスケに施された呪印。あの時の悪寒。不安は絶えないが自分の部下が無事試験に合格したのは嬉しいのだろう。僅かにだが、カカシの顔も笑みを携えている。
 だが、合格組の担当上忍に伝えられた情報より、そうやすやすと喜んでいるわけにはいかなくなった。

 「これより、急遽中忍第三次試験を行う!」

 みたらしアンコが下忍達へ向けて言い放ったこれこそが、上忍達から喜びを消すことになった原因だ。本来の予定では、これより一ヶ月の時間を置いて中忍試験本選へ移行する手はずだった。だが、予想外なことにこれまでの予選を潜り抜けた班が多く出てしまった。本選は各国から大名等が観戦に来ることもあり、余り時間をとることはできない。よって、急遽第三次試験を実施し本選出場者の削減を行わなければいけなくなったのだ。
 しかも、第三次試験は今この場ですぐに行われる。

 「えー、これより試験官は私月光ハヤテが務めさせていただきます」

 アンコの隣に現れる顔色の悪い男。ハヤテが第三次試験のルール説明を始めるも、カカシはそれを上の空で聞いていた。見つめるのは自分が受け持つ三人の子供たち。彼等がこの塔に辿り着いたのは最終日……それも終了時間にほど近い辺りだ。
 早期に合格した者達はこの塔でゆっくり休息することが出来たが、彼等はつい先ほどまで森の中でサバイバルをしていたのだ。消耗も大きいはず。それにサスケだ。今すぐにでも呪印を封印しておきたいところだが、試験がある以上そうもいかない。
 とりあえず、注意するよう促すことしかできないカカシは大きくため息をついた。

 



 「勝者、うちはサスケ!」

 初っ端に戦いをしなければならないサスケだったが、周囲の不安をよそに見事勝利を収めた。とはいえ、一度呪印が発動しかけたため薄氷の上の、といっていい内容だったが。

 「サスケ。呪印を封印するぞ、付いてくるんだ」

 「ああ」

 戦闘でチャクラを消費したせいか、サスケは声からも疲労が感じ取れる。とはいえ、封印を後回しにしておくこともできないため、カカシはサスケを伴いすぐさまその場を後にした。



 「これでよし」

 あらかじめ用意されていた部屋へと移動したカカシはすぐさま呪印封印の準備を始めた。サスケを床に座らせ、自らの血を用いて封印術の術式を描いていく。それも先ほどようやく終わり、いよいよ本番に入る所だ。

 「耐えろよ」

 ――――封印術、封邪法印!

 チャクラが送り込まれると術式は急に蠢きだしサスケの体を駆けのぼり、一路呪印を目指して突き進む。

 「ぐ、あ……ああああああああ!」

 封印に対して呪印が抵抗しているのだろう。サスケが苦悶の表情を浮かべながら絶叫する。やがて、術式の全てが呪印の元へと辿り着き、封印が終わった。

 「よく耐えたな」

 「あたり、まえだ」

 「今は休め」

 「ああ」

 疲労もついに限界に達したのだろう。サスケは死んだかのように眠り始めた。カカシはそれを見届け顔に一つ笑みを浮かべる。そして、サスケの体を担ぎあげ病室へと運ぼうとする。そこで……

 「あら、封印術も使える様になったのねえ」

 突如投げかけられたその声に、その身を固まらせた。





 ゆっくりと振り向いたその先にいるのは顔色の悪い一人の男。その男のヘビを想わせる目つき。間違いない、この男こそが大蛇丸だ。

 「大蛇丸……」

 背負いかけていたサスケを地面に横たわらせすぐさま戦闘態勢に移行するカカシ。一連の動きを笑みを浮かべて見ていた大蛇丸はニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。

 「私の呪印を封印するなんてやるじゃない。さすがは、といったところかしら」

 「ごたくはいい。大蛇丸……お前の目的は一体何だ!」

 額当てを押し上げ写輪眼を解放する。殺気も漏れ始め、今にも襲いかかるような気配をカカシは発し始める。しかし、大蛇丸はそれを心地いいものでも受けているかのように平然と受け流す。

 「フフフ、いいわねぇその左目。うらやましいわぁ」

 大蛇丸の視線がカカシの左目にある写輪眼を捕える。やはり、目的の一つはサスケ。もといサスケの身に宿る写輪眼。

 「でもねぇ、もう貴方だけじゃないのよ? その目を持っているのは」

 大蛇丸が自身の長い髪をかきあげる。その髪に今まで隠れていた大蛇丸の右目。そこには……カカシの左目と同じ、三つの勾玉を浮かべる紅き瞳が存在していた。

 「それは、写輪眼!?」

 「ええ。貴方と同じ、ね」

 馬鹿な、と思う反面カカシはありえないことではないと感じていた。確かに、写輪眼は数ある血継限界の中でも三大瞳術と称されるほどに強力なものだ。無論、木の葉はその秘密が他里にもれぬよう、うちは一族の死者などの処理には充分注意している。
 だが、かつて起きた忍界大戦。その大戦には当然うちはも参戦しており、多くの死者が出た筈だ。その多くの死者を、木の葉が全て確保できていたとは到底思えない。さらにいえば大蛇丸は元木の葉。里の目を欺きうちはの目を手に入れたという可能性もある。

 「写輪眼を手に入れたというなら、何故サスケを狙う!」

 「それは貴方が一番よく分かっているはずよ。私や貴方には、この目の力は強すぎる」

 写輪眼はうちは一族固有のもの。移植すれば他者でも扱うことはできるが、当然弊害がある。チャクラの大量消費にスタミナの浪費。どちらも、忍の戦いに置いて致命的だ。

 「だからね、欲しいのよ。この目を使いこなすためにうちはの生き残り、その体が」

 「させると思うか?」

 カカシはすばやく印を結び、右手に破壊の雷を宿らせる。雷切。カカシがもっとも信頼する術だ。

 「私とやりあうつもり? おもしろいじゃない。少し遊んで……」

 「…………?」

 不自然に切れた大蛇丸の言葉にカカシは眉をしかめる。そして、写輪眼で捕える大蛇丸のチャクラの。その性質が、変わった。何が、とはっきり言うことはできないが確かに変わったのだ。

 「ぐっ!」

 大蛇丸の変化を感じ取ると同時に、カカシの左目に鋭い痛みが走った。思わず顔をゆがめる程の痛みだというのに、視線を大蛇丸から外すことが出来ない。

 「……シ……カシ」

 すると、大蛇丸がうわ言のように何かを呟き始めた。視線は未だ外すことが出来ず、痛みも収まるどころか強まっていく。

 「カ……カシ。カ、カシ。……カカシ。 カカシィ!」

 「大蛇丸……? いや。お前は一体、誰だ?」

 うわ言はやがて明確な言葉と成り、カカシの名を呼ぶ。憎悪の念を込めて。カカシは、目の前の人物が完全に大蛇丸では無い何者かになったことを悟った。

 「カカシ。よくも……よくもぉおおおおお!」

 我を忘れたかのようにして猛然と襲いかかって来る何者かに、カカシは咄嗟の対応が遅れてしまい、胸ぐらを掴まれてしまう。左目に走った一際鋭い痛みに、体が咄嗟に動かなかったのだ。
 だが、それでもすぐに次の対応をとる。相手に押され後ろに倒れる様に見せかけ、巴投げの要領で相手を後方へと投げ飛ばした。

 「カカシ! お前が、お前が!」

 「お前、は……」

 一体誰なのか。そう言おうとしたのに、カカシの口は自然と止まっていた。いや、左目から流れる涙が、カカシの口を止めたのだ。一体、この涙は何なのか。何故、泣いているのか。そう思ったその時、カカシはこの涙の意味を知った。

 「オ、ビト……?」

 己の左目から感じたのは歓喜の念だった。友から受け継いだこの目が歓喜を感じる相手など、”元の持ち主”を置いて他にいまい。

 「カカシィ……お前が、お前がリンを守らなかった。そして……そして! 俺が、俺の想いが……アイツを殺した!」

 リン。その名が出てきたことで、カカシは相手がオビトであることを確信した。うちはオビト。カカシの友人であり、写輪眼の元々の持ち主。
 何故、オビトが大蛇丸の体を乗っ取るなどということが出来たのか分からない。だが、それより今大事なのはオビトが発した言葉だ。

 「オビト……お前の想いがリンを殺しただって?」

 「俺は見たんだ! リンが死んだ任務の報告書。リンが、敵に捕らえられた仲間を救い出すために死んだこと! そして! その時の小隊の隊長がお前だったってことを!」

 「それは!」

 間違いではない。確かに、今オビトのいった通りもう一人の仲間であったリンは仲間を救うためにその命を落とし、カカシは隊長として彼女を救うことが出来なかった。だが、それがオビトのせいだということなど絶対にない。

 「俺が、俺が……!」

 だが、オビトの様子を見るに錯乱している節がある。自身に。そしてカカシにも強い怒りと憎しみを持っている今のオビトに、果たして言葉が通じるのだろうか。そんな疑問が、カカシの脳裏をよぎってしまった。

 「ぐっ……! カカシ! 俺は、お前を許せない! リンを救えなかった。お前が!」

 「オビト!」

 両手で頭を押さえる様にして苦しみ出したオビト。カカシはそれを見て咄嗟に駆け寄ろうとするが、殺気のこもった目で制される。

 「待っていろカカシ……必ず、必ずだ!」

 「オビト! 待ってくれ、オビトォ!」

 ――――――必ず、お前はこの手で!

 オビトは去った。カカシは一人、絶望に打ちひしがれる。かつての友は、最悪の敵と成って蘇った。
 中忍試験本選まであと一ヶ月。おそらくその時に、二つの写輪の瞳は再び対峙するだろう。 
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