髑髏天使
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第十八話 力天その三
「本当にね」
「それを見たい。これからな」
「それもわからないんだよね」
声は今度は死神にそれを向けてきていた。姿は見えないままであるがそれでも声の調子でそれがわかるのだった。
「君ってそんなに人間に興味があったっけ」
「人間は死ぬものだ」
死ぬからこそ人間である。死なない人間なぞこの世には存在しない。それはそのまま神と人間を分けるものの一つでもあるのである。
「それだけだった」
「言葉が過去形になってるよ」
「わかっている。あえて言ったからな」
だからなのだった。
「今はな」
「死神の仕事は死者を冥府に送ることだからね」
「案内人だ」
大抵の死者は運命によって死ぬ。その死者を迎えてそのうえで冥界まで案内する。普段オ死神の仕事はそれだけなのである。戦うことはないのだ。
「そして人間はその案内される存在だ。それだけだった」
「それだけだったよね。けれど今の君は違うね」
「興味があるからだね」
「そういうことだ。それではだ」
ここで立つのだった。闇の中で。
「行く。またな」
「その人間の世界だね」
「そうだ。魔物の気配がまたした」
彼は静かに述べた。
「主神は何と仰ってる?」
「さあ。いつも通りじゃないの?」
声はあまりはっきりとは答えなかった。
「やっぱり。君任せだと思うよ」
「そうか。いつもと同じか」
「だってあれじゃない」
声の言葉は続く。
「あの人最近忙しいし」
「また奥方と衝突されているのか」
「みたいだよ。豊穣の女神との浮気がばれたみたいでね」
「相変わらずお好きなことだ」
死神はそれを聞いて静かに述べた。
「女なぞの何処がいいのか」
「いいよ。かなりね」
しかし声はこう言って笑うのだった。
「あれこそがこの世での最高の喜びだね」
「私はそういう身体ではないからな」
やはり女のことに対しては素っ気無いのだった。全く興味がないといった顔である。
「女を愛することも男を愛することもない」
「何かそれって物凄く損じゃない?」
「別にな。元からそうだから何の関係もない」
言葉の調子も変わらない。
「それだけだ。ではまたな」
「何だよ、もう行くの」
「私は話すことは終わった」
「困るなあ。僕最近退屈で仕方ないのに」
「退屈ならその女とでも遊んでいろ」
皮肉にも聞こえる言葉だが今は決してそうではなかった。彼にしてみれば女には何の興味もないものだからやはりどうでもいいと思っての言葉なのだ。
「好きなだけな」
「そうしようかな」
「それに飽きたのなら男と遊べ」
「ああ、それもあるね」
言われて気付いたような感じだった。
「男もいいんだよね」
「男とも遊ぶのだな」
「僕は博愛主義者だから」
また笑う声だった。
「そっちも好きなんだね」
「好きなようにしろ」
「うん。じゃあそうするよ」
「どのみち私には関係のない話だ」
「じゃあ今度飲もう」
声は去ろうとする死神に話題を変えてきた。
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